たった一人。たったたった―…
青空の下でね
◇
チヒロは、私に向かって笑う。
そして、私は、笑い返す。
――それが、日常であり、日々の幸せでもあるのだ。
やはり、季節は、巡り巡り変わるものであり、冬が来た。
「有希ぃ。今年は、欲しいものがあるんだけど……」
チヒロが私にお願いをしてくるなんて初めてだ。
まぁ、誕生日も近いし、お願いぐらいお見通しだ。
たぶん、彼女かサッカーボールとかだろう。
私は、少し待ち。「何?」っと不機嫌そうに答えた。
――意地っ張りめ。
「俺! やっぱり、勉強できる脳が欲しいんだ!」
「は?」
とっさに出てきた「は?」の言葉。まぁ、当たり前であろう。
英語は、いつもダメダメで私に負けていても、「人間頭だけじゃないんですっ」って、言い返す奴が……勉強できる脳みそだと?
「……」
私は、三点リーダーの数だけ眉間にしわを寄せてチヒロの顔を見つめた。
「アホか」
私は、そう呟くと、椅子から立ち上がり「帰るぞ」と一言言って教室の出口へ鞄を持って歩き出した。
少し遅れてチヒロは、「オッケー!」私に返事をすると通学用のバックを方肩にかけ、私の後を追いかけた。
帰り道。チヒロは、夕焼けを見ながら呟いていたのが聞こえた。
それは、とても小さくて、小さくて夕焼けに吸い込まれていきそうな言葉。
「あいつ。振り向いてくれるかなぁー」
その時気がついた。どこまで鈍いのか。
鈍感女。
――人間。恋する生き物なんだな。
聞こえないフリをしようとしたが、私は、チヒロの方を見て
「振り向くよ。きっと」
と、言ってしまった。
そのときのチヒロの顔は、夕焼けと似たような色をしていた。