12 自覚、曽倉の恋
サブタイトル見て曽倉って誰だっけ? となった人が居ないか心配である。
主人公ですよー!
いつもの部室ではなく、自分たちの教室にて。珍しく残念そうな顔をした軽井がこちらにやってきた。
「どうしたんだ、軽井」
「よっ、あいうえお語の使い手の曽倉じゃないか」
「用がないなら僕は寝るぞ」
「いやいや、冗談だって。寝ようとすんな」
まったく。昨日の言葉が制限される薬の話はやめろよ。かなり恥ずかしかったんだぞ。最終的には筆談にすることであいうえお語は避けることが出来たけどさ……
それはともかくあまり教室では僕と喋らないはずの軽井がやってきたのはなぜだろう。まあ、ほとんど間違いなく発明部関係の事だろうけど。
「まあ、それで用なんだが。発明部にちょっと当分行けそうにないんだ。それを連絡しておこうと思ってな」
「本当にか? 結構楽しんでそうだと思ってたが……何かあるのか?」
「正解。美稲先輩とお近づきになれそうなのに別の方で用事がたまってなー」
言葉の軽さとは裏腹に軽井はかなり残念そうにしている。用事というのが何なのか気になったが深く検索するような事でもないかと考えなおした。
「まあ、それでしばらく発明部に顔出せないんだ」
「了解、先輩たちに伝えておくよ」
結局、しばらく発明部に来れなくなることを連絡しに来ただけみたいだ。それだけかと思ってると軽井はこちらから離れる様子がない。まだ何か言いたいことがあるのだろうか?
「なんだよ? 用はさっきので終わりじゃないのか?」
「まあな、でもせっかくだしボーイズトークでもしよーぜ」
「ボーイズトークって……まあいいけど、何を話すんだ?」
そう言って体を起こすと軽井はニヤッと笑った。何か悪だくみをしているかのような楽し気な笑顔だった。
「いやー前から聞いてみたかったんだけどさ、好きになった理由はなんだ?」
「は?」
何で軽井が僕の好きな人を知っている? というか僕に好きな人がいる前提になっているんだ?
「え~、やっぱ無自覚だったわけか。まあ、だろうと思ったから来たんだがな」
「すまん聞き取れなかったが」
「気にするな、独り言だ。それより本当に分からないのか」
「そもそも僕の好きな人が居ることになってる事から納得がいかないんだが」
これ見よがしにため息をついて行く軽井。そのやれやれっぽい雰囲気を出すのはやめろ。絶妙にムカつく。
「最近、誰かをかわいいと思ったことは無いか? 一緒にいて楽しいと思える人は居ないか? 誰かを目で追ってしまうとかないか? 隣に誰かが居ることが自然になってたりしないか? ここまでの話を聞いて真っ先に思い浮かべるような女の子、居ないか?」
「……それは」
何故だろう、自然に発芽先輩が思い浮かんだ。不思議な発明品で平凡な生活になると思っていた僕の生活を思いっきり変化させてくれた先輩。その動きが、目が、笑顔が、かわいいと思って、つい目で追ってて、不思議な発明品の話を聞くだけで楽しくて、発明部にずっと行っているから、隣にいるのが自然になってて……
思えば、初めて会って、部室に連れていかれて、非常識な発明品と非凡で平凡な日々を予感した時から僕は……
「その顔はやっと気が付いたって感じか」
思考に埋もれていると上から声が降ってきた。ニヤッと笑った軽井の声だ。
「自覚したら、僕すごくキモいなって」
かわいいだとか、ずっと頭の中で思ってた気がする。かなり恥ずかしい。
「何言ってんだ? お前の目の前に好きな人にかわいいって連呼して下の名前で呼ばせるように誘導した奴がいるんだぞ。曽倉なんかまだまだ恋愛初心者ってとこだな」
「……………………それもそうだな」
「沈黙がなげーよ、こら」
そう言われると目の前の軽井がやばい奴に思えて沈黙になったとは言えないな。まあ、それはともかく
「なんか、ありがとうな。気にかけてもらってたみたいだしな」
「バーカ、あんまりにも恋愛に関して疎すぎて放っとけなかっただけだ」
礼だけは言っておこうかな。
「じゃあ、ボーイズトークと行きますか」
「バーカ、曽倉、お前に自覚させればいいんだよ、こっちは」
「だが、僕の方だけやられっぱなしというのはずるくないか」
「初対面の時のことを覚えてるか? お前は俺と美稲先輩で組ませて後ろでニヤついていたの分かってるからな」
チッ、こいつに関して聞いてやろうと思ったが失敗か。
まあ、いいかな。
軽井は席を立ってどこかへ去っていった。だが、最後に一言爆弾を残していった。
「じゃあ、今日も発明部で頑張ってくれ、発芽先輩と仲良くな」
「なっ! お前なぁ!」
僕は、発芽先輩と平常心のままでいられるだろうか……まあ、花咲先輩もいるし大丈夫……だよな?




