第59話 遊園地ダブルデート
こんにちは。ラジコンサッカー系小説家、風井明日香です。
私の親友が、某ゲームハードで二千円の新しいゲームを買ったとのことで早速二人で初見プレイをしまして。
もう一言「面白すぎる」に尽きるくらい盛り上がりました。これが本当の「お値段以上」。
「わ~! 遊園地なんて久しぶり~!」
「ははっ。愛美さん、はしゃぎすぎじゃない?」
「だってはしゃいでるんだもーん♪」
俺の手を握りながら笑顔を咲かせる愛美さん。
子供のように腕を前後に振りながら、足取り軽く歩いている。
今俺たちが来ている場所は言わずもがな、遊園地である。
学校の最寄り駅から電車で三十分。さらにそこからバスで二十分。
この辺りでは一番大きな遊園地に、俺たち──俺と愛美さん、そして真人と長谷川さんの四人で遊びに来ている。
真人が言うにはダブルデートらしいが、そもそもそっちの二人は恋人同士じゃないはずなんだけど。
その証拠に……。
「よし、俺たちも手繋ぐか!」
「黙りなさい。指の関節握り潰すわよ」
「よっしゃ、かかってこいやあ! 結果的に手を繋げるなら関節なんて安いもんだぜ!」
「それじゃ、遠慮なく」
「うおおお! 長谷川さんの手、柔らけえあがががががが! ギブギブ、タンマ! ぎ、ぎゃああああああ!」
明らかに好意が一方通行である。よくあんな状態でダブルデートなんて言えたな……。
騒がしく後ろを歩く二人をスルーして愛美さんと話す。
「どうする? 愛美さん。何か乗りたいものとかある?」
「んーっとね……あっ、あれ! あれ最初に乗りたい!」
キラキラ目を輝かせながら指をさす愛美さん。その方向は、巨大なジェットコースターの一番高いところだった。
愛美さんは、見かけによらず絶叫系とかが好きなんだろうか。
まあ、遊園地ってそういうのばっかりみたいなところあるけど……。
「よし、じゃあ人が混んでこないうちに乗っちゃおうか」
「うん!」
二人でそう話し、ジェットコースターの乗車口に向かおうとした時、後ろの二人を思い出し振り向く。
関節をやられた真人は手を押さえながら満足そうな顔をしている。
いや、痛そうな顔しようよ。なんだその清々しい笑顔は。
愛美さんがそんな真人をスルーして長谷川さんに尋ねる。
「えっと、ジェットコースター乗ろうかなって思うんだけど。椿、どうする?」
「それならご一緒させてもらおうかしら。松下くんも行くのでしょう?」
「へいへい長谷川さんよ? 俺、こんな手じゃあ掴まることも出来ないぜ?」
顔は笑顔のまま、手首からだら~んとした手をぷらぷらさせる真人。
「仕方ないわね。それなら、ジェットコースターを降りた後にその手の痛みを感じなくなる魔法かけてあげるわ」
「なん……だと?」
妖艶な笑みを浮かべそんなことを言ってくる長谷川さんに、シリアス顔で固まる真人。
そんな真人に長谷川さんはさらなる誘惑をする。
「こんなことするのは、松下くん、あなただけよ……?」
「喜んでジェットコースターに乗らせていただきます!!」
単純なやつだなあ、この変態。
自分から地雷地帯へスキップしながら突っ込んでいくようにしか見えない。
まあ、そんな変態に構っているのも時間の無駄という話。
人が増えないうちにジェットコースターの乗車口に向かう。
やはり、ジェットコースターは人気があるのかそこそこの人数が並んでいた。
しかし、それでも用意されていた通路の半分程度。まだマシなほうだと信じよう。
十分ほど経ってから、俺たちの順番が回ってくる。
運よく四人固まって前に俺と愛美さん、後ろに真人と長谷川さんというように座ることが出来た。
「それじゃあ、行ってらっしゃ~い♪」
「行ってきまーす!」
笑顔で手を振りながら送り出してくれる係員の声と同時にコースターが動き始める。
ちなみに、ひときわテンション高く係員さんに手を振り返していたのは真人。
長谷川さんはそっぽを向いて他人のふりをしていた。
俺たちを乗せたコースターは、ゆっくりと頂上に向かって上がっていく。
カタカタと音を立てながら急斜面を上っていくこの時間に、なんとも言えない胸の高なりを感じた。
「えへへ、なんかドキドキするね」
「だよね。俺ジェットコースター乗るの初めてだから、ちょっと緊張してる」
「初めてなの!? さ、最初からこんなのに乗って大丈夫……?」
「た、たぶん」
愛美さんが言う通り、このジェットコースターはかなりの高さと角度である。
たしか、国内では三本指には入るんじゃなかっただろうか。
そんなものが人生初となると、たしかに少し心配にはなるかもしれない。
とは言っても、俺ももう高校生。さすがにこのくらいは大丈夫だろう。
「長谷川さんはジェットコースター初めてだったりするか?」
「ここまで大きなものではないけれど一応乗ったことはあるわよ。そういうあなたは……なぜもう両手をあげてるのかしら?」
「いやあ、関節やられちゃってるし、いっそのこともうずっとこの体勢でいいんじゃねと」
「あ、そう」
自分から聞いておきながら、しょうもない真人の理由に関心ゼロの長谷川さん。
ジェットコースターはそのまま頂上付近に到達する。
周りを見渡してみると、かなり遠くまで景色が見え遊園地全体を確認することも出来た。
さらに、観覧車のほうを見ると一番高い所と目線が合い、改めて今いる場所の高さを実感した。
そしてコースターは頂点に達し、視界が地上へと向けられ一気に加速を……。
あれ、これ結構怖いやつじゃ──。
「──────っっっ!!?」
* * *
「ふ、ふうぅ……」
「だ、大丈夫? 浩介くん」
「な、なんとか……」
さすがは国内最大級のジェットコースター。あれを人生一発目で乗ったのは間違いだったかもしれない。
落ちてる時は本当に死ぬかと思った。舐めてました、ジェットコースター。
「一旦休憩しよっか?」
「ご、ごめん……」
か、カッコ悪い……。ジェットコースターに乗って彼女に心配させるなんてカッコ悪すぎる。
穴があったら入りたい気持ちを抱えつつ、近くのフードコートに入ることに。
真人や長谷川さんにも付き添ってもらい、数分そこで休憩する。
少し経って俺が回復した後、ついでということでちょっと早めの昼食をとることに。
それぞれ注文を済ませ席でまったりしていると、真人が張り詰めた顔でいきなりガタッと立ち上がる。
「そういえば、まだ俺長谷川さんに魔法かけてもらってねえ!」
「致命的な記憶力ね。いっそのこと思い出さなければよかったのに」
そういえばジェットコースターに乗る前、そんなことを話していたな、あの二人。
しかし、痛みを忘れる魔法か……。やっぱりあれかな、痛いの痛いの~ってやつかな。
……あれを長谷川さんがやってるとこ想像出来ないけど。
「約束は守ってもらうぜ、長谷川さん! もはや俺の左手は長谷川さんの魔法じゃないと治らなくなっちまったぜ!」
左手で握り拳を作りながらそう力説する真人。
おい、治ってないんじゃないのかその手は。
「はあ、仕方ないわね。手を出してくれるかしら」
「おう」
意気揚々と左手を差し出す真人。
「そっちの手じゃないわ、右手を出してちょうだい」
「へ? いやでも痛いのは左手で……」
「いいから。右手」
「は、はい」
何故か右手をご所望の長谷川さん。
なんで痛くないほうなんだろう。疑問に思いながら愛美さんと一緒に二人の様子を見守る。
「じゃあいくわよ」
「お、おう」
そう言って長谷川さんは、両手で真人の右手を包み込む。
これには真人も動揺したのか、顔を赤らめ挙動不審になっている。
そして長谷川さんは、目を閉じてゆっくり息を吸う。
彼女以外の三人全員が、次に発せられる言葉に耳を澄ませ……。
「ふんっ」
ゴキッ──
「ぎゃああああああああああ!!?」
澄ませた耳に入ってきたのは、長谷川さんの気合いの声と何かが折れたような音、そして真人の悲鳴だった。
すぐさま手を引っ込めて涙目になりながら真人が叫ぶ。
「何してくれてんだ椿っち! 治すどころか傷が増えてんじゃねえか! 話がちげえぞ!」
「なんのことかしら。私は『左手の痛みを忘れる魔法』としか言ってないわよ? それにほら、左手の痛みは感じなくなったでしょ?」
「ぬあああああ、はめられたあああああ!!」
いまだ右手を押さえたまま泣き叫ぶ真人。
最初の予想通り、まんまと地雷を踏み抜いていった。
哀れな変態……。
泣き続ける真人をよそに、注文した料理が運ばれてくる。
それぞれ好みのものを頼んだので種類はバラバラだ。
「愛美さんはオムライスなんだね」
「私結構オムライス好きなんだ~。浩介くんはドリア?」
「うん。普段はあんまり食べないんだけど、まあその……お腹にやさしいもののほうがいいかな~って。はは……」
「大丈夫? 食べれそう?」
「だいぶ良くなってきたし大丈夫だと思う。ごめん、心配かけて」
「ううん。心配くらいさせて? その……こ、恋人なんだから……さ?」
「う、うん」
恥ずかしそうに言う愛美さん。思わずも俺も恥ずかしくなって、二人して顔を伏せてしまう。
そんな様子を見ていた真人が長谷川さんに話しかける。
「あー、俺も料理来たけどなー。右手がやられてて食べれないなー。誰かが責任取って食べさせてくれないとなー?」
なんとも真人らしい煽り方である。
さすがに、こんなことには長谷川さんも乗ってこないと思っていたのだが……。
「……っ」
長谷川さんもちょっとは罪悪感があったのだろうか。予想以上に効果は抜群のようだ。
「とりあえずあの二人は放っておいて、俺たちだけ食べちゃおうか?」
「そ、そうしよっか」
二人に構っていたら一向に食事にありつけないような気がしたので、無視して先に食べることに。
「あーあ。腹減ったなあ。早く飯食いてえなあ。でも、手がなあ?」
「………」
「「いただきます」」
「ほら、もう浩介と佐倉さんは食べ始めてるしなあ? 俺も食べてえなあ??」
「……………」
「ああ。時間も勿体ないし、飯冷めちゃうなあ? 良くないなあ~?」
「…………………」
……結局。この不毛な争いは数分間続き、耐えかねた長谷川さんが折れて決着がついた。
そして、真人は長谷川さんから「あ~ん」をしてもらってご飯を食べていた。
……真人は心底満足そうな顔をして、長谷川さんは心底嫌そうな顔をしていましたとさ。
めでたしめでたし。
やっぱり椿っちはチョロい(チョロい)
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