作戦開始
夕食後の応接室。
所長たちは召し使いたちを待っていた。大事な話があると言って、奥様が応接室に全員を集めることにしていたのだ。
「いよいよ作戦開始ですね」
公介は胸がワクワクしていた。
「うまくいくかしら?」
奥様は不安そうである。
「いきますとも」
所長はいつものように自信満々だ。
まもなくして……。
それぞれ仕事をすませた召し使いたちが、間をおくことなく応接室に集まってくる。
修理工場から帰っていたゲンさんもあらわれて、召し使い全員が一堂にそろった。
奥様がおもむろに口を開く。
「みなさん。昼にあったあの電話、じつは犯人からのものでした」
「なっ、なんですと! そんな大事なこと、どうして隠しておったんですか?」
所長がおおげさにおどろいてみせる。
「話すと、メリーが殺されるんじゃないか、それが心配で。でも、もう時間がありません。それで本当のことを、みなさんに話した方がいいと思って」
「で、相手はなんと?」
「五千万円を渡すようにと。でなければメリーの命はないとも……」
「五千万円とはえらい大金ですな。それで素直に渡すつもりですか?」
「はい、メリーの命の方が大事ですので」
「相手はほかに何か?」
「明日の朝、お金の受け渡し場所を連絡すると言いました。ですからそれまでに、お金を準備しないといけませんの」
「そんな大金、いったいどうやって?」
「明日の朝一番、駅前の銀行で都合します。私のかわりに、それを所長さんに。銀行には電話で、そのことを私から伝えておきます。お金はすぐに用意してくれると思いますわ」
「ワシがその金を、受け渡し場所まで運ぶんですな」
「はい、よろしくお願いします」
「まかせてください」
所長が大きくうなずく。
「銀行には、うちの車で行くといいですわ。お金の渡し場所がわかりしだい、所長さんにはすぐに連絡しますので」
「わかりました。ところで犯人のヤツ、まさか金だけ受け取って、メリーを返さないってことはないでしょうな」
「メリーはしゃべれません。返したって、どうということはないはずですわ。でも、もしメリーに何ごとかあれば、そのときは警察に」
「なるほど、それがいいですな」
「メリーがぶじに帰ってくるよう、みなさんも協力してくださいね。これで私の話はおしまいです。ごくろうさまでした」
奥様はそう言うと、ソファーにぐったり身を沈めたのだった。