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所長の活躍

 昼食が始まる。

 公介は食べまくった。こんなゴチソウ、いつまた口にできるかわからない。

 所長もなりふりかまわず食べている。そしてガブガブと、うまそうにビールを飲んでいた。

 食事が終わろうとしたとき。

「なんだか胸が……」

 奥様が気分が悪いと訴えた。

 それから倒れこむように、テーブルにうつぶせになってしまった。

「だいじょうぶですか?」

 所長が顔をのぞくも、

「……」

 奥様は苦しそうで返事ができない。

「公介! すぐに救急車を呼べ」

「所長、ボクもなんだか」

 公介も胸が苦しくなっていたのだ。

「所長は苦しくないですか?」

「ああ、ワシはなんともないぞ」

「ヤツらにやられたようです。どうも、食べ物の中に薬が……。早く救急車を……」

「ああ、すぐに呼んでやる」

 所長はすぐさま部屋を飛び出して、電話のある応接室へと走った。


 受話器をつかんだときである。

「いてえー」

 所長はとび上がった。

 おどろいて振り返ると、背後に木刀を持ったゲンさんと、その横にマサヨが立っていた。

「キサマ、そいつでなぐりやがったな」

「毒がきかないところをみると、あなたって、よほど血のめぐりが悪いのね」

 マサヨがくちびるをゆがめて笑う。

「知ったことか」

 所長は言い返すと、いきなりゲンさんの足にタックルをかました。

 ゲンさんがもんどりうって倒れる。

 だが、すぐさま立ち上がり、所長に向かって木刀を頭上にかまえた。

「このヤロー」

 いざ振り降ろされんとした寸前。

「おー」

 所長は応接室から庭に飛び出した。つまるところ逃走したのである。

「待ちやがれー」

 ゲンさんがあとを追ってくる。

 おとなしく待つわけにはいかない。木刀でなぐられては痛いのだ。なにより命がおしい。

 所長は走って逃げた。

 イチゴ柄のパジャマ姿で、庭じゅうをかけまわって逃げた。……が、まわりは高い塀。ついに庭の隅に追いつめられてしまう。

「カンネンするんだな」

 ゲンさんが木刀を振りかぶった。

 まともにくらえば一発で天国行きだ。いや、所長なら行き先は地獄である。

「くらえー」

 木刀が振り降ろされた。

「ひえー」

 所長はからくもかわした。が、そのひょうしに大きく転んでしまった。

 所長の前に、ゲンさんが仁王立ちとなる。

 背後は高い塀で、逃げようにも退路がない。

「お願いだ、命だけは助けてくれ。金はみんな、オマエにやる。だから助けてくれ」

 土下座をして、両手をこすり合わせた。

 さらに何度も頭をペコペコさせた。

 その姿はイチゴ柄のパジャマだけに、見るに忍びない。なんとも情けなくあわれである。

「どうせ、オマエは死ぬんだ。その前にいいことを聞かせてやろう。奥様には死んでもらい、財産のすべてをいただくことにしたんだよ」

「なら、ワシも仲間に入れてくれ」

「だれがオマエなんか」

「助けてくれー」

 所長は悲鳴をあげた。

「静かにしろ。毒を食って死なんなら、なぐり殺すしかねえな」

 ゲンさんがニタニタと笑いを浮かべ、木刀を振り上げてみせる。

「わかった。わかったからなぐらんでくれ。毒で死ぬから、ちょっと待ってくれ」

「早く、くたばれ。ハハハ……」

「えいっ!」

 所長がいきなり転がった。そして体ごと、ゲンさんの足に体当たりをくらわせた。

 二人はもつれるようにして転がり、ゲンさんの手から木刀が落ちた。

 その木刀を、所長がいち早く拾って立ち上がった。

「このヤロウ! 弱いふりしていりゃ、いい気になりやがって。さっきのお返しだ」

 攻守が逆転した、そのときである。

「こらー、やめんかー」

 所長の背後で叫ぶ声がして、数人の警官が次々と塀を乗り越えてきた。

「おう、いいところに来てくれた。コイツを捕まえてくれ」

 所長は手招きをして呼んだ。

 だが、なんとしたことか……。

 かけつけてきた警官は、所長の頭をコン棒でなぐったのである。

「いてっ!」

 所長が覚えているのはここまで。

 そのまま気を失ってしまったのだった。





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