マサヨの魂胆
ヒロミの部屋にはすでに、ジュンコ、リョウコ、ゲンさんが集まっていた。
「ゲンさん、お金はどこ?」
マサヨは部屋に入るなり見まわした。
「それが大変なのよ。あの所長に横取りされたんですって」
ヒロミが顔を真っ赤にして教える。
「ホントなの?」
「そうなんだ」
ゲンさんは顔をしかめてみせた。
「さっき、喫茶店から電話があったの。バッグをあずかってるんで取りにきてくれって。それでね、お金は抜き取られてるみたいなの」
「まさか、あなたが?」
リョウコがゲンさんをにらむ。
「そうよ。あの所長、ここに帰ったときは手ぶらだったのよ」
マサヨも追うように言う。
「オレじゃない。まあ、話を聞いてくれよ」
ゲンさんは詳しく話して聞かせた。
屋敷を出てから帰ってくるまでのことを……。
「じゃあ五千万円は、駅のコインロッカーだって言うのね。だったら、それを証明できて?」
リョウコはまだ疑っている。
「証明しろったって、コインロッカーの中を見るしかねえだろ」
「あなたたち、今は仲間割れしてるときじゃないでしょ。そんなことより確かめる方が先よ」
二人の間に、マサヨが割って入った。
「そうだよ。あの所長、コインロッカーの鍵を持ってるはずだ。それさえ手に入れば……」
「だったら、その鍵をうばえばいいのよ。ねえ、どうかしら?」
「いいだろう。で、どうやって? ヘタに動けば疑われるぞ」
「いい考えを思いついたわ。あなたたち、ここで待っててちょうだい」
何かしらの魂胆があるらしく、マサヨは笑みを残して部屋を出ていった。
奥様と所長が話をしているところへ、マサヨがお盆を手に入ってきた。
「コーヒーをお持ちしました」
マサヨはそう言ってから、所長に向かって大きくよろけた。
同時に、コーヒーカップが飛ぶ。
「あ、ちちち……」
所長がはねるようにして、ソファーから立ち上がった。頭のてっぺんから、熱いコーヒーをもろにかぶっている。
「まあ! マサヨさん、いそいで所長さんをお風呂に案内して。それから汚れた服のお洗濯を」
奥様はマサヨに言いつけた。
浴室はこれまた広くて立派だった。
床も壁も見事な大理石である。
「ふむ」
所長は満足そうだ。
「脱いだものは洗濯をしますので、脱衣室のカゴに入れてください。着替えは棚に……」
マサヨは外から声をかけた。
風呂に入っているスキを見はからい、脱いだ服から鍵を盗もうというのだ。
月がーでたーでーたー
月がーでたー
浴室でヘタクソな歌が始まる。
今こそチャンスと、脱衣室に忍び入ったマサヨだったが、
「うっ」
カゴを手にしておもわずうめいた。
とにもかくにもくさい。
異様なニオイで吐き気がしてきたのだった。