第52話 恋人(仮)と喫茶店へ
こんにちは。ラーメン系小説家、風井明日香です。
先日、友人たちととあるお祭りに出向きまして。結構な人ごみの中、お祭りの屋台を満喫してそろそろ帰ろうかという時。
友人がスガ〇ヤでラーメン食おうぜとか言い出しまして。……おいしく頂きました。ス〇キヤうまい。
「明日、私の恋人になってくれませんか?!」
「へ?」
愛美さんからかけられた言葉で俺の頭は真っ白になり機能停止。口を閉じることすら出来なかった。
「「………」」
当然会話はストップ。
口を開けた男子高校生と頬を染めた眼鏡っ娘が、手を繋いで見つめ合い会話はゼロ。
なんだろう、この謎すぎる状況は。
っていやいや、それよりも重要なことがありますよ。
「め、愛美さん? こ、恋人って……付き合うってことだよね?」
「うん。浩介くんにしかお願いできないことだから……」
お、俺にしか!? ち、ちょっと待とう一旦落ち着こう。深呼吸して落ち着こう。
すーはー。吸って~吐くのが深呼吸~。ふぅ、よしちょっと落ち着いてきた。
いきなり過ぎて少し理解が追い付いてないけど、告白……でいいんだよね?
俺間違ってないよね? 勘違いじゃないよね? 勘違いだったら死ぬよ?
「お、俺でよければもちろんいいよ」
「ほんとっ!? ありがとう浩介くん! じゃあ明日よろしくねっ」
「あ、明日?」
あれ、そういえば最初そんなこと言ってたような。
明日よろしく……。土曜日に何か予定が……?
え、いきなりデートとかってこと? いや、さすがにハードル高くないですか?
「ど、どこか行くの?」
「え? うん。その喫茶店に行くよ?」
そ、その喫茶店? どの喫茶店だろうか。なんか話が噛み合ってないような気がするんだけど……。
「ほら、明日からその喫茶店でキャンペーンがやるから」
そう言いながら携帯を見せてくる。 画面に表示されていたのは、その喫茶店の広告らしき画像。
ちょっとオシャレな感じの背景に、これまたオシャレな文字でこう書かれてあった。
『期間限定、カップル限定メニュー発売中。~落ち着いた空間で、大切な恋人と至福のひとときを過ごしませんか~』
「ちょっと前から、椿とこういうの行きたいよねって話してたの。そしたら椿が、浩介くんにお願いしたらどうって。本当にありがとね、浩介くんっ」
………。
……………。
そういうことかああああああああああ!!
普通に勘違いだったじゃないかああああああああああ!!
「だ、大丈夫だよ。一日、恋人に、なるくらい……」
自分でも声が沈んでいくのが分かる。
さすがに愛美さんも違和感を感じ取ったらしい。
「浩介くん、どうかした? やっぱり嫌だった……?」
「いや、そんなことは全然ないんだけど。なんというか、勘違いのショックが大きかったと言いますか……」
「勘違い?」
「その、いきなり恋人になってって言うから、てっきり本気の告白なのかなって……」
「ふぇっ!? あ、あれ、喫茶店の話浩介くんにしてなかったっけ……?」
「うん、全く。だから俺変な勘違いを……。ああ、思い出しただけで恥ずかしい……」
「ご、ごごっ、ごめん! わ、私そんなつもりじゃ……。~~っ!」
自分の失態に気づいたのか、頬を真っ赤にしてうつむいてしまう愛美さん。繋いだ手にも力が入っている。
愛美さんのことだし、誘うことで頭がいっぱいで少し手順を間違えてしまったのだろう。誰が悪いわけでもないただのすれ違いだ。
「それに気付かずに軽率な返事してごめん。今になって嫌な気持ちにさせちゃったよね」
「だ、大丈夫だよ。何も気にしてないっ」
「でも、やっぱごめん」
「ほ、本当に気にしてないからっ。 」
「え?」
「な、なんでもないっ。そ、そう! 勉強しよ、勉強! まだプリント終わってないでしょ? 愛美先生が見てあげるからっ」
「う、うん」
ちょっと強引な愛美先生に諭され、勉強を再開する。
勘違いしちゃってはいたけど、愛美さんと二人で喫茶店に行くというだけで充分なスペシャルイベントだ。それも恋人という設定で。
……明日、楽しみだな。
そんなことを考えながら、下校時間まで手を繋いだまま勉強会は続いた。
* * *
次の日の休日。俺は愛美さんと一緒に、高校がある場所からさほど遠くない喫茶店に来ていた。
昨日見た広告と同じで、派手すぎずオシャレで落ち着いた雰囲気の店だ。まあ、まだ中には入ってないから外見だけだけど。
店の外にも広告のポスターが貼ってある。
やっぱり、いざ実際に来てみるとなんだか緊張してくる。愛美さんもちょっとそわそわしてる。
「だ、大丈夫かな? ちゃんと恋人同士に見えるかな……?」
「た、たぶん……」
残念ながら生まれてこのかた恋人が出来たことがない俺には判断が出来ません。
いや、愛美さんはかわいいし眼鏡っ娘だし、しっかり彼女として見られるかもしれない。
しかし、その横にいるオタクがその彼氏に見えるかは甚だ怪しいところである。
愛美さんが提案してくる。
「じ、じゃあさ。手、繋ぐ……?」
「こ、ここで?」
「うん。そうしたらカップルに見えるかなって……」
たしかにそれなら確実かもしれない。恥ずかしさの塊ですけど。
というか、これだけ高校の近くだと学校の人にばったり会ってしまうかもしれない。
いやでも、愛美さんの勇気を出した提案を無下にするのも……。
「私は、繋ぎたい……かな」
「是非繋ぎましょうそうしましょう」
「ほ、ほんとっ?」
「男に二言はありませんとも」
「ふふっ、なにそれ」
微笑む愛美さんに手を差しのべる。そして愛美さんのほうから握りしめてくれる。
それをやさしく握り返したあと、二人で喫茶店に入る。
内装も、広告通り外装と同じで落ち着いた雰囲気だった。
休日ということもあり中は結構賑わっている。そして、当然ながらカップルが多い。
「いらっしゃいませ~。二名様でよろしかったでしょうか?」
やたらと笑顔が眩しい店員さんの接客に、愛美さんより先に俺は「はい」と返す。
そう、こういうのは男のほうがリードしていくべきなんだよ! 知らないけど!
「こちらのお席へどうぞ~」
店員さんに案内され二人席に座る。
すると、店員さんが聞いてくる。
「カップル限定メニューをご希望でしょうか?」
「あっ、はい」
てっきり「ご注文がお決まりになりましたら~」と来ると思ったのだが違った。
今やっている例のキャンペーン目的だと踏んで、最初に聞いてきたのだろう。
思わず反射的に答えてしまったが、大丈夫だっただろうか。
そう思い愛美さんに視線で問うと、恥ずかしそうにしながらもこくこくと頷いてくれた。
「他にご注文はございますでしょうか?」
「大丈夫です。愛美さんも、大丈夫?」
「うんっ」
「かしこまりました。少々お待ちくださ~い」
変わらない眩しい営業スマイルを浮かべながら店員さんが戻っていく。
「えへへ、ちゃんと恋人同士って思ってくれたね」
目の前に座る愛美さんが照れ臭そうにそう話す。
本当によかった。手を繋いだことも功を制したのか、なんとか俺は彼氏認定されたらしい。
俺は「そうだね」と安堵の息を漏らす。
それから愛美さんと世間話や勉強のことを話していると、再び営業スマイルの店員がやってくる。
「お待たせしました~。こちら、カップル限定パフェと限定ドリンクになります。では、ごゆっくりどうぞ~」
店員さんが高さが目線くらいはある大きなパフェと、これまた大きめなグラスに入ったドリンクを持ってくる。
「すごい豪華だね……」
「ねっ!」
愛美さんは目をキラキラさせてすごい嬉しそう。やっぱり女の子と言えば甘いものって感じだよね。
美味しいスイーツ食べて幸せそうに頬を緩める女の子って圧倒的にかわいいと思います。
と、二人してうきうきしていた中、事件は発生した。
最初に異変に気づいたのは愛美さん。
「あれ、スプーン一つしかない……」
「あ、ほんとだ」
大きなパフェにはパフェ用のスプーンが一つ刺さっているだけ。
そしてよくよく考えてみたらドリンクが大きなの一つだけというのもおかしな話。
そう思い今一度ドリンクを見ると、あることに気づいてしまった。
「愛美さん。こ、これ……」
「えっ!?」
驚いた愛美さんの視線の先にあるのは、ドリンクのストロー。驚くだけのことはあり、当然ただのストローではない。
カップル限定ドリンクのストローは、二つのストローを組合せハート型になった、よく見るカップル御用達ストローだったのだ……。
「こ、これで、飲むの……?」
「まあ、うん。そうなる……ね」
周りを見てみると、どのカップルも普通にあのストローで飲んでいる。それも、しっかり二人で同時に。
そして、他のテーブルでもパフェのスプーンは一つの模様。それは何故か。その人たちを見れば一目瞭然だった。
「はいっ。あ~ん♡」
「あ~ん」
どのカップルもみんなして「あ~ん」をして食べさせ合っていた。
そういうことですか……。今考えると難易度高いなこの限定メニュー……。
「わ、私たちも、ああやってに食べないとダメだよね……?」
「へっ?」
「そ、そうじゃないと恋人に見えないかもしれないし……」
「そ、そっか。たしかにそうかも」
愛美さんの言う通りだ。カップルとして来てるわけだし恋人っぽく振る舞わないとダメだよね。
そう、決して愛美さんと「あ~ん」したいとかハートストローで飲みたいとかそういう邪な思惑なわけではない。ないよ?
「じ、じゃあ、えっと……。あ、あ~ん」
「あ~ん……」
愛美さんから「あ~ん」してもらう。
久しぶりにパフェを食べたが、こんな甘くて美味しかっただろうか。
当然俺も愛美さんも赤面マックス。はたから見たら初々しいカップルにでも見えるかもしれないが、そもそもカップルじゃない。
そんな二人で「あ~ん」をしたら、ぎこちなくなって赤面するのが当たり前というものである。
「こ、浩介くんも、食べさせて……?」
「う、うん」
パフェを一口すくって突入準備完了。
愛美さんは、目をつむり小さな口を開いて恥ずかしそうに頬を染めている。
い、いくぞっ。杉浦浩介!
「あ、あ~ん」
「ぁ~ん……」
うおおおお! 俺「あ~ん」しちゃったよ! 愛美さんに! 眼鏡っ娘に!
それに、今思えばこれ間接キスじゃないですか? え、大丈夫? 俺逮捕されない?
お互いに恥ずかしさで動揺しまくりである。
「お、おいしいね」
「う、うん。久しぶりにパフェ食べたけど、すごいおいしい」
正直言えば恥ずかしさやらなんやらで、甘いってこと以外何も分からなかったんですけどね。
そして、愛美さんが呟く。
「あとは、これ……だけど」
「なんというか、難易度高いよね」
「うん……」
俺たちの視線の先にあるのは、例には例によるハートストローのドリンクである。
これ、本当に飲むのか……。さすがにこれは色々まずい気がするんだけど……。
愛美さんもそう思ってるはず──
「でも、恋人なんだし……や、やらないとだよねっ」
飲む気満々だったあああああ!
「そ、そうだよね」
いやいやいやいや。何が「そうだよね」だよ俺!
まずいでしょこれは! 恋人同士ならまだしも……いや恋人同士って設定だけど! さすがに──
「ほ、ほら。こうふけくんも……」
愛美さんもうストローくわえて待機してるううううう!?
なんか今日の愛美さん積極的すぎない!? 気のせいじゃないよね?!
身を乗り出してストローをくわえる愛美さん。羞恥で赤くなり目を閉じて俺を待っている。
ここまできて引き下がるわけにもいかないし……。い、いくぞ俺は。男を見せる時!
「う、うん」
そう愛美さんに返し、ストローをくわえる。
「っ!」
超至近距離に、愛美さんの顔と眼鏡が迫る。
その恥ずかしさと、服がたるんで一瞬胸元が見えかけたことが重なり、すぐに視線をそらす。
そして、どちらからということもなく飲み始める。緊張で渇いていた喉を限定ジュースが潤していく。しかし、何故か味がしない。
考えていた十倍は恥ずかしいんですが、なにこれ。そりゃあ味なんて感じる余裕もないですよ。
「「っ!!」」
ちょっとした出来心で目線を戻した時、ちょうど愛美さんと目が合ってしまう。
至近距離での見つめ合いにはさすがに耐えきれず、二人同時にストローから顔を離す。
「「………」」
愛美さんの顔は真っ赤っか。自分の顔も熱くて明らかに赤くなっているのが分かる。
む、無理無理! これ「あ~ん」なんて比じゃないくらい恥ずかしいよ!
結局そのあとは、あまりの恥ずかしさにパフェもドリンクも片方ずつ頂いていくことになった。
結論。「あ~ん」もハートストローもドキドキはするけど、恥ずかしさでそれどころではないです。
ちょっと浩介くんそこ交代しよ?(真顔)
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