4/29(木) 昭和の日『居候とカレー』
4月29日木曜日、昭和の日の祝日
警察署の警官はたった二人の警官を残して、壊滅状態までに陥れた。
小さな町の警察署はたった一人の悪魔によって壊滅させられた。
警察署内はあのメイドによって無惨な物になっていた。多くの警官は地面に付して微動だにせず、大量の血が流れていた。
現在は状況把握の為に別の地域専門の警察署の人間がここまで来ている。
「犯人の名前は宮下光児
年齢は25歳。無職
隣の市で既に五人、人を殺してて
ここをほぼ壊滅にした張本人か...
それを殺したのが」
頭の頭頂部が禿げてしまっている男性の警官がこちらへと視線を向ける。
「おい、北上
そこのは大丈夫なのか?」
視線を変えて、俺らに対して事情聴衆していた警官にそう質問する。
「大丈夫ですよ。志崎先輩
寧ろ、彼女は自身の意思で俺の命を救ってくれた
今の現在、彼が命令を下さなければ殺されないと思いますよ」
どうやら、この男は北上というらしい。さっきまで気にしなかったが彼の髪型はオールバックの悪そうな大人のように見える。
タバコとか咥えている姿が容易に浮かぶ。
そして、志崎先輩と呼ばれた男はどうやら、この警官の先輩らしい。
「でも、そこの悪魔が殺ったんだろ?」
「一人、単独で悪魔一体を葬った
ある意味、別の意味では強敵だと思いますよ。彼女」
「相手の能力は発火能力だった筈だが、被害は出なかったのか?」
「扉を焼き溶かされた程度......
多分、相手は自分自身の能力に不慣れだったんだと
だから、戦いの中でそれを活かせずに」
「そこの嬢ちゃんに殺られたか」
「そういう訳です」
「それで、能力は?」
「能力は......。おそらく、不死身......かな?」
「おいおい、ちゃんとしてくれよ
お前、現場にいたんだろ?
ていうか、不死身ってなんだよ」
「彼女、相手の弾丸を受けても倒れなかったんです。
相手の武器は機関銃でした。それを数発受けて殺されず、相手を逆に倒してしまった
まさに彼女自身、特殊な存在だと思います」
「成る程な。見た感じだと、結構な代償を払ってるみたいだな
左目に右腕、左足」
「それと声」
「四つか......。それなら、相手に勝てるのも納得いく
彼女を敵に回すなよ」
志崎と北上は何やら話し込んでいる。
俺は自分の視線をとりあえず、彼女に移す。
「おい、お前」
彼女に話し掛ける。
「あー?」
「お前の名前、何て言うんだ?」
「あー...」
彼女の手にスケッチブックが出現する。
『しのぶ』
平仮名で字が出現した。
「しのぶ?」
俺と同じ名前?
『人を思うと書いて、『偲』』
自身の名前を彼女はスケッチブックで主張した。
「そうか、偲か......
じゃあ、俺としのぶ違いだな
俺は斎藤忍
しのぶって言っても忍者の方の忍だ」
『忍?』
「ああ、その忍だ
多分...、ていうか、思いっきしお前を利用させてもらうつもりなんだけど...」
俺にはそうするしかない。
「まぁ...よろしく頼む」
その言葉に対して、頷きを見せる。
「そう言えばさ、お前、銃弾受けてたよな?
大丈夫なのか...?」
「あー」
『弾丸を受けるのは痛いけど、死ねないから大丈夫』
「死ねない?それって......」
どういう意味だよ、と言おうとしたが彼女がそういう存在だという事を彼女は体を張って証明してくれている。
彼女は弾丸に数発の弾丸に撃たれたのにも関わらず、目の前に生きている彼女がいる。
『そういう特典』
「特典?」
『さっき戦った彼女は炎を扱う悪魔だった。それは彼女自身が選んだ特典
俺ら、商品になる前に何らかの力を与えられる
俺の場合は不死身。その特典は俺らのような存在に対して、手に余る物だった
だから、その代償に言葉を喋る事と左目を失った』
彼女はそうスケッチブックで語る。
「じゃあ、その左腕と右足はどうしたんだ?」
『こっちはステータスの補強の為
筋力と耐久の不足している分、左腕と右足の代償を支払ってる』
「それでそれか......」
不足しているかどうかなんて、分からないがとりあえずは納得しておく事にした。
彼女自身が不足している思っているのだから、そうなのだろう。
時刻19:00頃、俺は真澄さんと一緒にいる。本名は金澤真澄
偲は姿を消してしまい、真澄さんの自宅で二人っきりといった感じの状況になっている。正直言って、気まずい。
あれから、警察署は捜査というよりは後始末で時間を潰してしまった。
母親には家に帰ってもらった。その場にいても仕方がないだろうし、今の現状で頼れる事は何にもない。母親の顔には不安の色があったものの、そこら辺は何とか説得した。
「斎藤君」
気まずい空気の中、あちらから声を掛けてきた。
「はい」
条件反射で返事をする。
「どうして、君は彼女を購入したの?」
「.........どうしてですかね...」
彼女の質問に対して、俺は答えられなかった。
「多分、夢の中の俺は浅はかだったんだと思いますよ」
夢の中の俺は無防備で何も考えていなかった。いや、考えてなかった訳じゃないけど、軽い思考でこれが現実に直結している問題だったなんて考えもしてなかった。
「だけど、......アイツは欠陥品じゃないよな...」
あの得たいの知れない夢の中の男が言っていた言葉を思い出した。
『欠陥品』だと言ってたけれど、どうしても俺はそう思えない。それに姿形は人の姿をしている。
ちゃんと形があって、そこにちゃんと感情があって、物事を思考して動けるのなら、それはちゃんとしたヒトだ。
手足がないからといって、欠陥品扱いするのは間違いではないだろうか。
「欠陥品?」
「いえ、こっちの話なんで気にしないで下さい
夢だから、自由にしてもいい。現実の世界には問題なんて起こりはしない
そう思っていました。実際、メイドが買えるなんて夢みたいな話だった
だから、夢の中で夢を買おうなんて、浅はかな考えに至った
それが俺の回答です。......ドン引きでしょ?」
正直にあの時の内心を話した。
夢の中の俺がアホで浅はかだったのは間違いない。
「...いいえ、正直に言ってくれた方が君の話を信用する事が出来るわ」
長髪を後ろに束ねたポニーテールの婦警は俺の顔を見つめながらそう言った。
俺から見ても、年齢はあの顔面恐持てな北上刑事よりも俺の年齢に近い。
推測して25前後だろうか?
「んで、婦警さんは俺の事を信用出来るんすか?」
「.........信用...」
出来る訳ないか。
「するわ」
目の前の婦警は繕うようにそう言った。
信用出来る訳がない。俺は悪魔と契約した危険人物なのだ。危険人物を身近においていて、平気だと言える人間なんて少ないんじゃないかと思う。
「際ですか.........
それでも、もしも、危険だと判断したらちゃんと撃って下さいよ
俺は人を殺した前科なんて持ちたくないんで」
俺は自分の為に生きている。社会一般で人を殺す事は悪い事になっている。
それは自身の行く道を阻ませる事になってしまう。だからこそ、俺は人を殺す訳にはいかないし、人を殺したくない。
「それに...、カッコ悪い所なんて見せれませんから」
「失恋......
でも、それって終わった話でしょ?」
「終わってますよ。でも、俺の中では続いてる事なんで」
終わってしまった事だから関係ないなんて事はありはしない。終わってしまった事でも自身の中で受け継がせるべきで、この思いはそっとしまっているべき事なのだ。
「どんな娘だったの?」
「ただの幼馴染みですよ」
お人好しでお節介、世話焼き。自分の事より、他人を優先するようなバカだ。
「家も隣同士だから、顔を合わせる事も多かったし
昔はよく遊んでたけど」
いつの間にか互いに距離が出来ちゃったよな...。
「もしかして、まだ引きずってたりする?」
「それは.........まぁ」
昨日の今日ですぐに立ち直れる程、俺の精神は強くはない。
それにこの現状にほっとしている。彼女と顔を合わせる事がないのだから。
「そっか
ちょっと羨ましいかも......」
しみじみと呟くようにすぐ近くにいる婦警はそう言った。
「......」
羨ましい。そう言われるのは初めてだったが特段不快な感じはしないものの、そう言われるのは少し不思議のような気がした。
俺の失恋は終わってしまって、自身の心の内に何かが未だ残っている。
おそらく、未だに彼女の事が諦められないのだろう。頭で分かっていても、心が未だに納得していない。気持ちが追い付いていないのかもしれない。
往生際が悪いな、俺。そう内心で苦笑いをする。
「ごめんなさい。気分を害した?」
「別に害してませんよ。羨ましいなんて言われるなんて思いもしなかったので少し驚いただけです」
「そう...。それなら、良かった」
良かった。別にそう言われる筋合いは特にないような気がする。
落ち着いて振る舞っているように見えるが、彼女は俺を警戒している。命令を出せば、俺は簡単に人を殺せるから、相手は警戒してしまっている。
「えっと.........、金澤さんはこういうのって経験した事は?」
「私は.........、そうね。学生時代は勉強第一って思ってたから恋愛とかは無縁だったわ
だから、青春してるなって思っちゃって、ちょっと羨ましいって思っちゃった」
「それでも失恋って、割りとキツいですよ...」
未だに思い返しても、あの時の行動は愚行のようにしか思えないし、思い出すだけで心の臓に抜けない何かが突き刺さってしまっているような感じがする。
これ以上は傷口に塩を染み込ませていたら、精神的にキツいので話題を変える事にした。
「それより、俺以外の契約者は」
「国籍はイギリス
年齢、60~70
武器はスナイパーで、標的を一ヶ月観察し、相手の情報を収集してから殺害
名前は不詳。通り名は鷹
私達が一番最初に出会した悪魔と契約を交わした人間よ」
俺のような奴にこうもあっさり情報を教えてくれるとは思いもしなかった。
「あの......」
だから、何だか心配になってきた。ていうより、驚きが隠せない。
「何かしら?」
「...一般人に情報教えても大丈夫なんですか?」
「もうあなたは一般人じゃないわ
危険人物ではあるけど、今は私達の協力者でしょ
それに信用するって言ったわよね、私」
「............」
彼女が言った事に呆気に取られるも、俺を仲間として受け入れてくれたのら嬉しい。
それでも、彼女自身、完全に信用出来ている訳じゃない。
俺としてはそっちの方がいい。完全に信用されてない方がある意味やりやすい。
完全に信用されていないという状況が俺にとって首輪みたいな物で俺を引き止める為の安全装置の役割を果たしてくれる筈だ。
「ありがとうございます」
とりあえず、礼を言っておく。
「...相手は凄腕のスナイパーで人殺しを生き甲斐にしている。そして、現在、ここに潜伏しているという情報がある
彼が連れている悪魔は近接戦闘を得意として、得物は刀。普通の人間では太刀打ちなんて出来ない相手よ」
その礼はあっさりとスルーされてしまった。
「はぁ......、本当は君を巻き込みたくはなかったんだけど...」
溜め息を吐くも、どうせ諦めは付いているだろうから、その事に関しては口出しはしない。
「目には目を、歯には葉を、悪魔には悪魔をですよ
俺はそのイーグルっていう相手が誰を殺すかなんて、知りませんけど
だけど、俺はソイツを殺さなければいけない」
「駄目よ。相手が殺人犯だろうと、殺さずに生かしたまま捕まえる
それが上からの命令よ。まぁ、間違って殺してしまったとしても君に罪は被せられないから安心して」
「生かして捕まえる...」
本当に出来るだろうか。相手は殺人に慣れた殺人鬼で、悪魔を従えた契約者なのだ。
「さてと、ご飯にしましょ」
婦警の彼女がそう言った。今いる部屋からカレーらしき匂いが漂っている。どうやら、夕食は彼女お手製のカレーをご馳走してくれるらしい。
明日という未来に不安を持ちながら、一秒一秒未来の時間を使い潰していく。
明日という未来では自身は無事に生きられているか分からない。だけれども、俺は彼女を守ると決めた。
それが失恋した相手だったとしても。