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エピローグ


 あれから十年。


 高校を卒業して大学に入学。バイトと勉強の両立に勤しみ、社会人に。

 仕事にも慣れ、とあることに必要な資金も充分に貯めることが出来た。


 そして今日は、遊園地に行ったあの時と全く同じ日付。本当に、ちょうど十年後。


 慣れない服装に、気合いを入れてセットした髪。

 なんとも落ち着かない気持ちを深呼吸でまぎらわす。


「なんだ、緊張してんのか? 浩介」


「当たり前でしょ……」


 鏡とにらめっこする俺の隣からそんな声がかけられ、そっちを振り向くこともなくそう返す。

 それを聞いて「そりゃそうか」と笑う俺の親友、松下真人。


 幼馴染みの腐れ縁というのは切れないもので、十年経った今でもよく会っている。

 家族以外(・ ・ ・ ・)で一番頼れる存在なのは今でもやっぱり真人だ。


 真人のほうも格好が普段とは違う雰囲気。

 それもそのはず。今いるこの場所はそうじゃないとダメなのだ。


 ここはその控え室。そう、この後行うのはあの時の約束……。


「浩介たちもついに結婚かあ……」


「そうだね。長いようであっという間だった気もする」


 あれからぴったり十年。今日は、彼女と俺の結婚式だ。

 少し前から、彼女とはマンションで同棲している。ついにこの日が……そんな気持ちでいっぱいだ。


「お前らがうらやましいぜ。てか大学生の時どんだけバイト頑張ったんだよ」


「はは。そんなにでもないよ。俺だけのお金でもないしね」


 そう言いながら隣の部屋の扉を見る。

 そのタイミングで扉がノックされる。


「どうぞ~」


「お邪魔するわよ」


 その扉から出てきたのは長谷川椿さん。そして、その後ろから妹のすみれも出てきた。


「おう。椿、すみれちゃん。そっちの部屋のヒロインはどうだった?」


「案の定、緊張してたわよ。面白いくらい分かりやすくね」


「うん。前髪とかすごい気にしてた」


 首をすくめながら話す長谷川さんとすみれ。

 向こうの部屋で準備している彼女も、俺と同じような気持ちだったらしい。

 結婚式ということに緊張していたのが俺だけじゃなくて、ちょっと安心した。


「俺たちも早く結婚したいな、椿」


「ええ、そうね。そのためには、真人くんにもっと稼いでもらわないといけないけどね」


「ですよねー」


 辛辣な長谷川さんの返しに、苦笑いを浮かべながら棒読みで返す真人。


 真人と長谷川さんも、あの時からずっと付き合っている。

 いつからというのは曖昧だけど、遊園地に行った後すぐくらいだった気がする。


 二人も今同棲していて、実は俺たちと同じマンションに住んでいたりする。

 今でも関わりが多いのはそういう理由もある。どちらかの部屋に集まって四人で遊ぶことも少なくない。


「じゃあ、お兄ちゃん。私先に式場に行ってるから」


「うん。わかった」


 すみれにそう返すと真人も腕時計を確認し、


「そんじゃ俺たちも行っとくか」


「そうね。二人の邪魔をしちゃ悪いわね」


 長谷川さんも同意して、三人揃って控え室から出ていってしまう。

 残されたのは、俺と向こうの部屋の彼女だけ。


 どうしたものかと扉を見ながら一人そわそわしていると、不意にその扉がノックされる。

 そして、彼女の声が聞こえてくる。


「あ、あの、入っても……大丈夫?」


「う、うん。もちろん」


 扉越しのぎこちないやりとり。

 どこかあの頃を思い出す胸の鼓動。


 ゆっくりと扉が開く。

 そこに現れたのは純白のドレスを纏った彼女。


「───」


 息を飲む。彼女のすべてに目が奪われる。


 真っ白な雪のように綺麗なウェディングドレス。

 いつもかわいい顔もメイクのおかげで増して可憐になっている。


 そして、あの時と変わらないピンク色の眼鏡と恥じらう表情。

 すべてが俺の意識を埋めつくし脳を溶かす。


「すごく、綺麗だ」


「あ、ありがとうっ」


 頬を染めながらも笑顔を返してくれる彼女。

 そして、どちらからということもなくお互いに近寄り「ちゅ」と触れるだけのキスをする。


「いよいよ、だね」


「うんっ」


 今になって思えばあっという間の十年だけど、すごく充実していて色々なことがあった十年だった。


 俺の予想通り、十年でたくさんの幸せを貰った。

 それに応えるためにもバイトと勉強に勤しみ、精一杯の恩返しをしようと努力してきたつもりだ。


 まだ彼女を幸せに出来たとは言えないかもしれない。

 でも、まず最初の第一歩として彼女にウェディングドレスを着せてあげることが出来た。


 これからは家族となる彼女。きっと、素敵な未来が待っている。

 俺は、彼女を幸せにして夢を叶える。


 俺と彼女は、もう一度見つめ合う。

 そして──




「好きだよ、愛してる。愛美」


「私も。大好きだよ。──あなた♡」




 もう一度、深く唇を重ね合った。




 ─ 完 ─

 お読み頂きありがとうございます。

 これにて「ピュアな彼女は眼鏡っ娘」は完結となります。


 物語を作り書くというのは、人生で初めてのことでした。しかし、こうして一年半という時間をかけ完結させることが出来ました。

 それもこれも、すべて読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。


 話はそれますが、私は暗い物語があまり好きではありません。だから、自分の作品ではただただ明るくて幸せな物語を目指しました。

 そうして、浩介と愛美ちゃんはもちろん真人と椿ちゃんも幸せになってくれて、個人的には大満足だったりします。


 少し間は空くと思われますが、次の作品の企画も現在絶賛ねるねるねるね中でございます。

 またいつか別の作品でお会いするかもしれませんが、その時は是非「なんだあの眼鏡っ娘中毒か」と(さげす)んだ目でチラッと作品を覗いて頂けると私が喜びで死にます。


 それでは、また。

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