第50話 おしえてっ、浩介先生!
こんにちは。遅刻系小説家、風井明日香です。
都合(眠気)により投稿時間が一時間遅れてしまいました。申し訳ありません。
あれですね、学校でずっと皆勤してたのに三学期で忘れ物して欠課ついたみたいな感じがしますね。辛い。
愛美さんと放課後の勉強会の約束をした次の日。
授業は終わり今は放課後。いつものように真人と駄弁りながら、鞄に教材を入れていく。
「そういえば浩介。佐倉さんのお手伝いってまだやってるのか?」
「図書委員の仕事のこと? それなら昨日ちょうど終わったよ」
「あ、ああ。やっぱりそうなのか……」
なにやら苦い表情をする真人。というか、やっぱりってどういうことだろう。
「でも、その代わりに図書委員になったんだよね」
「……は? おいちょっと待てそのこと詳しく話せ」
さらっと話した俺の言葉に、すごい剣幕で食い付く真人。
いや怖い、怖いから。そんな血走った目で顔を近づけてくるんじゃない。
「香苗先生にお手伝い終わったって報告した時に図書委員にならないかって聞かれてさ。二つ返事で是非って」
「おいおいマジかよ。やるじゃねえか浩介。見直したぞ」
「う、うん。ありがとう?」
何について誉められたのかいまいちよく分からなかったけど、とりあえずお礼を言っておく。
「浩介くんっ」
肩に手を置かれ「いやあ、お前ならやってくれると信じてたよ」とか意味不明なことを言い始めた真人に半ば呆れていると、後ろから愛美さんに名前を呼ばれる。
その瞬間、真人から肩を掴まれぐるっと百八十度回れ右させられ背中を押される。
少しつんのめりながらも愛美さんに返事する。
「ど、どうかしたの? 愛美さん」
「えとね。昨日話してた勉強のことなんだけど、やる場所が決まったからそれを報告しにきたの」
「ああ。そうだったん──」
「おい待てその話を詳しく」
俺の言葉を遮っていきなり俺たちの間に入ってくる真人。
いやだからなんなんだよその食い付きようは。鼻息荒いよ変態くん。
「昨日話してた勉強のこととは一体なんのことだ浩介氏。包み隠さずミカンの如く話したまえ」
「なんでミカンに例えたの……。えっと、図書委員にはなったんだけど今仕事が無くてさ。だから愛美さんと二人で勉強しようって話になったんだ」
「うぉいうぉいマジか。今の話は本当か佐倉さんや」
「え、うん。私テストちょっと自信なくて。だから浩介くんに勉強を教えてって頼んだの」
「コングラッチュレイション・パーフェクトプログラムッ!」
愛美さんの言葉を聞いた真人が、唐突に天を仰いで叫ぶ。他ならない、ただの変態である。
真人が叫んだ声は心なしか教室の中を反響して、その余韻が無くなったと同時にいきなり変態は走り出す。
「椿っち~~!!」
そう声をあげながら教室を出て廊下を走っていく。こら、廊下は走っちゃいけませんよ。
というか「椿っち」って長谷川さんのことだよね……? いやその、なんか嫌な予感しかしないんですが……。
真人の奇声と奇行によって静まりかえった教室の中、廊下のほうへ耳を澄ませる。
「椿っち! 朗報だぜ朗報! 椿っぐふぉお」
廊下、というか隣の教室からゴンッという鈍い音が聞こえてくる。それと同時に真人のうめき声も聞こえた。
ほらもう、言わんこっちゃない。
あの鈍いゴンッという音は、まあ十中八九真人に下された長谷川さん鉄拳だと思うけど。
なかなかなクリティカルヒットで真人がダウンしたのか、代わりに長谷川さんの声が聞こえてくる。
「が、学校でそんな呼び方をしないでくれるかしらっ。変態くん」
「大ニュースだぜ長谷川さん! 浩介と佐倉さんがコングラッチュレイションでパーフェクトなんだよ!」
「あなたの母国語で話すのはやめてもらえるかしら……。私は日本語しか理解出来ないのよ。とりあえず話は喫茶店で聞くから、ほら行くわよ?」
「ワンッ」
「「………」」
自分たちそれぞれの親友同士で繰り広げられる会話に、思わず愛美さんと目を合わせる。
いや、えっと。どこからツッコめばいいのかな、これ。とりあえず、犬じゃねえかってツッコミ入れときますね。
仲が悪いわけじゃないし別にいいんだけど、あの二人は普段何をしているんだろうか……。
前々から気になっていたのだが未だに掴めない。
「と、とりあえずさっきの続きだけど、勉強はどこでするの?」
「あ、うん。図書館の倉庫がどうかなって思ったんだけど、どうかな?」
「図書館の倉庫って俺たちが仕事をやってたところだよね? 勝手に使ってもいいの?」
「大丈夫だよ。今日香苗先生に聞いたら、二人には頑張ってもらったし自由に使っていいよって」
お手伝いが終わっても、まだあの倉庫にはお世話になるらしい。
結局今日も愛美さんと一緒に倉庫へ向かう。なんだか不思議な気分。
いつものように倉庫に入り、いつもとは違い勉強道具を取り出す。
今日のために授業以外の参考書や問題集も持ってきた。まあ愛美さんに勉強を教えるのが目的なんだし必要ない気もするけど。
そして、ふとあることを思い出す。
「あれ、この倉庫に机ってあったっけ?」
「うんっ。たしかこっちに……」
さすがに床でやるのは腰が不安だなあと思って聞くと、愛美さんが倉庫の奥へと案内してくれる。
「これだよ。なんか雰囲気あると思わないっ?」
「なんか大きい書斎の真ん中とかにありそうだね」
「ふふっ、だよね。私も同じこと考えてたっ」
倉庫の奥、本棚が立ち並ぶ中に大きめの机が一つ。社長とかが座ってそうな感じもする。
でも当然ながらイスは一つしかないので、図書館から一つお借りしてくる。
イスを持って戻ってくると、すでに愛美さんは机の上に教材を並べ席について準備万端。
俺も教材を持って愛美さんの向かいに席を置いて座る。
「えへへ、なんか向かい合って勉強って変な感じだね」
「だね。ちょっと緊張する」
「浩介くんも? 私もなんかドキドキしちゃってる」
はにかみながらそう言ってくる愛美さん。
やめて! そんなこと言われたらこっちもドキドキしてくるから!
「俺も勉強してるから、分からなくなったらすぐ呼んでね。すぐに教えるから」
「うんっ。ありがと!」
そう微笑み合ってから勉強を開始。
特に重点的に勉強するところも思い付かなかったため、今日の授業のノートを復習しておく。
愛美さんは勉強会の時と同じく数学の問題集に取り組んでいた。
むむむ……といった様子で問題とにらめっこしているのを見ると、やはり愛美さんの苦手教科は数学らしい。
「愛美さん、数学苦手?」
「うん……。なんかどうやって考えればいいのか分かんなくなっちゃうの」
しょんぼりした顔をする愛美さん。
俺はそういう経験をした記憶はあまりないけど、たしかに苦手な人からしたらそこが一番難しいのかもしれない。
どんな考え方をすればいいのか。どの公式をどのように使えばいいのか。
愛美さんにはそもそものところから教えてあげたほうがいいかもしれない。
「今はどこで詰まってるの?」
席を立ち愛美さんの隣まで移動して横から覗き込む。
「えっと、ここなんだけど……」
愛美さんのほうもイスをずらして俺のほうに近づいてくる。
前の勉強会と同じような状況に、思わず一歩後退りしてしまいそうになる。
でも、真面目な愛美さんからのお願いだし耐えなきゃ……。
すぐ近くに寄った愛美さんの顔。彼女の眼鏡やちょっとした表情の変化に意識がもっていかれる。
そんな邪な雑念を振り切って勉強を教える。
「ここはこの公式を使うんだけど、そもそもこの式はこういうふうに出来ててね……」
なるべく飛ばすことのないよう、一つ一つ丁寧に教えていく。
愛美さんはふむふむと頷きながら真剣に話を聞いてくれる。
一通り解説を終わらせると、
「すごい……。公式の成り立ちを考えるだけでこんなに理解出来るなんて」
「よかった。ちょっとは役にたてたかな?」
「すっごく分かりやすかった! 私的には香苗先生よりも浩介くんのほうがいいかもっ」
言葉を弾ませてそう話す愛美さん。
公式について香苗先生も触れてはいたのだが、結構さらっと流れるように解説していただけった。
もう一度しっかり解説して置いて正解だった。
「前の時も思ったけど、浩介くん教えるの上手だよね」
「そうかな?」
「そうだよっ。なんか一流の家庭教師みたいな感じだったよ」
「全然そんなんじゃないって。でも、家庭教師かあ。なんか悪くないかも、その響き」
「私もそう思う! 浩介くんが家庭教師か~。……浩介先生、だねっ」
愛美さんが、ちょっと恥ずかしそうにしながら放ったその言葉に思わず固まる。
「? どうかした? 浩介先生」
固まった俺を心配するように声をかけてくれる愛美さん。しかし、しっかり先生呼びは継続されている。
いやその、あのね? 本当に正直に言わせてもらうと先生呼びめっちゃいいです。もう今にも先生昇天しちゃいそうです。
「ご、ごめん。先生呼びが嬉しくて、先生ちょっと取り乱しました」
「ふふっ、そうなの? 浩介先生っ。浩介先生~っ」
「それ以上は耐えきれません!」
自分の破壊力を理解していない敵ほど恐ろしいものはないと確認した瞬間である。
結局、勉強会が終わるまでの間ずっと先生呼びをされ続けた。
眼鏡っ娘から先生呼びをされ慕われてる感じ。めちゃくちゃよかったです。
今さらですけどこの小説、私の願望と妄想入りすぎてますよね。
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