13 選択、曽倉の思い
軽井に仕向けられて発芽先輩の事が僕は好きだと自覚して、そんな軽井は部活に来れないと言って今日から休みで、その報告にも行かないといけない、そう思って部室までやってきた。
「大丈夫、平常心平常心。僕が自覚したって先輩後輩の関係が変わるわけじゃないんだから」
そうつぶやき、深呼吸をして部室に入った。部室の中には椅子の上でボーっとしてる発芽先輩だけがいた。かわいい……じゃ無くて! 発芽先輩は何か考えてるように虚空を見ててこちらに気が付いていないみたいだ。どうしたんだろう?
そう思ってみてると不意に発芽先輩と目が合った。さっと頬が赤くなった気がしたけど、気のせいかな?
「こ、後輩君! いつからそこに?」
「えっ!? つ、ついさっきですよ。発芽先輩はいつから?」
「わ、私もちょっと前に来たばかりだよ」
「そ、そうですか」
何故か発芽先輩も僕はどもってしまって、それがなぜかおかしくて二人して笑ってしまった。
「なんでかおかしいね。普段通りのはずなのに」
「そうですね。あ、十円借りていたの返しますね」
「ああ、そうだね。この前は解毒剤を作るので手いっぱいだったから忘れてたよ」
「忘れないでくださいよ」
「エヘヘ、でも自動販売機を思い出したらのど乾いてきちゃったな」
「十円ありますか?」
「んー、あったかいお茶の気分かな」
「じゃあ、ポットですね。僕も発芽先輩とお話しできるからポットの方が良いです」
「えっ、あ、うん……私も」
二人で会話という流れで発芽先輩が赤くなって。自分が恥ずかしいことを言ってたことに気が付いて僕も体温が上がった気がする。
「じゃあ、後輩君、お話しよっか!」
「そうですね、先輩」
でも、発芽先輩の赤くなった顔で笑ってくれるから。僕も自然と笑顔になるのだった。
それからはお互い簡単な報告とか、そんな話をした。
「軽井が当分これなくなるらしいです」
「えっ! 軽井君もなんだ!」
「発芽先輩、もってことはまさか」
「そのまさかだよー。美稲ちゃんも来れないんだって」
「軽井が何で来れないのかは聞いてないんですけど」
「もしかして二人して何か企んでるのかな?」
軽井が来れない話をしたら、花咲先輩も当分発明部に来れないことを聞いた。
「花咲先輩って生徒会なんですか!」
「そうだよ! いろんな部活動があるのは実は美稲ちゃんのおかげだったりするんだ。部活申請のハードルを下げてくれたの!」
「ああ、たしかに男女ともに人気が出そうですね。かっこいいし、クールとか言われてそうだ」
「美稲ちゃんはかわいいんだけどねー」
花咲先輩の意外な一面を聞いた。でもその活動はほぼ確実にこの部活のためなんだろうなー、と思った。
「後輩君は美稲ちゃんをかっこいいと思うんだ」
「いや、第三者から見たら、という話ですよ? ここに居るときの花咲先輩は自重してないですから、かわいいというか面白いというか」
「……ふーん」
花咲先輩の印象を話したら発芽先輩が不機嫌になった。そうしたら先輩がむっすりしながら自分について聞いて来た。
「……私は? どう思うの?」
「えっ!? 発芽先輩ですか?」
「後輩君の美稲ちゃんの印象を聞いてたらモヤっとした。だから教えて!」
「え、えっと。すごい人だなって思いました。普通は便利さ、効率を求めていくはずなのに、不便を楽しむってことを思いつくことがすごいなって。このポットを見て思ったんです。もしかしたらその時からす……すごいなって思ってたのかもしれないです」
「え、エヘヘ。なんかすごく褒められたよ……あ、ポット!」
「ポット? あ!」
目の前には完全に沸騰してしまったポットがあった。ふと、最初にこの場所に来た時の事を思い出した。あの時も話に夢中になってポットがすごく発熱してたなぁ。
「でも、吹きこぼれしない安心設計。ですよね」
「エヘヘ、同じこと思い出したんだ。初めてここでお話した時のこと」
「じゃあ、あの時と同じように冷めるまで雑談の続きをしましょうか?」
「そうしよう!」
こうして、久しぶりに二人でのんびりした時間を過ごした。これからもこんな日常が……
まてよ、花咲先輩と軽井が当分来れないってことは、
……当分発芽先輩と二人きり!?
これからどうしよう、って発芽先輩も赤くなってる?
「後輩君、明日も来てね! 一人は嫌だよ?」
先輩は涙目でそう言って、こちらを見ていた。そっか、発芽先輩は花咲先輩に会うまではきっと一人ぼっちだったんだろう。そのことを思い出したのかもしれない。それなら、
「もちろんですよ。一人ぼっちにはしませんから」
きっと発芽先輩は僕の事を恋愛対象には見てない。後輩君なんて呼んでいるくらいだから……だから、先輩のために僕は望まれるまま仲のいい後輩でいよう。
軽井「このくそヘタレが」




