五千万円の行方
三人は奥様の部屋にいた。
奥様の腕にはメリーが抱かれている。探偵事務所のドアノブにつながれていたのを、所長が屋敷に連れ帰ったのである。
所長は話して聞かせた。
銀行や駅でゲンさんを見かけたこと。
犯人との電話のやり取りのこと。
駅のコインロッカーのこと、などなどを……。
「まさかヤツも、袋がふたつあるとは思いもせんだろうしな」
「お金はコインロッカーの中だと、いまだに思ってますよ」
「バカなヤツだ、ワシの事務所とも知らず。で、ヤツは帰ってきたか?」
「いいえ、まだのようです」
「帰りたくても帰れんのだろう。金が手に入らなかったんだからな」
「でも、ロッカーの鍵をうばいに、じきに帰ってきますよ」
「コイツだな」
「ゲンさん。のどから手が出るほど、それがほしいでしょうね。帰ってきたら、ボクが見はっています」
「コイツはいつでもくれてやるさ」
所長は指先で、番号札のついた鍵をクルクルとまわしてみせた。
そのころ。
マサヨは応接室の電話に出ていた。
相手は喫茶店チューリップのウェイトレスだ。
「バッグをお忘れでは?」
「どうしてうちのバッグだと?」
「バッグに名前と電話番号が。それで連絡をしたのですが……」
「それはわざわざすみません。ところで、バッグは重いかしら?」
マサヨはそれとなくたずねてみた。
「いいえ、とても軽いですわ」
「わかりました。これからすぐに取りにまいります」
顔が勝手にほころぶ。バッグが軽いのは、ゲンさんが金を抜き取ったからなのだ。
チャイムが鳴る。
待っていたゲンさんが帰ってきたようだ。
マサヨは門扉を開けてやり、その足で奥様の部屋に行った。
「今しがた、チューリップという喫茶店から電話がありまして。そこにうちのバッグがあるそうです。それで取りにきてくれと」
マサヨは電話のことを伝えた。
「そこ、お金の受け渡しの場所だったの。犯人、まだ取りにきてないのかしら?」
奥様が首をかしげてみせる。
「バッグは軽いそうです」
マサヨはそれとなく伝えた。すでに身代金が、犯人の手に渡っていることを……。
「じゃあ、お金だけ抜き取ったんだわ」
「バッグはすぐにでも、ゲンさんに取りに行ってもらいますので」
「あら、ゲンさん。いつ帰ってたのかしら?」
「ついさきほどです。何やら用があったらしくて、帰るのが遅くなったようですが」
マサヨは何食わぬ顔でとりつくろった。
「お願いしますね」
「失礼します」
マサヨは報告をすませると、そのままヒロミの部屋へと向かった。