監視カメラ
公介は、ひとつ聞いてみたくなった。今回の事件の依頼を受けたときから、ずっと気にかかっていたことがあったのだ。
「ひとつ、おうかがいしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、なんなりと聞いてください」
「ほかにも探偵事務所がある中で、うちを選んだというのはどういうわけで?」
「マサヨさんにすすめられたからですわ。おたくは実績のある、一流の探偵事務所だって」
「マサヨさんは、なかなかお目が高いですな」
所長がうれしそうに反応する。
しかしこのとき……。
――実績があって一流? それって、まるっきり反対じゃないか。
公介の疑問は解けるどころか、いよいよもって増幅した。
百歩ゆずっても、いや千歩ゆずったとしても、世間に知れ渡るほどの実績がないことは確かだ。
――マサヨは、どうしてそんなデタラメを? まさかマサヨが……。
マサヨは依頼先の探偵に、自分のタクラミが見破られることを恐れたのではないか。それでわざと、奥様にしむけたのではないか。何の実績もない、うちの事務所に依頼するようにと……。
でも、そんなことは所長の前では話せない。どなられて、ゲンコツもらって、それでオシマイだ。
公介は理由を明かさないまま話した。
「マサヨさんが関係しているのでは?」
「バカモン! かんたんに人を疑うもんじゃない。いつもそう言っておるだろう」
所長がマサヨをかばう。
「でもですね……」
そこまで口に出してから、公介は次の言葉をぐっと飲みこんだ。マサヨが怪しいというのは自分の直感だけなのである。
「所長さんのおっしゃるとおりですわ。だってメリーがいなくなったとき、マサヨさん、ずっと私の部屋におりましたもの」
奥様もマサヨをかばった。
そのとおりなのだ。
マサヨは屋敷から一歩も出ていない。アリバイも一番はっきりしている。
――証拠をつかまなきゃあ。
公介は歯ぎしりする思いであった。
「そうだわ、監視カメラに記録が。まさかこんなときに役立つなんて」
奥様がリモコンを操作すると、目の前にあるテレビが明るくなった。監視カメラが、奥様の部屋のテレビとつながっていたのである。
映し出されたのはゲンさんの姿だった。
見たところ五十歳過ぎぐらいである。
ゲンさんは車の鍵を手に持っていた。
これから車を修理工場に出すのだろう。何ら怪しいようすは見られない。
奥様の話からすると九時前である。
ゲンさんが門を出ると、テレビの画面は一時的に暗くなり次の画面に移った。門にあるセンサーで、カメラが人に反応して作動するようだ。
ジュンコとヒロミがそろって映った。おしゃべりをしながら門を歩き出ていく。
時刻はやはり九時前だ。
ジュンコはペットショップへ、ヒロミは買い物に行ったと話していたが、それを裏づけるように、ヒロミは買い物袋を下げている。
次は、外から入ってくるジュンコだった。
ペットショップから帰ってきたのだろう。時刻としては、メリーが消えたあとだから十時過ぎになる。
続いて、買い物袋を下げたヒロミ。
買い物から帰ってきたのだろう。ヒロミの話では十一時前である。
次の画面に移る。
所長と公介が映し出された。
所長が目玉をキョロキョロさせながら門を抜け、敷地内に進み入る。
まるでコソドロのようである。
これが最後だった。
奥様や召し使いたちが話していたとおりである。
結局のところ。
怪しく見えたのは所長だけだった。
その所長、イビキをかきながらソファーで眠っていたのだった。