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5/1(土)『四通目の殺人予告』

 昨日の事、「助けてほしい」と彼は真剣な顔であの時、言った。

 彼の名前は斎藤忍。つい最近までごく普通の高校生だった。だけど、今は私達と一緒にいる。

 身長は181cmと背が高く、やる気のない細目が特徴な彼は『自分の為に生きている』と主張している。

 『他人の事は俺には関係ない』とも言っていたが、そうであっても『自分の為』だとかで動いてしまう。

 どうやら、彼の基本的な根は善人のようだ。




5月1日土曜日、ゴールデンウィークの初日

 この交番に一通の封筒が届いた。その封筒にはここの住所は書いてあったものの、送り主の名前も住所も書いていない。

 私は何となく、直感的にこれが何なのか理解した。おそらく、これはアレだ。

 早速、中身を出した。

 中身には一枚の紙のみが入っていた。その紙には『5/2 Blue kill』と緑の字で書かれていた。

 「先輩」

 「どうした?」

 私は封筒に入っていた一枚の紙を先輩に見せる。

 「これは......」

 「そうです......」

 殺人予告。差出人はおそらく、奴だ。

 幸い、ここには彼と彼の契約した悪魔は樋山さんと一緒に巡回に行っている為、この場にはいない。

 「blue kill......

 彼の言う通り、今度、狙われる色はこの色みたいだな」

 「そうですね。彼の推理は正しかった

 それで、例の彼女の件はどうでしたか?」

 「あちらとしては彼に問題を起こしてほしくないみたいだからな

 動き出している筈だ。それと昨日の事もちゃんと上に伝えている

 彼の推理を上の人間が正しいと思っているんだったら本格的に今頃、動いてる

 そうじゃないと思っているのなら、最悪な事態だ

 それでも優先すべきは彼の信頼を落とさないようにするべきだ

 彼は悪魔の契約者、デビルホルダーだからな」

 「そうですね...

 彼は一般人です。まだ、被害者にも加害者にもなっていない今、態々、仕立てあげてしまう必要はないですからね」

 「......斎藤君に肩入れしてるな」

 「そんな事......、ないですよ」

 「そうか?

 まぁ、確かに彼は一般人だ。彼を道から外すのは間違ってる。それを防ぐのも警察の仕事だからな」

 殺人予告が送られてきた今、本部へとすぐさま連絡しなくちゃならない。

 彼の推理が正しければ、明日の3:00か15:00には私達の知らない誰かが殺されてしまう事になる。それを絶対にどうにかしなければいけない。

 本部へと殺人予告の事を伝えた後、

 「ただいま、戻りました」

 その際どいタイミングで彼らが戻ってきた。しかしながら、彼女の姿がない。どうやら、霊体化しているようだ。

 確かにあの姿では外を出歩くのはきついものがある。だから、彼女は姿を消しているのだろう。

 「殺人予告...届いてますか?」

 帰ってきて早々に彼の口から質問が出てきた。

 普通ならこんな物騒な事を平然とは言えないのだが、彼の場合は絶対に逃してはいけないチャンスで送り主は彼にとっての悪であり最悪な災厄である。

 彼の守りたい最愛の失恋相手を未だに諦めきれず、危険回避しなければいけないと思っている。

 だから、彼は当然のようにこういう発言をした。

 これは自身の為だと彼は嘯くものの、これはれっきとした正義だ。

 「.........」

 ここで私は嘘を吐くべきか、本当の事を言うべきか悩んだ。

 何故なら、この事を聞けば彼は危険な方向に走るかもしれないのだから。

 そんな事を悩んでいる私を差し置いて、

 「ああ、来てたぞ」

 先輩はあっさりとその事を話してしまった。

 「先輩」

 「こういうのは隠してても仕方ないだろ

 ちゃんと話しとかないと信頼を落とすって言っただろ

 斎藤君、殺人予告は本部にちゃんと連絡しておいた。だから、動いてくれる筈だ」

 「そうですか...

 やっぱり、俺が行ってもいけませんよね?」

 「当然よ」

 「.........」

 彼は無言のまま、手を強く握り締める。

 彼は警察を信用信頼が出来ないでいる。彼にとっての大切な人が命を狙われているのかもしれないのだ。

 彼は警察を信用していない。口では絶対と言ったとしても彼女の命を守れるという絶対の保証はないのだ。

 彼は警察を信頼していない。現在、勤務している警察がきっちり働いているとしても、気の緩みでミスを冒さない保証がある訳でもない。

 それに相手がきっちりと時間を守るかどうかも分からない。もしかしたら、別の見落としがあるかもしれない。

 だからこそ、彼は自身の推理すら信用も信頼もしていないのかもしれない。

 「心配しなくても私達、警察が付いている。だから、斎藤君は心配しなくても大丈夫だよ」

 と樋山さんが彼に対して宥めるように言葉を掛ける。

 「そうですね......」

 しかしながら、彼の表情は未だに固い。

 「大丈夫だよ」なんて言葉は今の彼にとって何一つ、身に入る言葉ではない。

◇◇◇◇

 時刻10:00頃の事、ご主人様と樋山さんの三人で見廻りに出た。

 流石にこのメイド服のままで外を出歩くのはいくら田舎で人があまりいないといえど、目立ってしまうし、キツいものがある。

 だから、姿を消して側について廻る事にした。

 現在、いる場所は閉口町の北東の最奥にある鬼神(きしん)門閉(もんぺい)神社(じんじゃ)であり、ここの守り神でもある鬼神を奉っている神社だ。

 その神社の周りは沢山の木々が覆い茂っており、森となっている。

 ここの町の人は『縛り森』なんて名前で呼んでいるようだ。

 「何か雰囲気がある場所...ですね」

 森の中は神々しいというような場所だとは思えなかった。

 なんていうか、周りは木々のせいか暗く感じるせいかとてもいい場所とは到底思えなかった。

 ご主人様は「雰囲気がある場所」なんて言っていたが、それは別の意味でだろう。

 夏の夜になればきっとここは肝試しに最適な場所として選ばれるのに違いない。

 「まぁ、ここは鬼を封じている場所だからね」

 樋山さんは涼しい顔して、前に進む。

 「おや、お巡りさん。おはようございます」

 すると一人の少し年老いた初老の男性が挨拶をしてきた。見た感じではここの神主のようだ。

 「おはようございます」

 「そちらは......」

 「ああ、えっと知り合いの連れでして、巡回のついでにここら辺の事を案内してるんですよ」

 「そうでしたか。まぁ、ここら辺にはもうほとんどの子供がいませんから

 こんなド田舎、逆に珍しいと思います

 色々と紹介して下さい

 それと忍、久し振りだな。覚えているか?私の事を」

 と神主はご主人様に対して切り出した。

 「えっと............、あぁあ!!」

 思い出したように顔を上げて、神主さんの顔を見た。

 「お久し振りです。えっと...、貴久さん?」

 「随分、忘れてたんだな...」

 「すみません...」

 「別に私は構わないよ。それより、お前に合えて嬉しいよ

 綾子は元気にしてるか?」

 「それはまぁ...」

 「それなりにか」

 「えっと......、二人は知り合いなんですか?」

 樋山さんは困惑した様子で神主にそう尋ねる。

 「私はこの子の母親の兄なんですよ

 だから、忍にとっては私は叔父になりますね」

 「そうなんですか...」

 「それより、忍、大きくなったな

 どうだ?彼女ぐらいは出来たか?」

 「...まぁ、それは...」

 「出来てないか......

 そうだ、昔、仲が良かったあの子とはどうなったんだ」

 「何にもないよ、叔父さん

 遠くもなく、近くもなく、何にも変わらないよ」

 ご主人様は苦笑いをして、嘘を吐いた。

 「そうか」

 「叔父さん、俺、もうそろそろ行くよ」

 「忍、青春しろよ。まだ、その歳なら遅くないからな」

 その言葉を最後に縛り森を離れた。

 その縛り森を出た瞬間だった。

 自分の目の前に見知らぬ映像が流れた。

 場所は商店街のどこか。時刻は不明。だが、辺りは明るい所からするとおそらくは日中だ。

 そして、俺が見たのは見知らぬ少女がこめかみを撃たれて死ぬ現場だった。

 それが誰なのか分からない。だけれども、直感で分かる事はご主人様に関わる事で大切な事なのだという事を理解した。

 つまり、このビジョンに映った彼女はご主人様の最愛の失恋相手(ひと)なのだろう。

 そういう風に思考を働かせながら、縛り森から引き戻し、出た先は大きな湖が広がっていた。大きなとは言っても全体を見渡せる程度に大きいぐらいだ。

 確か湖の名前は『鎮石湖(ちんせきこ)』だったか、樋山さんが説明してくれていたがすっかり忘れてしまった。

 その湖の西を追うように、縛り森を出て右の方向に向かって歩き出す。

 この予知を今、ご主人様に伝える事は得策ではないな、と考えるも、でも早く伝えといた方がいいのは間違いない。

 それでもこの場には警察である樋山さんがこの場にいる。警察である彼の間近でこういう情報を伝えるのは良くないだろう。

 警察に警戒され、ご主人様の行動範囲を狭められるかもしれない。いや、もしかしたら、外に出してもらえなくなる可能性だってある。

 正直、ただ買われただけの身である自分は彼に尽くす気はない。

 ただ彼に対して少なからず奉仕をしなければいけないような気がしてならないのだ。

 だからか、先程見えた予知もちゃんと彼に報告をしないといけないと思ってしまっている。

 俺にとって人の恋路なんてどうでもいい事の筈だというのに、やはりこれは悪魔になってしまった代償の一つという事なのだろうか?

 それでも、人が死ぬのは良くない事に決まっている。それがご主人様の最愛の人ならば、俺はご主人様に加担しなくちゃいけない。

 別にご主人様の為じゃなく、これは自身の為だ。この先、後味の悪い人生を過ごすなんてごめんだ。

 俺は自身の為に生きやすくて良い結果の為にご主人様に加担する。それだけの話。

 この先、仕方なく仕えて、仕方なくご主人様の手助けをする人生が待っているのだろう。

◇◇◇◇

 時刻15:00頃、交番には俺と偲、北山さん、樋山さん、金澤さんの五人がいた。

 閉口町は平和そのもので何一つ事件が起こるような事もなく、ただただ時間のみが過ぎていく。

 平和過ぎて、自身が腐りそうなぐらい平和だ。

 それだというのに俺の中には焦りがあった。

 明日の今日ぐらい、アイツが死んでるかもな...。

 などと頭の中でマイナス思考な台詞が漏れる。どうしようもなく、落ち着かない。

 無力な自身に腹が立つ。そう思うと情けない。

 ただ無作為に時間を過ぎ去るだけの現状をどうやって過ごそうかなんて考えられない。

 頭に浮かぶのはアイツの顔ばかりだ。アイツは今どうしているのか。今も無事に生きてるのだろうかだとか。

 考える事もアイツの事ばかりだ。どうしようもなく俺はアイツが恋しくて愛おしくて、

 やっぱり我慢なんか出来なかった。

 「我が儘、言ってもいいですか?」

 情けない事に失恋男の俺はストーカーよりも卑しい人間のようだ。

 「駄目よ...」

 と金澤さんが却下する。だが、そんな事なんて無視しておく。

 「俺、やっぱりアイツの事、好きだ。諦められない

 別に俺はアイツの彼氏になれなくていい

 だけど、アイツが死ぬなんて事、あっちゃいけない」

 「それなら、警察の仕事だから、警察に任せない。君はここで安静しといたらいいの」

 「警察なんか信用も信頼も出来る訳ないだろ

 警察だからって絶対なんてあり得ない。それに相手はただの人殺しじゃなくて、悪魔と契約した人間なんだ

 それなら」

 「自分が行けばいい」

 北上さんが遮るようにそう言った。

 「斎藤君、君が俺達を信用出来ない気持ちは分かる

 君の失恋相手を絶対に守れるなんて事、保証なんて出来ないもんな

 だけどな、これは命に関わる事なんだ

 彼女の命だけじゃない、関係のない人だって死ぬかもしれないんだ

 それに君だって死ぬかもしれない

 それでも君が諦められないていうのなら」

 北山さんは拳銃を手に持ち、銃口を俺に向ける。

 「死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?」

 「先輩!?」

 「北上君!?」

 金澤さんと樋山さんは驚いた様子で声を上げる。

 「死ぬ覚悟......、アイツの為なら死んでやる」

 俺は俺に銃口を向けている警官を睨み付ける。

 「だけど、アンタらの為に死んではやらねぇぞ」

 死ぬ覚悟なんて物はすでに決まってる。

 死ぬなんて事は嫌に決まっているが、アイツが助かるのならこの命を捨ててやる。

 バコンと拳が前方から降ってきた。

 「っつう」

 思わず、後ろへと転んでしまい

 「......バァカ、お前が死んだら彼女が悲しむだろうが。この考えなし」

 そんな言葉が飛んできた。

 「はぁ......

 お前の覚悟は分かった。失恋しても尚、思ってる女の為に立ち向かうか

 仕方ない。その愚行、俺も加えさせろ」

 「先輩、駄目ですよ。こんな事、バレたら...」

 「別にバレたって別にいい

 一般市民の一人に信用されてないような警察がいたって仕方がないだろ

 それにコイツが馬鹿をして被害が広がるよりかはいいだろ?」

 「先輩が行くなら、私も行きます」

 「......分かった。俺も人手が欲しいからな。でも、ムチャすんなよ」

 「はい」

 「そういう訳だから、樋山さん、留守番頼む

 明日の午後三時以降には帰ってくるから」

 「あはは、昔のやんちゃしてた北上君みたいだ

 私はクビなっても知りませんよ

 私は馬鹿の仲間入りはしませんからね

 それでも、ちゃんと無事に帰ってきて下さい

 その時は一緒に飲みましょう」

 「じゃあ、樋山さん。酒の準備しといてくれ。酒の肴ぐらいなら帰りに買っとくからよ」

 そう言って、北上さんは交番を出た。俺は出口で頭を下げて、北上さんの背中を追う。

 これから俺はアイツを助けるのだと、足を前へと踏み出した。

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