第5話 共通の趣味
こんにちは。覚醒系小説書き、風井明日香です。
聞いてくださいよ。あの月一小説書きが週一更新に変わっているではありませんか! これは大きな成長ではないでしょうか!
……まあ継続出来ないとなんの意味もないですけどね(白目
それではどうぞ。
「あ、あのさ、さっき鞄に入れてた本って、『あのすば』?」
「えっ……?」
佐倉さんが俺の目を見つめたまま固まる。
たっぷり三秒間ほど経ってから佐倉さんが口を開く。
「杉浦くん、『あのすば』知ってるの……?」
「うん、結構好きで全巻持ってる」
俺がそう言ったとたん、佐倉さんが少し興奮ぎみに話しかけてくる。
「本当?! わ、私も大好きで全巻持ってる!」
「そうなんだ!」
「うん!」
なんとも言えない胸の高鳴りを感じながら受け答えする。
俺がその高鳴りで胸をいっぱいにしていると、佐倉さんがさらに話しかけてくる。
「杉浦くん、『あのすば』のアニメは見た?」
「うん、見たよ!」
「すっごく面白かったよね!」
「うん! 特にあのシーンなんだけどさ──」
「わかる! あとあそこのシーンも──」
さっきまでの微妙な距離はどこへやら。大いに話は盛り上がり、気付けばかなりの時間話していた。
「あれ、もうこんな時間……」
ふと佐倉さんが時計を見て呟く。つられて俺も時計を見ると、長針が真下を指していた。
六時半。かれこれ三十分近く話していたらしい。
「えへへ、杉浦くんと話してたら時間が経つの忘れちゃった」
「うん、俺も忘れちゃってた」
二人で笑い合う。
佐倉さんは本当に俺と同じような趣味だった。好きなジャンルも結構似ていて、思いのほか話が盛り上がってしまった。
気持ち的にはもっと話していたいのだが、これ以上帰りが遅くなるのもよろしくないだろう。
少し残念な気持ちになりつつも、佐倉さんに提案する。
「もう遅いし、そろそろ帰ろっか」
「そ、そうだね。もう結構時間経ったもんね……」
佐倉さんがしゅんと悲しそうな表情をする。
そ、そんな顔しないでー! 俺だってもっと話していたいんだよ!
「あ、あんまり帰りが遅くなるのもあれだし……さ?」
「そ、そうだよね……」
まだ気の乗らない様子の佐倉さん。やめてー! じゃあもうちょっと話そうかってなっちゃいそうだから! その悲しげな顔しないでー!
なんとか理性で抑え込み、佐倉さんを連れ教室を出て玄関のほうへ向かう。
少し歩いたあたりで、ふとあることに気付く。
「あれ、そういえば佐倉さん。図書館の鍵って返しに行かなくていいの?」
「あ! 忘れてた!」
なんか、さっきも同じ光景を見た気がするなあ。
「あはは、なんか佐倉さん忘れ事多くない?」
「そ、そんなことないし! き、今日はたまたまだから!」
「ほんとかなあ?」
「ほ、本当だし!」
少し怒ってる佐倉さんも可愛いなー。
こんなに可愛い子と普通に会話出来ることも、もちろんうれしいが、趣味が同じ人と話せるということも普通にうれしかったりする。
そのまま佐倉さんとの会話に花を咲かせながら廊下を歩いていると、前から見覚えのある人が歩いてきた。
「おー、佐倉ー、杉浦ー!」
「あ、香苗先生」
佐倉さんが返答する。
ちくしょう、今話してたってのに……。
心の中でおもっきり愚痴る。香苗先生からしたらとんでもないとばっちりである。
「私たちに何かご用ですか?」
「ああ、なかなか図書館の鍵が返ってこないから様子を見に行こうとしてたのよ」
そういえば、佐倉さんと教室で話していて、だいぶ時間が経っていたんだったか。少し申し訳ない気持ちになる。
「あ、すみません! あの、これ鍵です!」
佐倉さんが慌てた様子で鍵を渡す。
「ずいぶん遅かったけど何かあったの?」
香苗先生は鍵を受け取りつつ、痛いところを突いてきた。
佐倉さんと話してて三十分遅れましたなんて、さすがに恥ずかしくて言えない。
俺が黙っていると、佐倉さんが答えてくれる。
「す、すみません。杉浦くんと話してたら遅れちゃいました……」
言っちゃったあああ!
え?言っちゃうの? いや、別にいいけど三十分だよ? 初対面の人と三十分話すって普通に考えたらちょっと異常だよ?
「あら、そうだったの。二人は前から知り合いだったの?」
二人して首を横に振る。香苗先生がそんな質問をするということは…。
「そうなの? ふーん……ふふっ、今日一日でずいぶん仲良くなったのね」
やっぱりそうなりますよねー。明らかに茶化すような言動で言ってくる。
それを聞いた佐倉さんは慌てた様子で否定する。
「そ、そんなことないですよ!」
グサッ……。俺の心に何かがぶっ刺さる。
いや、そりゃ俺もそんなこと聞かれたら同じように否定しちゃうと思うけどさ。
理解していても、やはり心に来るものがある。
まあ逆に「はい! 仲良しです!」なんて言われたら、ある意味俺の心に大打撃が入るとは思うが……。
「ふふっ、まあいいわ。とりあえずもうだいぶ暗くなってきてるし、早く帰りなさい」
香苗先生が意地悪そうに、笑いながら言ってくる。
「は、はい。さようなら……」
遠慮がちに返事する佐倉さんに続いて、俺も香苗先生に軽く会釈し、再び玄関に向かって歩き出す。
「あはは、なんかからかわれちゃったね……」
俺の声に、佐倉さんは黙ったまま小さく頷く。
香苗先生と別れてから佐倉さんはずっと俯いたままだ。香苗先生にからかわれたのがそこまでショックだったのだろうか。
「あの、佐倉さん。どうかし……」
「杉浦くん!」
「は、はい!」
心配で声をかけようとすると、それを遮るように大声で佐倉さんに呼ばれた。
思わず上擦った声で返事してしまう。
「あの……あのね、えっと、さ……」
話しにくいことなのだろうか。自分から呼び止めたくせに、なかなか切り出せずにいる。
俺は焦らさないように、ゆっくりと佐倉さんの言葉を待つ。
たっぷり時間を置いた後、佐倉さんが口を開く。
「えっと、杉浦くんに一つお願いがあるの……」
「お願い?」
俺がそう聞き返すと、佐倉さんは俯いたまま、小さく頷く。そして意を決したように顔を上げ、俺の目を見つめて言ってくる。
「あのっ! また私とお話してくれませんか?!」
「お、お話……?」
少し意味が分からず、またもや聞き返してしまう。佐倉さんは「う、うん……」と頷き、説明してくれる。
「私ね、これまであんまり周りに自分の趣味の話しなかったんだ。引かれるのが怖くて。でも今日、杉浦くんと趣味の話が出来てすごく嬉しかった。共通の趣味の人と話すのがこんなに楽しいんだって始めて知ったの」
佐倉さんが微笑みながら話してくれる。その笑顔には全くの嘘もお世辞も感じられなかった。
「だから……さ。また今日みたいに杉浦くんとお話できたら、すごく楽しいと思うの。その、だから……。ま、また、杉浦くんとお話しても、いいかな……?」
ズキューン……。
俺の心が何かに撃ち抜かれる。
というか『ズキューン』って普通女の子がなるやつじゃない? なんで俺がなってるん?
嬉しさで胸がいっぱいになり、固まってしまうも、なんとか声を出す。
「もちろんだよ」
意外にも口からは、しっかりとした声が出ていた。
俺がそう言ったとたん、たちまち佐倉さんが笑顔になる。
「ありがと! 杉浦くん!」
「こちらこそ」
そう言って俺も笑い返す。
こうして、俺には新たに共通の趣味を持った友人ができたのであった。
同じの趣味の可愛い女の子とか何それ天使。