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不便の発明家  作者: アオニシキ
本編
11/19

11 しゃべりたくなくなる薬


 発明部部室にて、いつもは和気藹々とした穏やかな会話とともにお茶を沸かしているその空間には不釣り合いなほど重い空気が流れていた。原因は目の前のすごく不機嫌な花咲先輩である。さっきからずっと黙ってる。


 発芽先輩は何やら二つの液体を混ぜ合わせてるし、軽井は必死で言いたいことをこらえているといった様子だ。日直で少し遅れてきた僕が悪いのか何が起きてこうなったのか全く分からない。


「花咲先輩、何があったんですか?」

「…………」


花咲先輩はこちらをちらりと一瞥して、そのまま視線を机に戻した。その時点で僕の勇気は尽きた。もう触れまい。目に見えている地雷には触れない方が良い。

例え花咲先輩が目線で机の上にある謎の液体を示しているとしてもだ。もう一度言うが目に見えている地雷には触れない方が良い。


「えーと、軽井。何があったんだ?」

「アレを飲めばわかるぞ」

「お前な……」

「あ、後輩君! 助けて!」


 軽井を問いただそうとしていたら発芽先輩がこちらに気が付いたみたいだ。涙目でこちらに寄ってくる。うん、かわいいけどそうじゃない。助けてほしいのはこちらなんだが。主に現状が分からないという意味で。


「何も聞かないでアレを飲んでほしいの!」


 そう言って机の上を指す発芽先輩。結局、原因はあれという事しか分からないんだけど……仕方ないか。


 この雰囲気にした原因となる薬? を飲む。


 ……脳内で十を数えて、特に影響はなさそうなので結局これが何なのか尋ねた。後ろでガッツポーズしている花咲先輩は完全にスルーする。この情報だけで嫌な予感しかないのだが……


「え、おおうういああんあんえうあ(で、この薬は何なんですか)」

「「ブハッ」」

「い、おういうおおえうあ! おおああえんえう! (ちょ、どういうことですか! 言葉が変です!」

「ちょ、曽倉。マジでしゃべるな。呼吸困難になる……!」

「うん。説明するから少し落ち着いて」

「あっいあああああいえんあいあいおおおおいえああああっあいううあああいあいあお(さっきから花咲先輩が一言もしゃべらなかった理由が分かりましたよ……」


 僕から言葉が消えました。これはひどくないか!


「え、あおえうお(で、まとめると)」

「この薬を飲むと母音しかしゃべれなくなるんだ!」

「うえんおおおいおいえういあいあう(不便を通り越してる気がします)」

「まあ、正確に言うと『あ』『い』『う』『え』『お』『ん』あとは小さい『つ』かなー。喋れるのは」

「曽倉、しっかりした顔で言っても間抜けにしか見えないぞ」


 僕は普通にしゃべってるつもりだが、口から出るのは何とも間抜けな言葉の並びである。分かっていたが軽井に言われるとムカつくな。

 まあ、花咲先輩が不機嫌で黙っていた理由もわかった。この薬を飲んじゃったんだな。そこで軽井にいろいろ言われたんだろう。八芽先輩は恨んでないと思う。だって花咲先輩だし。


「いたずら用として完璧すぎる薬ですよね。愛ちゃん先輩グッドです。恥ずかしがる美稲先輩を見れました」

「…………」

「あうい、おあえあ(軽井、お前な)」


後ろに控えた花咲先輩に気が付いてないのだろうか、軽井は。まあ、この後めちゃくちゃ鈍い音が部室に響いたことだけを伝えておく。


「え、おえあいうおおうんえうあ?(で、これはいつ戻るんですか?)」

「後輩君。この状態でもしゃべるんだね」


 それは、軽井がしゃべれる状態じゃないというのもあるんですが。


「えっあうおうえんえうああえ(せっかくの不便ですからね)」

「ごめん。きっと嬉しいこと言ってくれてると思うんだけど、何言ってるのか分からない」

「あんえんえう(残念です)」

「んー、せっかくだからお話したいけどなぁ」

「あえおえいえうあ(誰のせいですか)」


後ろで同じ目にあったはずの花咲先輩が笑いをこらえているけど気にしない方向で。むしろ笑ってくれたらひどく可笑しいことになりそうでそれを希望するところである。

とはいえ、言いたいことが伝わらないのは不便だな。今までの奴とは別次元にひどい気がする。

……っと、そういえばメモ帳があったな。


『ところで、いつ戻るんですか』

「なるほど、筆談と来ましたか」

『こういうのも味がありますね』

「エヘヘ、そうだね。あ、今解毒剤作ってるからもうちょっとで治せるよ」

『こういうのは解毒剤とセットで作ってて下さい』

『まったく、曽倉の言う通りだぞ。今回はシャレになってないからな』


 横から花咲先輩がスマホのメモ帳で会話に加わってきた。あと思ってた以上に発芽先輩にも怒ってた。意外だな。


『花咲先輩は発芽先輩に注意出来たんだなぁ』

『則義と同じようにしてやろうか』

『ごめんなさい』


 謝るが勝ちである。プライドなんてない。めっちゃ鋭い目に睨まれたら誰もがそうなると思う。


 結局、発芽先輩が解毒剤を作って戻れたけど、この薬は半永久的に封印になった。永久ではないのは失敗作で本当に作りたいものが別にあったらしい。いろいろと不安だなぁ……


 とりあえず、部室の謎の飲み物には気を付けようと思ったのである。





あんな状態でも平然と会話し続ける主人公の図太さよ……

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