第54話 決心、迷い、勘違い
こんにちは。なんじゃもんじゃ系小説家、風井明日香です。
そういう名前の最近少し話題なカードゲーム、皆さんご存じですか?
私もつい最近知って友人四人とやったんですけどね。これが本当に面白い。
一応子ども向きのゲームではあるらしいんですが、ある程度大人になってからのほうが絶対面白いですよ、あれ。
「よーし、それじゃあテスト返すわよ」
授業開始直後、香苗先生が全員のテストを教壇でトントンしながら話す。
テスト期間から数日後、今日からテストが返却される。
俺と愛美さんの努力の結果が返ってくるというわけだ。
まず最初に返されるのは数学。
出席番号順で返却されるため、愛美さんのすぐ後に取りにいく。
目の前でテストを受けとる愛美さん。
後ろから見守る俺もなんだか緊張してくる。
香苗先生から愛美さんにテストが手渡される。
点数を確認した愛美さんはクルっとこちらに振り向く。
そして、八十六点と書かれたテストを見せながら、嬉しそうに微笑んだ。
そのかわいい笑顔に、俺も思わず笑顔になる。
愛美さんに続き俺もテストを受けとる。
点数は九十二点。うん、俺も満足な点数だ。
その後、国語のテストも返却。俺の点数は、なんと愛美さんの数学と同じ八十六点。
おそらく小学校以来の八十点越えだ。素直にうれしい。
俺と愛美さんは、その他の教科でも八十点から七十点くらいの点数を獲得。
充分に勉強会の成果はあったと言えるだろう。
「やったねっ、浩介くん」
「だね。愛美さんのおかげだよ」
「私こそ浩介くんおかげだよ。本当にありがとっ」
「こちらこそだよ。ありがとう」
放課後にそんな話を愛美さんとする。
二人とも高得点を取れたせいか、少しテンションが高い。普段は教室でたくさん話したりはしないのだが、そんなこと今は気にならない。
「あー、杉浦。ちょっといい?」
そんな至福の時間に邪魔が入る。
犯人は香苗先生。言わなくても用件は推測できる。愛美さんと手を振り合って別れを告げ、先生のところへ向かう。
「今日は何の手伝いですか? 先生」
「いやー毎度毎度悪いわねー、杉浦」
ちっとも悪気のなさそうな笑顔でそう言ってのける香苗先生。
へい、香苗先生? 私は愛美さんとの貴重な時間を割いて来ているんですよ? もっと何かとるべき態度があるんじゃないですか?
「この資料いつものところへ運んでおいてほしいのよ。私今から会議でね、お願いできない?」
「大丈夫ですよ。任せてください」
内心ではそんな軽口を叩きつつ、結局は引き受けてしまう俺。
はあ、愛美さんともっと話したかったんだけどな。残念なことに体が勝手に動いてしまうんだよなあ。
先生からお願いされた資料を持って教室を出る。
先生が言っていた「いつもの場所」というのはとある準備室のことだ。色々な資料が置いてある。
先生からお願いされる時は、結構この準備室に行くことが多い。
階段を上がり校舎の端にある部屋へ資料を持っていく。
資料を置いたあと棚の整理をして、ちょっと埃っぽかったので軽く掃除をする。
先生は雑に棚を使うし、この教室の掃除担当はいないし。一周回ってこの部屋が可哀想なレベルである。
そんなこんなで、ちょっと時間を食ってしまい結局十五分ほど経ってから準備室を後にする。
みんなもう帰ってしまっただろうか。
真人は何か用事があったみたいだし、愛美さんは俺が教室を出るとき長谷川さんと何か話していた。もしかしたら二人で帰っているかもしれない。
今思えば一人で帰るのは久しぶりかも。最近ずっと愛美さんと帰っていたため、ちょっと新鮮。正直に言えば少し寂しいけど。
そんなことを考えながら教室に向かって歩いていると、誰かの声が聞こえてくる。
放課後なんだし生徒の声の一つや二つ聞こえてきて当然なのだが、その声は聞き覚えのある女子二人の声だった。
「…………んでしょう? ………くんのこと」
「………うん。………いいし、やさしいし」
遠いため、途切れ途切れで何を話しているのかは分からないけど、愛美さんと長谷川さんの声だということは理解できた。
もう少し歩いて近づくと、階段を半分降りた踊り場で会話しているらしい。
なんでわざわざこんなところで立ち話してるんだろう? まあ、とりあえず話しかけてみ──
「やっぱり、告白したほうがいいのかな?」
「(えっ?)」
こ、告白……? 愛美さんが告白するってこと? え、誰に……?
「私はそれがいいと思うわ。言わなきゃわからないこともあるもの」
長谷川さんも応援してる……。じゃあこれは愛美さんの恋愛相談ってこと……?
ど、どうしよう。俺が出ていくのはさすがにダメな気がするし、だからって聞き耳立て続けるのも……。
「なんて伝えたらいいのかな……? この、好きって気持ち……」
「伝え方なんてどうでもいいのよ。愛美のその気持ちがただ伝われば充分よ」
自信なさげな愛美さんに、やさしく助言してあげる長谷川さん。
これ、ガチなやつだよね。前みたいに勘違いとかそういうのじゃないのが、二人の雰囲気からわかる。
それなら、なおさらこのまま立ち聞きするのはダメだ。
……でも、ダメだと分かっていても気になってしまう。──愛美さんが誰に告白するのか。
「……私決めた。今週中に告白するっ」
「大きく出たわね、愛美。私がせかしておいてなんだけど、そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
「ううん、もう決めた。これ以上自分の気持ちを隠すの、嫌なの」
「(っ!)」
愛美さんが発したその言葉に思わず声が出そうになる。ついでに心臓もドクンと跳ねた。
だってそれは、今の俺に言われているような気がして。その言葉が、直接自分に刺さっているような気がして。
「そう。いい返事が返ってくることを祈ってるわ」
「うんっ。ありがと」
そんなことを考えているうちに二人の話は進んでいく。
俺はどうすればいい? このままだと愛美さんは遅かれ早かれ今週で決着をつけるつもり。
俺がもたもたしていたら愛美さんは絶対に手の届かない遠くへ行ってしまう。そうなったら完全に手遅れだ。
この気持ちを伝えたほうがいいのだろうか? しかし、愛美さんだって誰かに思いを伝えるつもりだ。
俺の告白で、愛美さんとの今の関係が変わってしまうのはすごく嫌だ。
でも、言わなければ愛美さんはどこかに行ってしまう。それはもっと嫌だ。
わがまま、だよね。俺。
そんな呆れる気持ちと焦りの気持ちが混じり、呼吸が整わなくなる。
伝えずに後悔するより、伝えて後悔したほうが断然いい。……でも、やっぱり今の関係を壊したくな──
ガァォン。
「あっ……」
突如として廊下に響く金属が叩かれた音。それと同時に左足へやってくる何かを蹴った感覚。
足元にあったバケツを誤って蹴ってしまったらしい。倒れたわけでも壊れたわけでもないけど、俺は気が気ではなかった。だって──
「誰かいるの?」
階段から長谷川さんの声がする。当然階段にいた二人の耳にも音は届いている。
人のいないところで話していたはずなのに、不審な音がすれば警戒もしてしまう。
長谷川さんの声はいつもより低く、それだけで警戒の意思が読み取れる。
隠すのは無理だ。正直に出るのが、礼儀というかマナーだよね。素直に謝ろう。
「ご、ごめん。たまたま通りかかってちょっと立ち聞きしてた……」
「っ!?」
壁から出てそう話すと、長谷川さんは少し安堵の表情をするが愛美さんは驚愕の表情でうろたえる。
動揺と焦りを露にしながら愛美さんが聞いてくる。
「こ、浩介くん。今の話、聞いてた……?」
「う、うん。ごめん、少しだけ」
「っ!」
そう答えると、愛美さんは顔を真っ赤にした挙げ句、顔を伏せてバッとその場から逃げてしまう。
「あっ、愛美さん!」
そんな制止の声には耳もかたむけず行ってしまう愛美さん。
ど、どうしよう。……いや、でもそっか。あんな大事な話を他人に聞かれちゃったんだもんな。そりゃあ恥ずかしいし怒るのが当然だよね……。
最低……だな、俺。もう、嫌われた……よね。伝える以前に、これまでの関係すら俺は……。
「杉浦くん?」
「長谷川さん……。何?」
「あなた、どこから話を聞いてたの?」
「どこから……? えっと、愛美さんが告白したほうがいいのかなって言ってたところからだけど……」
「そう……。それなら、今すぐ愛美を追いかけてちょうだい」
「え? な、なんで……? 俺は愛美さんの大事なことを盗み聞きしてて」
「だから追いかけてって言ってるの。二人とも勘違いしてる」
「勘違い……? な、なにを?」
「説明してる暇はないわ。ほら、早く行って!」
ドンッと背中を叩かれ、勢いで階段の前でつんのめる。
振り替えると、長谷川さんはいつになく真剣な目でこちらを見つめてきていた。
「おねがい。追いかけて」
「……わかった」
その真剣な眼差しの中に、一瞬優しい感情が見えた気がした。
それを感じた瞬間、俺の足は巻ききったゼンマイを離したように動き出した。
あぁ^~バケツの音ぉ^~↑
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