表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/62

第4話 微妙な距離

 どうも、月一更新系小説書き、風井明日香です。

 なんかもう月一更新が普通になってきました。理想は週一更新です。はい、無理です。


 佐倉さんが倉庫から出ていってからそろそろ一時間といったところだろうか。

 腕時計を見ながらそんなことを考える。


 そんなことを考えるくらいなら、目の前の大量の本をより早く分別する方法でも考えたほうがよっぽどましだろう。


 決してこの作業に嫌気が差して、他ごとを考えていた訳ではない。

 考え事の根源の存在が大きすぎるのだ。

 言うまでもないだろう。佐倉さんである。


「(照れた佐倉さん、可愛かったな……)」


 一時間前から俺の頭の中は、このことで埋め尽くされている。

 紛れもない変態である。


 ……しかし、あれを見せられてときめかない男がいるだろうか。

 否!いだろう。


 そんなバカなことを考えながらもう一度腕時計を確認する。

 五時五十分。部活に励む人たちもそろそろ撤収し始める時間だ。


 たしか図書館が閉館するのも六時くらいだったはずだ。


「よし……」


 俺は腰を上げて、倉庫を出る。

 そして最初と同じようにそっと図書館の扉を開ける。


 さっきまでいた人たちは全員いなくなっていて、先程にも増して静かになっていた。

 少し緊張しつつ中に入り、カウンターを確認する。


 佐倉さんはカウンターで、またもや俯いていた。

 また寝てしまったのだろうか。少し近づき様子を伺ってみる。


 佐倉さんは手で顔を覆い小刻みに震えていた。

 な、何か悲しいことでもあったのだろうか…。


 少し戸惑いながらカウンターに近づき声をかける。


「あ、あの…佐倉さん?」


「ひゃいっ!?」


 俺が声をかけたとたん、佐倉さんはすごい声を出しながら立ち上がる。

 そして、勢いよく立った佐倉さんの頭は、心配そうに体を傾けていた俺の頭に一直線に向かっていき──


 結果。


 ゴッ……

「ぐはっ…」「いたっ!」


 図書館に鈍い音と共に、二人の声が響き渡る。


 いってぇ……。

 俺は心の中で悲鳴をあげ、おでこをさすりつつ、なんとか声を出す。


「さ、佐倉さん。大丈夫……?」


「う、うん。大丈夫……」


 佐倉さんは痛みで少し涙目になりつつ返してくれる。

 だが俺が聞きたいのはそれだけではない。


「あの、さっき俯いてたけど、何かあったの?」


「へ? あ、いや、なんでもないの! 気にしないで!」


「そ、そっか」


 震えていたしすごく気がかりだが、気にしないでと言われたら深く追及するのは失礼だろう。


「そ、それで、どうしたの? 杉浦くん」


 そういえばまだ用件を話していなかった。


「いや、そろそろ閉館かなって」


「え、もうそんな時間?」


 佐倉さんはそう言いながら図書館の時計を見る。

 俺もつられて時計を見る。

 短針はほぼ六時を指している。


「ほんとだ。もうそろそろ閉館の時間だね」


 佐倉さんはそう呟くと、手早く片付けを済ませカウンターから出てくる。

 なんとなくその光景を眺めていると、佐倉さんに声をかけられた。


「私は今から教室に荷物取りに行くけど、杉浦くんはどうする?」


「あ、俺も荷物置いてあるから、教室戻るよ」


「そ、そっか。じゃあ一緒に行こっか……」


 少し照れぎみに言ってくる。

 断る理由もないので、お誘いに乗ることにした。


 図書館を出て扉のかぎをかけ、教室に向かう。


 二人並んで廊下を歩く。

 俺と佐倉さんの間は人二人分ほど離れていて、遠くもなく近くもなく、微妙な距離。

 先程から特に会話もなく、倉庫の時のような気まずい空気が漂う。

 心もまた、微妙な距離だ。


 その距離を少しでも近づけようと、思いきって佐倉さんに話しかける。


「そういえば、佐倉さんって何組なの?」


「わ、私は一組だけど、杉浦くんは?」


「あ、俺も一組」


「同じクラスだったんだ! 知らなかった……」


「うん。俺も今始めて知った……」


 こんなに可愛い眼鏡っ娘が同じ教室に居たのに気付かないとは……。一生の不覚!


 気付けば会話は終了し、またさっきの距離に戻ってしまっていた。


 そして、その距離を保ったまま、教室に到着する。

 お互い無言のまま自分の席に向かい、鞄片付けを開始する。


 佐倉さんの席は廊下側から二列目の前から二番目の席だった。

 ちょうど俺の席とは対角線上の離れた場所だった。


 しかし、香苗先生も同じクラスの人ならそう言ってくれればよかったのに……。いや、気づいていなかった俺がバカなだけですね、はい。


 手早く片付けを済ませ鞄を持ち上げ、なんとなく佐倉さんのほうを見る。

 佐倉さんは何かの本を鞄にしまおうとしているところだった。

 一瞬見えた表紙を見て俺は驚愕した。


 あれ、『あのすば』……?


 『あのすば』というのは略称で、正しくは『あの素晴らしい世界に祝福を!』という。

 今大人気のライトノベルで、既にアニメ化もされている。

 かくいう俺も大ファンで、スピンオフも含め全巻揃えていたりする。


 そんな本を佐倉さんが持っているということは、チャンスである。

 どうチャンスなのかと問われれば……


 佐倉さんが『あのすば』を持っている→俺と趣味が同じかも→お近づきになれるチャンスかも…!


 ……どうということはない。ただの平凡な男子高校生の思考である。

 何処からか湧いてくる勇気を胸に、佐倉さんに近づく。


「ん? ど、どうしたの? 杉浦くん」


 佐倉さんが問いかけてくる。

 俺はできるだけ平然を装いながら話しかける。


「あ、あのさ、さっき鞄に入れてた本って、『あのすば』?」




「えっ……?」

 みんなも知ってるよね!『あのすば』!


 ↑前回の反省を生かし短くなった後書き

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ