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第6話 膝枕と妹

 こんにちは、週一更新系小説書き風井明日香です。

 なんとか週一更新を保ってます。これからも、できるだけこのペースを維持していけるように尽力します。


 突然だが、俺には二つ下の妹がいる。前にも少し話しただろうか。

 妹の名前は、すみれ。中学生ながらしっかりしていて、成績も良く、クラスでは学級委員をしているとかなんとか。

 見た目も可愛く、性格も良く、何処に出しても恥ずかしくない自慢の妹だ。


 こういう話をすると高確率でシスコンだのなんだの言われるが、断じて俺はシスコンではない。

 確かにすみれは可愛いし、充分魅力的だとは思うが、やはり恋愛対象にはならない。


 理由としては、まず一つ目に眼鏡っ娘じゃないから駄目だ。

 二つ目に、やはり家族で恋愛というのはおかしいだろう。それに、血が繋がっているというだけで、不思議と恋愛感情は湧いてこないものなのだ。

 この二つが、妹が恋愛対象にならない主な理由だ。


 ……え? 何か変な理由があった? うーん、たぶん気のせいじゃないかな。というか気にしたら負けだよ。


 そんなこんなで、俺には可愛い妹がいる。

 そして今すみれは、ソファに座っている俺の膝に頭を置き、横になりながら携帯をいじっている。いわゆる膝枕状態。

 その一方、俺はというと……。


 なでなで。


 そんなすみれの頭を、先程から一心不乱に撫でていた。

 

 なでなでなで。


 犬や猫を飼ったことがある人などには理解して頂けるだろうか。愛らしいものをひたすら撫でるときの、この幸福感や満足感を。


 なでなでなでなで。


 うれしいとき、不安なとき、悲しいとき、腹立たしいときなど、心が揺れ動いたとき、その気持ちを何かにぶつけたりすることはないだろうか。

 うれしい、不安な気持ちを友達や家族に話す。悲しい、腹立たしい気持ちを趣味やスポーツにぶつける。

 いろいろな手段で自分の気持ちをぶつける人がいると思う。


 なでなでなでなでなで。


 俺にとって、その手段の一つがこれという訳だ。

 妹の頭を撫でる。これほどに癒され、落ち着くものはないだろう。

 すみれの髪は、艶やかな黒色のショートで、手櫛をかけても全く引っ掛からないほどさらさら。

 このさらさら感とひんやり感が心地よく、本当にクセになるものがあり……。


 なでなでなでなでなでなでなでなでn──


「うにゃぁぁぁあああああ!!!」


 リビングにすみれの絶叫が響き渡る。

 すみれは俺の手をはね除け起き上がり、ソファの上に座り俺を睨みつけてくる。


「どうしたんだよ、急に」


「どうしたも何もないよお兄ちゃん! さっきからお兄ちゃん私の頭撫ですぎ! そんなに撫でられたら私の頭ハゲちゃうよ!」


 すみれがぷんすか妙に可愛く怒りながら文句をつけてくる。

 その可愛さに、もう一度すみれの頭に手を乗せつつ謝る。


「はは、ごめんごめん。このとーり!」


 なでなで。


「頭撫でてるののどこが『このとーり』なの!」


 そう言ってついにはソファから降りてしまう。ああ、すみれの頭が遠退(とおの)いていく……。


「妹の頭ごときでそんな悲しそうな顔をしない!」


「そ、そう言われても……」


 実際悲しいんだからしょうがない。

 妹の頭が恋しくてたまらない俺は、口答えし始める。


「べ、別に頭撫でるぐらい良いじゃん。それに、頭撫でられるのって気持ちいいよね? すみれが気持ちいい、俺も癒される、そう、人はこの相互関係をこう呼ぶ……。『ウィンウィ…」


「全然『ウィンウィン』じゃないよ! むしろ『ロスウィン』だよ!」


 妹が全力で否定してくる。そ、そんなバカな……。ま、まさか……っ!


「すみれは頭を撫でられても気持ち良くないの?」


「ふぇ……?」


 俺がそう質問すると、妹がなぜか固まる。そしてほんのり頬を染め、俯きながら恥ずかしそうに言ってくる。


「べ、別に気持ち良くない訳でもない、けど……っ」


 なにこれ可愛い。母さん…。俺、さっき否定したばっかだけど、シスコンになりそう……。


「なら何の問題もないじゃん。ほら、お兄ちゃんの膝へ戻っておいで~」


 優しい声で呼びつつ、膝をぽんぽんと叩く。


「──っ! そ、そういう問題じゃないの!」


 すみれは一度俺の膝を見て少し葛藤するも、顔をそむけて拒否する。


「じゃあ何が問題で『ロサンゼルス』なの?」


「そっちの『ロス』じゃないから!」


 すみれはすばやくツッコミを入れると、深くため息をつく。そして、なにやら神妙な面持ちで語り出す。


「そう、あれは今から一ヶ月ほど前のこと……」


 ずいぶん最近だな、おい。その語りだしだと普通何十年とかそういうやつだろ。

 ツっこもうかとも思ったが、真剣に語ってるのが面白かったのでやめた。


「あれはお兄ちゃんの高校入試合格発表の前日……。夜の十時頃、ソファでごろごろしていると、なんだか浮かない顔をしたお兄ちゃんがリビングにやって来たの。そしてソファに座るとおもむろに私の頭を膝に乗っけて、撫で始めたの。しばらくそうしていると、なんだか眠気がきて、めんどくさいからそのままそこで寝ることにしたの。そして次の朝、起きて鏡で自分の頭を見たら……」


 ごくり……。


「なんと私の髪が、お兄ちゃんがずっと撫でたり手櫛をかけたりしてたせいで、すっごく腕のいい美容室行った後みたいに、超さらさらになってたの!!」


 なん、だと……? た、たしかにそれは妹にしてみれば……。……ん?


「いいことじゃん」


「よくなーい!!」


 すみれが両手を上に挙げながら否定してくる。

 俺には、頭を撫でまくることで髪を超さらさらに出来る超能力があったらしい。なにそれいらない。

 しかし、すみれは髪がさらさらになることの何が気に入らないのだろうか。


「じゃあ何が駄目なの? 女の子にとって、髪がさらさらになるっていいことじゃないの?」


「たしかに髪がさらさらになること自体はいいことだけど、そういうことじゃないの!」


「と、いうと?」


「その日そのまま学校に行ったらクラスの皆に聞かれたの。『どこの美容室行ったの!?』って。もう、誤魔化すの大変だったよ……」


 なるほど。女子は大変だ。しかし、誤魔化すのが大変だったとか言っていたが……。


「別に『お兄ちゃんにやってもらった』って言えばいいじゃん」


「え、いやだよ。ブラコンなんて思われたら嫌だし」


 ぐはっ……。

 お兄ちゃんに一万のダメージ! ま、まさか当の本人が目の前にいる状態で、直球を投げるなんて……。デッドボールなんてもんじゃねえ……。


「ただいま~」


 俺が心をひどく痛め苦しんでいると、玄関から陽気な声が聞こえてくる。

 しばらくしてから声の主が、リビングに入ってくる。


「おかえり……母さん」「ママおかえり~」


 瀕死の俺と、仁王立ちのすみれが同時に出迎える。母さんはそんな頭のおかしい光景にも、いつもの優しい微笑みで返してくれる。


「うん、ただいまー」


 母さんはもう一度帰りを伝え、ソファの横に鞄を置くとあらためて俺らの様子を見て聞いてくる。




「で、二人は何してるの?」


 まあそうなりますよね。

 私も、可愛い妹の頭を存分に舐め…間違えた、撫でまわしたい。

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