公介の推理
証拠のひとつ、パチンコ玉のナゾは解けた。
あとはもうひとつの証拠、万年筆だ。
――万年筆は連絡に使ったんだな。
リョウコがメモ紙に伝言を書いて、それを塀の外に投げたにちがいない。で、あわてていたのだろう、そのあと万年筆を小屋のそばに落としたのだ。
――じゃあ、所長じゃなかったんだ。
所長がくすねてポケットに入れ、犬小屋を調査したときに落とした。そうとばかり思っていたが、ここにきて思いちがいだったことがわかる。
――でも、なんで?
ここで新たな疑問にぶつかる。
奥様は、なぜ気づかなかったのだろうか。
犬小屋は奥様の部屋の前にあるのだ。さらに、時々は庭の散歩だってするだろうから。
――マサヨだな。
奥様は足止めされていたのだ。部屋でずっと、マサヨのおしゃべりにつき合わされて……。
ただ、そのとき。
リョウコは家の中で掃除をしていた。
掃除機の音は奥様も聞いている。
――そうかあ。
掃除機の音がしていたからといって、掃除をしていたとは限らないではないか。音を出すだけなら、スイッチさえ入れておけばいいのだ。
だとしたら残るジュンコも怪しくなる。
おそらく塀の外にはジュンコもいたのだろう。
――たしかジュンコは……。
自分の家から通っていると言っていた。さらったメリーを自宅に連れていったにちがいない。
公介はすっかり思いこんでいた。
犯行のじゃまになるジュンコが、犯人に電話で呼び出されたのだと。だが自分から、メリーのそばを離れていたのだ。
四人が役割を分担し、綿密な計画のもとに実行している。
これには奥様もだまされるはずだ。
次に犯人からの電話のことを考えた。
声は女で、犯人から電話があったとき、四人は応接室にいた。
では、だれが?
――そうだ!
ゲンさんという人物を思いつく。
――あらかじめ録音しておけば……。
電話では相手が一方的にしゃべったと、奥様はそう話していた。それがテープの声であれば、さらに納得できる。
召し使い全員が協力してやったのだ。
だが、これはあくまで推理である。万年筆やパチンコ玉だけでは確かな証拠とはならない。
――とにかく証拠を。
公介は頭をフル回転し、確かな証拠をつかむ方法を考えたのだった。