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第57話 もう一つの告白

 こんにちは。ガラケー小説家、風井明日香です。

 今さらではありますが、私の携帯ガラケーなんです。某メッセージアプリは使えるのですが、ゲームとかは当然できません。

 そして、たまに友人からこんな通知が来るのです。

『一緒にモ〇ストやろう! ダウンロードはこちら』

 ……うん、なんかアイテム貰えるかは知らんけどな? ガラケーの俺に広告を送るのやめよ? ぶっ飛ばすよ?


「今日は何にする? 長谷川さん」


「そうね……。チョコパフェにでもしようかしら」


「ほんと好きだよなあ、パフェ」


「な。いいでしょ別にっ。それに、あなただってどうせコーヒーゼリーを頼むんでしょう?」


「椿っちエスパーかよ」


「あなたが単純すぎるのよ」


 今朝。浩介と佐倉さんから、顎が取れるほどびっくり仰天な報告を受けた。

 あまりに突然の大ニュースに猛烈ダッシュで長谷川さんに伝えに行ったのだが、みぞおちに見事なアッパーをもらった。ちなみにまだ痛い。


 今は放課後。お熱いあの二人が手を繋いでさっさと帰っていったのを見届け、俺と長谷川さんはいつものカフェに向かって歩いているところだ。


「それにしても。今朝は本当にびっくりだったわね」


「それな」


 長谷川さんも同じことを考えていたらしい。

 本当に、あまりにも急すぎた。これまで応援はしてきたが、こんなにも早くこんなにも突然にゴールインするとは思ってなかった。

 放課後、浩介たちと別れるときには二人から「ありがとう」とお礼も言われた。二人も薄々気づいていたのだろう。


「俺たちのお役目も、とりあえずは一段落って感じだな」


「そう……ね」


 長谷川さんの声のトーンが少し落ちた気がした。

 不思議に思い表情をうかがってみるが、そんな様子は全くなかった。気のせいか……?


「よし、じゃあ今日はお疲れ様会だな」


「お疲れ様会……ねえ。案外私たち、何もしてなかった気がするのだけど」


「そう言うなって。それに、さっき浩介から聞いたが最後に背中を押したのは長谷川さんなんだろ?」


「それはまあ、そうだけれど……」


「俺のほうこそ何も出来なくて悪い。今日はたっぷり労わせてくれ」


 いまだに府に落ちてなさそうな顔をする長谷川さん。

 どうしたもんかと思っていると、いつものカフェに到着する。


 まあ、とりあえず中に入って話をしないとどうにもならない。


「いらっしゃいませ~。こちらのお席へどうぞ」


 毎度恒例の眩しい営業スマイル店員さんにつれられ着席。

 そして、いつもなら「ご注文がお決まりになりましたら」という決まり文句が来るのだが……。


「ただ今キャンペーン中でして。カップル限定メニューはいかがでしょうか?」


「「へ?」」


 今日に関しては違った。……ああ、そうか。まだあの期間限定イベントやってんのか。


 あの期間限定イベントというのは、今店員さんが言ったようにカップル限定メニューのことだ。

 少し前に、長谷川さんの勧めで浩介と佐倉さんを恋人(仮)として向かわせたやつだ。


 なるほどな。この眩しい店員さんは俺たちが恋人同士だと思ってるんですね、わかります。

 そういえば、長谷川さんもこの限定メニュー食べたいとか言ってたような……。


「どうする? 長谷川さん」


「へっ? ど、どうするって何のことかしら?」


「いや、だからカップル限定メニューの話だよ。前食べたいと言ってたろ? なんなら奢るぞ?」


「そ、それはさすがに悪いわよ。あなたにだけ、いつもそういうことをさせるなんて嫌なのよ」


「限定メニューについては否定しないんだな。よしっ。店員さん、カップル限定メニューお願いします」


「カップル限定メニューお一つですね~」


「ちょっ。私はいいなんてまだ一言も──」


「以上でお願いします、店員さん」


「かしこまりました。少々お待ちくださ~い」


 乗り気じゃない長谷川さんを無視してちゃっちゃと注文を済ます。

 ふぅ、融通のきく店員さんでよかったぜ。常連の特権だな。


「第一、私たちカップルでもなんでもないじゃない……」


 小声で長谷川さんが言ってくる。


「いいんだよ、そんなの。浩介たちだってあの時はまだ恋人じゃなかっただろ?」


「それは……」


 言葉を詰まらせる長谷川さん。


「あいつらだってちょっと不正して食ってんだし、俺たちも堂々としてようぜ」


「………」


 そう言っても長谷川さんは無言になってしまう。

 なんか長谷川さんって好意を素直に受け取ってくれないんだよな。まあ、そこがいいとこでもあったりするんだが。


 * * *


 しばらくしてさっきに増した笑顔の店員さんがやってきて、限定メニューを持ってきてくれたのだが──


「さすがにこれは予想以上なのだけれど……」


「すまん。やっぱり俺がお金全部払います」


 持ってきたのは巨大なパフェとドリンク。

 いや、それはいい。パフェがめっちゃでかくてスプーンが一つってこと以外は大丈夫だ。

 問題なのはドリンクだ。


「おいおい、浩介たちこんなの飲んでたのかよ……」


「驚きが隠せないわね」


 ドリンクに刺さっていたは二つのストローがハート型に交わりあったしれもの。

 マジでこんなので飲むのか……。本当に浩介たちがこれで飲んだんだったら尊敬ものだぞ。


 それと、さっきはスルーしたがスプーンが一つだけとは何事かね。

 ……もしかしてあれか。恋人同士なんだし「あ~ん」して食えってことか。いや、難易度高すぎぃ。


 これも浩介たちはやったのか……?

 ……いや、もしそうなら俺たちもやるしかないだろう!


「よし、早速食べようか長谷川さん!」


「それはいいけど松下くん、スプーンが一つしかないのだけれど」


「あ~んして食べろっていう神と店員さんからのお告げだよ。早く食べようぜ」


「……あなた、正気?」


「バリバリ正気だよ。そうしないと恋人じゃないってバレるかもしれないだろ? 浩介たちだってそうして食べたはずだ。やるしかないだろ」


「……邪な気持ちはない、と?」


「たりめーだろ! ないない、ベリベリナッシング!」


「邪な気持ちしかないのね。はっきりわかったわ」


「なぜバレたし」


 大きくため息をつく長谷川さん。

 ストローと「あ~ん」に渋ってるようだが、完全に視線はビッグパフェに釘付けである。なんとも分かりやすい。


「邪な気持ちがないって言ったらそりゃあ嘘にはなるが、仕方ないだろ? 最初の一回ずつだけでも、な?」


「…………はぁ。しょうがないわね」


「決まりだな」


 間を開けてもう一度ため息をついてから、本当に渋々といった様子で了承してくれる。

 ありがとう。神様と店員さん、マジありがとう。


「よし、いつも長谷川さんからしてもらってるし、俺からやるよ」


「こ、恒例行事みたいに言わないでくれるかしらっ」


「はい、あーん」


 長谷川さんの言葉をスルーして、パフェをすくって彼女の顔の前にもっていく。

 長谷川さんがひきつった顔で固まるが、俺は明るい笑顔でスプーンを差しのべ続ける。


 数秒間そのまま固まった後、観念したように長谷川さんが目を閉じて口を開ける。

 俺は今一度「あーん」と口にしながら、ゆっくりとパフェを乗せたスプーンを長谷川さんの口の中へ入れる。


「どうだ? おいしいか?」


「……おいしいわ」


「そりゃよかった。んじゃ、俺にも食べさせてくれよ」


「………っ」


 そう言って長谷川さんにスプーンを渡す。

 しばらくの間なにやら葛藤していた長谷川さんだったが、もうさすがに色々諦めたらしい。


「ほら、じゃあいくわよっ」


「おう、よろしく頼む」


 前のように「あ~ん」とは言ってくれなかったが、しっかりと長谷川さんのほうからも「あ~ん」をして頂いた。

 ちなみに長谷川さんの頬は赤みを帯びている。いまだに恥ずかしいらしい。


「ど、どう? お味は」


「ああ、うまい。サンキュな長谷川さん」


 すると、長谷川さんがスプーンを持ったまま何か考え始める。

 そして、恐る恐るといった様子で聞いてくる。


「えっと……。あなた、す、好きな人からあ~んされるのが嬉しいんだったわよね……?」


「ん? ああ。やっぱ最高だよ。今ので寿命が三年は伸びたな」


「……っ! ね、ねえ。一つ聞きたいのだけど」


「なんだ?」


「あ、あなた。私のことが、す──…………い、いえ。なんでもないわ」


「?」


 なぜか途中で口をにごらせ、話を打ち切る長谷川さん。

 それを誤魔化すように一人でパフェを食べ始める。


「なあ、長谷川さん」


「なにかしら?」


 俺は一つ息を吐いてから口を開く。


「俺、長谷川さんのことが好きだ」


「えっ──」


「前から好きだった。あの二人の関係に一区切りついたら言おうと思ってた」


「っ! ほ、本気なの……?」


「嘘でこんなこと言わねえよ。俺は長谷川さんが好きだ。長谷川さんさえよければ付き合ってほしいと思ってる」


「──っ!」


 長谷川さんはこれまで見たことないほど顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。

 たっぷり時間を置いた後、かすれそうなほど小さな声で長谷川さんが答える。


「す、少し、考えさせてもらえないかしら……?」


「ああ、もちろん」


 そう話した後、長谷川さんに気づかれないように息を吐き出す。

 テーブルの下の両手には尋常じゃない汗が滲んでいた。


 はぁ……こんなに緊張したのは、いつ振りだろうか。まだ心臓バクバクしてるし。

 長谷川さんも答えたきりパフェも食べずに黙ったままだし。……よし。


「変な話して悪かった。一旦今のは忘れて飯食おうぜ」


「そ、そうね」


「よしっ! じゃあこれ二人で飲もうぜ!」


 そう言って俺はパフェの横のハートストローを指差す。


「あ、あなたっ、本気なの?」


「当たり前だろ。何か問題あるか?」


「デリカシーなさすぎよ! その……ふ、雰囲気とかあるでしょうっ」


「ああ、そうか。すまん」


「はあ……。分かればいいのよ」


「なあ。俺……さ。長谷川さんとこれ、飲みたいんだけどさ。一緒に、どう?」


「そういう意味の雰囲気じゃないわよ!」


 雰囲気という注文が入ったのでダンディーな感じでバーっぽく誘ってみたのだが、ダメだった。


「なあ、せっかくだし飲まないか? 俺個人としては、すごい長谷川さんと一緒に飲みたいんだよ。ダメか?」


 もう一度だけそう長谷川さんにお願いする。

 彼女は、ほんのり頬を染めて考え込んだ後、


「も、もし、私たちがそういう関係になったのならしてあげるわっ」


「えっ?」


 思わず声が出る。

 長谷川さんはすぐにそっぽを向いてしまうが、その横顔の頬と耳はこれでもかと赤くなっていた。

 ……それなら、しょうがないな。気長に待ちますかね。


「そうか、わかった。じゃあ──」


 これから長谷川さんとの関係がどうなるかは分からない。

 でも。だからこそ面白いんだって思える。もちろん、不安だってあるが。


 とりあえず今は、焦らずゆっくり待とう。

 ゆっくり、ゆっくりと距離を縮めていければ、それでいい。


「──じゃあ、もう一回だけあ~んでパフェ食べようぜ!」


「そういうところなのよ! あなたは!」


「えぇ~?」


 いつか、夢見た未来が叶いますように。

 PS。やっぱり「あ~ん」は最高です。

 椿っち、かわいい……(ある意味自画自賛)


 毎週日曜0時更新中! 次話≫7月1日

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