第58話 来週の予定
こんにちは。諸注意系小説家、風井明日香です。
最初に書いておきます。今お読みの小説は『ピュアな彼女は眼鏡っ娘』というラブコメディで間違いありません。
安心して、広大な心を無にしてお読みください。お願いします(土下座)
「愛美さん! ブレス!」
「えっ? きゃぁ!」
俺の叫びも虚しく、奴の口から放たれた火球が愛美さんに直撃する。
吹き飛ばされた愛美さんを横目に俺は腰のポーチに手を伸ばす。
そこから取り出された怪しい白い粉の入ったビンを開け、空へと粉を撒き散らす。
それと同時に自分のかすり傷と愛美さんの火傷が一瞬にして治癒される。
「あ、ありがとう。浩介くん」
「大丈夫だよ。俺が気を引いておくから、愛美さんは残りの体力の回復を」
「うんっ、わかった」
愛美さんは手に持っていた弓を背中にしまい、奴から距離をとる。
それとは正反対に、俺は背中から自分の身長ほどある槍を取り出す。
それを左手に構え、右手にはこれまた自分の体がすっぽり隠れてしまうほど大きい盾を持つ。
言うまでもなく防御特化の武器だ。
視線を奴のほうへ向ける。
全身を覆う、分厚く赤色に輝く鱗。フィクション物で俗にいう、ドラゴンのような見た目をしている。
奴は愛美さんのほうを見ており、再びブレスを吐かまいと口元に炎をたぎらせていた。
しかし、そんなことをさせるわけにはいかない。
俺には彼女を守らなければいけない使命があるんだ。
「こっちだ!!」
大きくそう叫び奴の気を引く。
奴はまんまとこちらに振り向く。
そして、次は俺のほうに向かってブレスを放とうとしてくる。
よしっ、かかったな!
「はっ!」
そう叫んだあと、かなりの重量の盾と槍を持ったまま奴に向かって全力疾走する。
槍は自分の横に。盾は奴に向け自分の体を隠すように構え走る。
奴との距離が半分を越えたあたりで前方からヴァオンというブレスが放たれる音がした。
俺はそれも気にせずそのまま走り続ける。そして盾を持つ右手にグッと力を入れる。
その瞬間、盾に物凄い衝撃が加わる。
今、力を入れたのと全力疾走がなければ耐えきれずに後ずさるほどの衝撃だった。
その衝撃と同時に、構えた盾から灼熱の炎が体の横を通りすぎていった。
俺の作戦は今のところ順調のようだ。あとは……!
もう少しダッシュを続けたあと、盾の隙間から前方を確認する。
そこにはブレスを吐いて隙だらけの、でかくていかつい顔が目の前に近づいていた。
「食らえっ!!」
その掛け声とともに盾を右にどけ、左手に持った槍を奴の顔に向かっておもいっきり突き出す。
ザシュッ!
そんな爽快な音と同時に奴が呻き声をあげながら大きく怯む。
そして追い討ちのように奴の体に何本もの矢が突き刺さる。
ほんの少し首を回し後ろを見ると、完全復活した愛美さんが手にした弓矢で奴を狙っていた。
「ナイス、愛美さん!」
「遠距離ならまかせてっ」
「うん。よしっ、俺も追撃だ!」
槍を握り直し、いまだうろたえる奴の腹に何度も槍を突き刺す。
しばらくして奴は怒りを露にし、大きく息を吸ってから鼓膜が破れるほどの咆哮をする。
耳をつんざく轟音に、思わず両手で耳を塞ぐ。
耳鳴りが収まってから顔をあげると、そこに奴の顔はなく後ろ姿が見えていた。
その代わりに、視界の横から何かがものすごい速さで迫ってきていて──
「ぐっ……」
左肩に衝撃。その痛みを感じる暇もなく、俺の体は吹き飛ばされる。
そのまま地面に叩きつけられ、ゴロゴロと何度も転がったあとうつ伏せになって止まる。
「浩介くん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫。これくらいじゃ力尽きないよ」
心配する愛美さんにそう返しつつ起き上がる。
奴の体全体を使った遠心力による尻尾の攻撃を食らったらしい。
左肩がひどく痛み、槍を握る手にも力が入らない。
しかし、奴はもう俺のほうを向いていて、いつでも追撃が出来る状態。
ブレスか突進か。どちらにせよ呑気に体力を回復している暇はない。
痛む腕を無理矢理動かして槍を握り直す。そして盾を構える。
それを待っていたかのように、奴がこちらに向かって突進してくる。
読み通り……。そう心の中で呟く。
俺は武器をしまうことも逃げることもせず、自分の前に盾を構える。
そして槍を持つ腕に力を込める。
『カウンター』
俺のこの武器を使う理由の半分以上は、この技に惚れ込んでいるからだ。
相手の攻撃を盾でいなし、直後に槍で渾身の突きを放つ。
これほどまでに攻守のバランスが取れた武器はなかなかないだろう。
奴は止まる様子もなく、俺に向かって一直線に走ってきている。
よし、これは決まった──そう思った直後。
「なっ!」
目前まで近づいた瞬間、奴は地面を蹴りあげ空に飛び上がる。
それに惑わされ盾の構えを解除したのが間違いだった。
「くっ……」
俺の視界を埋め尽くすほどの奴の巨大な翼。
それをはためかし空に飛び上がったとき、物凄い風圧が襲いかかってきた。
それに耐えまいと踏ん張る。しかし奴はその隙さえ見逃さなかった。
「ぐはっ!」
「浩介くんっ!」
奴が空中からブレスを吐いてくる。
それは無防備な俺に直撃し、またもや大きく吹き飛ばされる。
二回連続のダメージとブレスによる火傷で、だいぶ満身創痍な俺。
「いま回復させるね!」
それを見て愛美さんが、先程俺が使った怪しい白い粉を取り出す。
あ、言うのを忘れていたが、あの粉は決して法に触れるものではない。
散布された粉が肌に触れるだけで一瞬で傷が治ったりするが、全くもって危ないものではない。
愛美さんは慣れない様子でポーチを漁る。
しかし、急に弓での遠距離攻撃がなくなったことに奴も感づいたのだろう。奴の標的が愛美さんに切り替わった。
愛美さんはポーチを見ていて気づいていない。そして奴は再び口元に炎をたぎらせていた。
飛んでいる奴には思うように攻撃も出来ない。それなら方法は一つ。
「愛美さん、目閉じて!」
「えっ、うん!」
そう返答が返ってくるときにはすでに俺は"それ"を奴の顔の前に投げていた。
閃光玉。投げた後に炸裂し、強い光を放つアイテムだ。
油断している敵に目前へ投げ込めば、少しの間目を眩ませ時間を稼ぐことができる。
炸裂する瞬間俺も目をつむる。小さな炸裂音がしたあと奴の呻き声が聞こえた。
空中で視力を失った奴はバランスを崩し、そのまま重力に引かれて地上へ落下。
地面でもがく奴は隙だらけだが、今は攻撃をしている場合ではない。回復に専念だ。
奴の視力が戻るまでに、愛美さんの怪しい粉と自分の回復薬で傷を癒す。
そして、万全の状態でもう一度武器を取ろうとした時。
視力の戻った奴は、すぐさま青空の遥か上空まで飛んでいってしまった。
逃げたか……。奴のほうも疲労しているのだろう。もう一息かな。
「ふぅ。今のは危なかったね、浩介くん」
「そうだね、念のために閃光玉を持ってきておいて正解だったよ」
武器をしまいながら、そう愛美さんと会話する。
閃光玉がなく、愛美さんまでブレスを食らっていたら本当に危ない状況だった。
二人して一息ついて、おのおの武器を研いだり回復薬の調合をし始めた時。
一瞬、自分とその周りに影がかかった気がした。
不思議に思い振り返るが、そこにはギラギラと光る太陽しかなかった。
『気のせいかな?』と考える脳とは裏腹に、何故か胸騒ぎがした。すごく嫌な予感がする。
武器を研ぐのを中断して上空を見回してみる。
ぱっと見たところ、異常はない。やっぱり気のせいなのかなと視線を戻した瞬間、またもや自分の周りが影に飲み込まれる。
すぐさま太陽の方向を見る。
そこには、太陽の光を浴びて赤色に輝く鱗。それを全身に纏った奴が、一直線にこちら──いや、愛美さんのほうへ滑空してきていた。
標的が愛美さんだと分かる頃には、奴がすぐそこに迫っていた。
振り返って、後方の少し離れた所にいる愛美さんへ声を飛ばす。
「愛美さんっ!!」
「へ?」
ポーチを漁っていた愛美さんは、不思議そうな声を出しながら顔をあげる。
それと、奴が俺の真上を通過するのは同時だった──。
『Megumiさんは力尽きました』
『クエストに失敗しました』
そんなテロップが、画面に表示される。
思わず手を伸ばし画面を遠退けてしまう。
「ご、ごめん。死んじゃった……」
「いや、こっちこそごめん。油断してた」
横に座り、俺と同じようゲーム機を握る愛美さんとそう話す。
他のモンスターはなんとか狩れていたので、そろそろこいつに挑んでも大丈夫かなと思っていたのだが、普通にダメだった。
「やっぱり、もうちょっと強い装備を作ってからのほうがいいかもね」
「そっかぁ。うぅ、また素材集め……」
「気長にがんばろうよ」
「うん……」
そう愛美さんを慰めてからもう一度ゲーム機を握り直す。
今日は日曜日。今、俺と愛美さんは、俺の家で『モンフン』というゲームで遊んでいる。
前々からお互いにやっていることは知っていて、一緒にやりたいねと話していたのだ。
そんなこんなで結局、付き合い始めてから初の自宅デート兼、初めての一緒にゲームということになったのである。
「それにしても、やっぱり浩介くん上手だね。私なんてダメダメだよ……」
「そんなことないって。俺はちょっと長いことやってるだけだから」
満を持して二人でモンフンをやり始めたものの、どちらかというと俺が愛美さんを引っ張っていく感じになってしまった。
それについてちょっと愛美さんが落ち込んでいる様子。うーん、俺はそんなに気にしてないんだけどなあ。
どう愛美さんに言葉を返そうか悩んでいた時、ふいに俺の携帯が鳴り始めた。
「あ、ごめん。ちょっと電話出るね」
「うん」
愛美さんに一声かけてから携帯を手に取る。
画面には『真人』の文字。こんな昼間から電話かけてくるなんて珍しい。
「もしもし?」
『よう、浩介。ちょっと話があるんだが、今いいか?』
「うん、大丈夫だけど。どうしたの?」
『ああ。来週の土曜日か日曜日に、お前と佐倉さんも一緒にダブルデートしないか?』
「へ?」
耳を疑う提案に、思わず愛美さんの顔を見てしまう。
愛美さんは不思議そうな顔でこちらを見て首を傾げる。
「だ、ダブルデートって。もう一組のカップルは……?」
『もちろん俺と長谷川さん』
「えっ。ふ、二人は付き合ってるの!?」
『いや、まだ付き合ってない』
「そ、そうだよね……って『まだ』?」
『まあまあ、そんな細かいことはどうでもいいんだよ。用は四人で遊びに行かねえかって話だよ』
「う、うん。まあ、それならいいけど……。ちょっと待ってね」
『おう』
そう許可を得て、携帯を耳から離して愛美さんのほうを向く。
電話中の俺の声しか聞いてない愛美さんは、なんだか困惑した様子。
まあ、いきなりダブルデートとか言い出したら困惑もするよね。
「真人からの電話なんだけど。愛美さん、来週の土曜日か日曜日のどっちか予定空いてる?」
「う、うん。両方とも空いてたと思うけど……」
「俺たちと真人、長谷川さんの四人でダブルデート……というか四人で遊びに行かないかって話だったんだけど。どう?」
「そ、そういうことだったんだ。うん、ダブルデート……っていうのは恥ずかしいけど、また四人で遊びには行きたいなっ」
「俺も。よし、じゃあ決まりだね。真人?」
『おう? 佐倉さんなんだって?』
「是非にだってさ。俺も、四人でまた遊びに行きたいって思ってる」
『そうか! んじゃ来週の土日な。どこ行くかとかはまた学校で相談しようぜ』
「うん、わかった」
『おう、じゃーな』
真人はテンションの上がった声で話したあと、電話が切れる。
前にマレラに行ったときは、一緒に行動はしていたが四人で遊んだという感じではなかった。
「楽しみだね、来週!」
愛美さんが嬉しそうにはにかみながら言ってくる。
彼女も四人で遊べるということがすごく楽しみなんだろう。
まあ、かくいう俺も改めて四人で遊べるというのは胸が高鳴る。
「だね。目一杯楽しもう!」
「うんっ!」
愛美さんと付き合ってから……いや、愛美さんと出会った時から。俺の生活はすごく変わった。
慌ただしくも楽しいこの時間に、満足感を覚えずにはいられないのだ。
たぶん、これからもそんな毎日が続いて行くんだと思う。
まずは来週。どんな思い出になるのか、今から楽しみだ。
ごめんなさい、前々から書きたかったんです許してくださいなんでもしますかr
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