第8話 登校と約束
こんにちは、勉強系小説書き風井明日香です。
最近は小説の読み書きの時間が、勉強に占領されてます。一日が三十時間くらい欲しいな。
たぶん、追加の六時間はずっと寝てますね。
少しの気だるさと眠気を感じながら、通学路を歩く。
家から一番近い高校を選んだだけあって、さほど通学には時間はかからない。しかし、朝に弱い俺からすると寝起きで十五分間歩くというだけでも結構つらいものがある。
ため息をつきながらも歩みは止めずに前を向く。すると前方に菊花高校の校門が見えてくる。うちの制服を着た生徒がぞくぞくと入っていく。
ふと、その生徒の中に見覚えのある眼鏡……じゃない。女子生徒を見つけた。
少し深呼吸してから、歩みを速め、彼女との距離を詰める。そして肩を控えめに叩く。
彼女が何気なしに振り向く。そして俺の顔を見ると、一瞬驚くも、すぐにいつもの可愛い笑顔を向けてくれる。
「おはよう、杉浦くんっ」
佐倉さんは少し弾んだ声で挨拶してくれる。その可愛さで先程の眠気や気だるさは吹き飛んでしまった。なんて威力……。メラゾ〇マをくらってHPが全回復しました。
「おはよう、佐倉さん」
二人で並んで歩きながら、玄関へ向かう。佐倉さんとの距離は、昨日よりも少しは縮まっただろうか。
心の距離は確実に近づいたと思うし、物理的な距離も、心なしか昨日より近づいてる気がする。
玄関に入り靴を履き替え……としたところで、佐倉さんから話しかけられる。
「杉浦くん、今日の放課後空いてる?」
ん? デートのお誘いかな? いいよ。眼鏡っ娘からのデートのお誘いなんて断る訳がなかろうが。
「うん、空いてるよ」
「そっか、じゃあさ……」
どきどき……。
「今日の放課後も委員のお手伝い、頼めないかな?」
うん、知ってた。全く、誰だよデートとか期待したやつ。バカじゃん。
佐倉さんは、胸の前で手を合わせ、申し訳なさそうな顔で上目遣いで言ってくる。
俺、眼鏡っ娘の上目遣いって神だと思うんですよ。眼鏡のレンズから少しはみ出す感じで見える目がもうたまらなく可愛くて、可愛い。
上目遣いはあざといだのウザいだの言われてるらしいが、眼鏡っ娘に関してはその限りではないと俺は思う。眼鏡っ娘、万歳。
「うん、大丈夫だよ。というか最初からそのつもりだったし」
俺が微笑しながらそう言うと、佐倉さんは心底嬉しそうに微笑む。
うん、この笑顔が見れるなら、どんだけでも手伝いますね。笑顔って人を幸せに出来ると思うんです。眼鏡っ娘だったら尚更ハッピー。
「そっか、ありがと、杉浦くんっ」
依然、弾んだ声で話してくる佐倉さん。何かいいことでもあったのだろうか。少し気になる。
靴を履き替え、佐倉さんと一緒に教室へ向かう。
昨日は会話ができなくて気まずい空気になっていたが、今は会話がなくても和やかな空気が漂っている気がする。この違いはなんだろうか。
「あ、杉浦くん、今日の委員のことなんだけどさ、今日は先輩の人が一人、来てくれるらしいんだ」
「え、そうなの?」
「うん、部活の勧誘が一段落したって先輩がいてね」
なるほど。しかしそれだと俺の仕事ってどうなるんだろうか。……まあいっか。
「それでね、その先輩にはまだ杉浦くんのこと言ってないから、今日はまず杉浦くんの紹介させてね?」
なんだろう、その『佐倉さんの両親とのご挨拶』みたいな言い回しは。ちょっと想像しちゃったよ。
「うん、いいよ」
俺がそう返事したタイミングで、ちょうど教室に着く。特に何も考えずに、教室に入ろうとすると、後ろから制服の袖を掴まれた。何事かと振り向くと、佐倉さんが俺の袖を掴んだ状態で俯いていた。
「ど、どうしたの? 佐倉さん」
俺がそう聞いてから少し間を空け、佐倉さんが口を開く。
「あ、あのさ。今日、図書館まで一緒に行かない……?」
ズキューン……(二回目)。
いやさ、皆して俺のハート撃ち抜きすぎじゃない? 気のせい? 俺のハートがおかしいの?
「う、うん。わかった。じ、じゃあ放課後ね」
「うんっ!」
心の底から嬉しそうに佐倉さんが微笑む。やめて! 俺のライフはもうこれ以上回復しないよ!
心の体力を全回復させたあげく限界突破させた俺は、ほわほわした頭をどうにか戻そうとしながら自分の席へ向かう。
佐倉さんとは席が遠いので、教室で話す機会はあまりないかもしれない。これは悲しい。
「おはよう、真人」
先に来ていた真人に挨拶したあと、自分の席に腰を下ろす。
「………」
しかし、話しかけられた当の真人は、俯いてわなわなと震えている。
「真人…?」
再度話しかけても反応がない。なんだろう、この漂うデジャヴ感は。昨日同じようなシチュエーションを見たような……。
「…………… 」
「ん?」
真人から、かすれるような小さい声が聞こえてきた。しかし小さいながらも、とてつもなく強い意思がこもってる気がした。
「真人……?」
再度話しかけると、真人は、バンッ!と俺の机に両手をついて立ち上がり──
「どういうことだよ!!!」
「え?」
いきなり立ち上がったと思ったらこいつは何を言っているんだろうか。俺が困惑していると、真人がすごい血相で言ってくる。
「『え?』じゃねえよこの野郎! 朝から佐倉さんと二人で登校とはどういうことだよ!」
「はい?」
こいつはマジで何を言っているんだろうか。
すると真人は少し、身を屈めて周りに聞こえないように耳打ちしてきた。
「佐倉さんといえば、うちのクラス可愛い子選手権上位に食い込むなかなかの強者だぞ?!」
知らんがな。というか佐倉さんはそういうレベルではない。佐倉さんは世界かわいい眼鏡っ娘選手権優勝を狙えるレベルだ。そんなクラスのやつと比べるでない。
「それがっ、それがどうしてお前みたいなやつと登校なんて……っ」
お前みたいなってなんだよ。侮辱じゃないかな、それ。
「別に変なことじゃないよ。昨日、香苗先生にお願いされたって話したでしょ? あれで知り合った図書委員の人ってだけだよ」
「そのわりには、教室の前で随分楽しそうに会話してたな」
ギクッ……。たしかに、同じ趣味だったということで多少なりとも距離は近くなったし、そう見えるのもしょうがないのかもしれない。
「き、気のせいじゃない? さっきも、今日の仕事の話してただけだし」
嘘は言ってない、はず。
「ほーん、まあいいか。どうせ浩介だしな」
いちいち失礼だな、こいつ。俺がなにをしたと言うんだ。
「そうだ、浩介。お前に一つ頼みがあるんだ」
「何?」
あれだけ言ったあげく、頼み事とはいい度胸してるな。こういうところが逆にすごいと思う。
「もし、お前が佐倉さんと仲良くなったらさ」
「うん、ん?」
「俺に佐倉さん紹介してくれない?」
…………。
こいつ、本当にいろんな意味ですごいやつだと思う。
眼鏡っ娘と登校。いいですね……。真人、私は君の味方だぞ。