あなたには転職をお勧めするわ!
容姿端麗で絶世の美女? 当然ね。皇帝陛下の娘だからではないわ。わたくしだからそう言われているのだわ。皇女というだけで、どうして行かなくてもいい後宮のパーティーなんかに行かなくてはならないのかしら。
「これはこれは、リルーゼ様。今宵も麗しゅうことにござりまするな。御手を……」
「あら嫌だわ。そこの従騎士! 野生の獣が紛れ込んでいるじゃない! 早く追い出しなさい」
「えっ? 恐れながら、リルーゼさま。どこに獣がおりますか? 僕にはどこにも見えないのですが……」
あぁ、使えない。使えないわね……視力の悪すぎる従騎士を雇った覚えは無いのだけれど、どこかに優秀すぎる従騎士はいないのかしら。
「あ、あの、リルーゼさま?」
「あなた、その3よね! 獣臭がひどすぎるわ! 今すぐにここの後宮を清掃してくださる?」
「ぼ、ぼくは、ロイク・シャルアンです。獣とはどこにいるのですか? それにお客様が大勢おられる中での清掃はとても無理です」
「そこにいるじゃない! わたくしにずっと手を差し出している獣が! あなたにはそれが見えなくて?」
「い、いえ、あの、あの方は宰相さまです。決して、獣などでは……」
あぁ、使えないわ。誰よ、こんな使えない従騎士を寄越したのは。あぁ、陛下だったかしら。
「その3! あなた、転職なさい! それがいいわ。あなたに従騎士をする資格なんて無いわ。無さすぎるわ……思わず涙が出て来そうになったわ。どうしてそんなことも出来ないと言うのかしらね。皇女を守るという役目すら出来ないだなんて悲しいわ。それでも陛下から遣わされた従騎士だと言うの? お答えなさい!」
「僕は、リルーゼさまの傍にいないと駄目なんです。だから、今言われたことを直します。どうか、考えを改めて下さい」
「……仕方ないわね。あなた、ロイクと言ったかしら? あなたがわたくしの代わりにあの豚に手を差し出しなさい。そして、優雅に回ってくればいいわ。それで許してあげてもよろしくてよ」
「宰相さまは陛下の次に偉い方です。豚だなんてそんな……」
「早くなさい! わたくしはあなたの代わりに後宮を警護して差し上げるわ。その間、あなたが獣とダンスを踊るの。とても楽しいことになるわ。心配なんていらないわよ? あなたは従騎士よりも町娘がお似合いですもの。それくらい、どこからどう見ても男には見えないのだから」
「はい……でも僕は男なんです。だから、きっとリルーゼさまの隣に就けるようになります……」
一番使えない従騎士だわ。さっさと転職でもして、町娘見習いにでもなればいいんだわ。そうよ、それが彼の為にもなるんだわ。ふふ……次に逢う日を楽しみにしなければね。