事件のカギ
公介が奥様の部屋にもどると、さっそく所長のカミナリが落ちた。
「バカヤロー。どこをほっついていたんだ」
「庭で事件のことを考えていました」
「ふむ。ワシも今、そのことを奥様に話しておったところだ」
「所長さんはね。パチンコ玉と万年筆が重要なカギだって」
「ボクもそう思って、いろいろ推理をしてたんです」
「なら、その推理とやらを先に聞こうではないか。早く話してみろ」
所長が鼻をフンと鳴らす。
「これを見てください、風林火山のパチンコ玉が庭に落ちてたんです」
塀のそばで拾ったパチンコ玉を見せてから、公介は自分の推理を二人に話した。
買い物袋とロープの使い方。
塀のそばにあった石。
万年筆とメモによる伝言。
奥様はしきりにうなずき、所長は鼻の穴をほじくりながら天井をにらんでいる。
掃除機の音によるアリバイ作り。
一方的なテープの声。
それらを話し終わったところで、公介は二人の顔をうかがい見た。
「いかがですか?」
「そういえばマサヨさん。朝から私の部屋に来て、とりとめもない話ばかりを。そんなこと、珍しいことなんですのよ。それにあの電話、ほんとにおかしな感じでしたわ。機械みたいに一方的で……」
奥様が何度もうなずく。
「ところで所長の推理は?」
「ふむ。偶然にもオマエとまったく同じだ。いかがですかな、ワシの推理は」
所長は自慢した。
さっそく公介の推理を自分のものにしている。
「ええ、おそらくそのとおりだと……」
「さっそくジュンコの家に押しかけ、メリーを取りもどしてみせますぞ」
所長が勇んで立ち上がる。
「待ってください。さっき話したことは、あくまでも推理です。証拠をつかんでからでないと」
「バカヤロー。証拠というもんはな、あとからどうにでもなるものなんだ」
所長にとっては、まず捕まえるのが先だ。あとは拷問でもして、白状させればいいのである。
「ヘタに動いては証拠を消されてしまいます。それにメリーの命だって」
「そうですわね。もしものことがあったら取り返しがつきませんし」
奥様も公介の考えに賛成する。
「ふむ、それでどうするんだ?」
「相手がボロを出すのを待つんです」
「だがな。いくら待っても、ヤツらがボロを出すとは限らんではないか」
「ですから出すようにワナをしかけるんです」
「ワナだと?」
「はい、ボクにいい考えが……」
夕食までの時間。
公介は庭で考えついたことを、所長と奥様に話して聞かせたのだった。