コインロッカーのカギ
所長の服の入ったカゴをかかえ、マサヨはヒロミの部屋にいそいでもどった。
「くさい! なによ、このニオイ」
ジュンコが悲鳴をあげる。
「所長の服よ。この中にコインロッカーの鍵があるはずだわ」
「鼻が曲がりそう」
ヒロミが顔をそむけ、あわてて窓を開けた。
「ゲンさん、あなたが探してちょうだい」
マサヨにうながされ、
「しょうがねえな」
ゲンさんはカゴにあるコートを取り出した。
それにくっついて、パンツがポロリと出てくる。
「うっ!」
おもわず顔をしかめ、それでもポケットの中に手を入れまさぐった。
「なんだ、こりゃあ?」
出てきたのはチューリップの絵がついた灰皿である。
反対側のポケットからはスプーンが出てくる。
続いてズボンのポケット。
「おっ、こいつだ」
ゲンさんの手には鍵があり、それにはコインロッカーの番号札がついていた。
「なっ、オレの言ったとおりだろう」
「疑って悪かったわね」
リョウコは鍵を見て、さすがにゲンさんを信じたようだ。
「ゲンさんには、バッグを受け取りに行ってもらうことになってるの。ついでに駅に寄って、お金を取り返してちょうだい。ねっ、ジュンコさん、あなたも一緒に行って」
「いいわ」
ジュンコが大きくうなずく。
このとき――。
公介はヒロミの部屋の窓の下にいた。庭からこのようすをうかがっていたのだ。
途中、窓が開いたので、話し声がバッチリ録音できた。
会話はあとで動かぬ証拠となる。
所長が風呂からもどってきた。
――うわっ!
公介はおもわず口を押えた。
所長は上も下も、全面イチゴ柄のパジャマ姿なのである。それも腹のあたりのイチゴは、いやというほど伸びてトマトほどになっている。
ここで笑ったら……。
カミナリが落ちるどころか、ゲンコツをくらってしまう。やっとの思いでがまんした。
「すみませんねえ、そんな女性物の小さなパジャマしかなくて。男性用の買い置きが、うちにはないものですから」
奥様が申しわけなさそうに言う。
それでも口元はヒクヒクとふるえている。
「ふむ」
所長がズボンを引き上げる。
――パンツにもイチゴ?
公介はそう思ったところで、ついにがまんの限界を通り越し、うかつにも笑い転げてしまった。
「バカヤロー」
所長が真っ赤な顔でどなる。
むろんそれだけではすまない。公介の頭をポカリとなぐった。
「ところで公介。あっちの方はうまくいったのか?」
「はい、証拠はこのテープに」
召し使いたちの会話は証拠となり、いざとなれば警察につき出すこともできる。
かたや、そのころ。
ゲンさんとジュンコは駅の構内にいて、番号札のコインロッカーを開けたところだった。
「おっ、これだ。アイツはこの袋を持って、喫茶店から出てきたんだ」
布袋をなでてみると、指先に札束らしき感触が伝わてくる。
「まちがいないわ、札束よ」
ジュンコも、ふくらんだ手ざわりを確かめながらニンマリした。
その足で二人は喫茶店に行き、ウェイトレスからバッグを受け取ると、その中に布袋を隠した。
ヒロミの部屋に、ふたたび召し使い五人全員が集合していた。
「金は、この袋の中だ」
ゲンさんはバッグを開けて布袋を取り出した。
「やったわね」
マサヨが口ヒモをほどき、嬉々として手を突っ込んだ。
だが、すぐに首をかしげて中をのぞき見る。
「なによ、これ! 本じゃない」
「なんだと?」
ゲンさんが布袋をさかさまにすると、マンガ本がボタボタと音をたてて落ちた。
「クソー。アイツ、ぶっ殺してやる」
「ねえ、このさい奥様には死んでもらわない。こうなったら、財産すべてをいただくのよ」
「あの二人に疑われないか?」
「もちろん二人も一緒に消えてもらうのよ」
「なるほどな。で、どうやって?」
「芝生の殺虫剤を使ったらどうかしら? あの原液って、すごい猛毒なの」
リョウコも乗り気である。
「名案だわね。ヒロミさん、それを料理にまぜてちょうだい」
マサヨが口元をニヤリとさせる。
「わかったわ、まかせて」
ヒロミは大きくうなずいたのだった。




