第47話 猫カフェデートと連絡先
こんにちは。禿同系小説家、風井明日香です。
知り合いの女性が、現在九割男子の学校に通ってるらしいです。
周りが男子だらけって辛くない?と聞くと、周りが女子だらけより断然マシとのこと。
同意しかない。
勉強会から一夜明け、昨日愛美さんと約束した猫カフェに行く日の朝がやってくる。
部屋から出てリビングに入ると、珍しくすみれが俺より早く起きて朝食をとっていた。
「おはよう、すみれ」
「おはよ~」
すみれは昔からあまり朝に強くない。
最近では少なくなったが、すみれが小学生のころは朝俺が起こしにいくのが日常だった。
中学生ともなると、やはりお年頃というやつなのだろうか。ある時、もう起こしに来なくていいと本人から言われた。
朝の習慣だった、すまれの寝顔が見れなくなったのは寂しいが、まあすみれもそれが恥ずかしくなったんだろう。
「今日は起きるの早いね、すみれ」
「なんか目が覚めちゃったんだよね」
とは言いつつ、あくびをしながら目を擦るすみれ。
そんなに今日が楽しみだったんだろうか。いやまあ、俺も人のことを言える立場じゃないんだけど。
とりあえず、俺も朝食をとるべくすみれの横に座り、母さんの用意してくれたミルクティーを口に含む。
と、キッチンにいた母さんから話しかけられる。
「あ、浩介、聞いたわよ? 今日クラスの女の子とデートなんだって?」
「ブフォッ!」
俺の喉を通ろうとしたミルクティーは、突然の肺からの刺客に逆らうことなく、口から吐き出される。
「ごほっごほっ」
「お兄ちゃん汚いよ。テーブルが可哀想」
むせる俺に無慈悲な言葉をかけるすみれ。
お、お兄ちゃんよりも、そのテーブルのほうが大切だと言うのか、すみれ……。
っていやいや、それよりも。
「いやちょっと、デートって。一緒に出掛けるだけだよ?」
「それをデートと言わなくて、何をデートと言うのかお母さん分からないのだけど」
「友達と行くだけだから! それにすみれも一緒だし!」
「あら、そうなの? すみれ」
「うん。お兄ちゃんと、愛美先輩って人と一緒に猫カフェに行くの」
「あらやだ! 三角関係で修羅場ってやつね!」
「どう解釈したらそうなる!」
うちの母さんは、昼ドラの見すぎなのか思考回路がおかしくなってしまったのかもしれない。
実の妹とクラスメイトの三角関係なんて謎すぎるだろうが。ラノベでもそんなの……あったら面白そうだな、うん。
その後、軽く朝食を済ませ、ほんの少し気合いを入れて準備をする。
そして時刻は九時半。集合時間の三十分前だ。今から家を出れば、二十分前には駅に着けるだろう。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい浩介。もしも、どうしようもなくなったら『二人とも幸せにしたい』って言うのよ」
「言わないよ!」
母さんはいつまでこのネタを引っ張るんだろうか。
そろそろツッコミするのも疲れてきたんですが。
「すみれも行ってらっしゃい。あなたには『なでなで』っていう必殺技があるから、頑張りなさいね」
「わかった。がんばる」
「頑張るな!! 母さんも変なこと吹き込むのはやめろ!」
いい加減にツッコむのも面倒くさくなって、すみれの腕を掴み逃げるように玄関を出る。
……はあ。朝から結構な気力を持っていかれた。まだ今日の一大イベントは始まってもいないのに……。
* * *
家を出る前、母さんに絡まれたせいで少し遅れてしまったが、十五分前には駅に到着。
駅の入り口で、愛美さんの乗る電車が到着するのを待つ。
駅に着いて、一つ目の電車がやってくる。
すみれと一緒に改札を見に行くと、ちょうど改札を出る人の中に愛美さんの姿を発見した。
改札のほうに行き、愛美さんに向かって手を振る。
愛美さんは俺たちの姿を見つけると、たちまち笑顔を見せ、こちらに走ってくる。
「おはよう浩介くん、すみれちゃん。ごめん、待たせちゃったかな?」
「ううん、全然。今来たところだよ」
「よかった~。あっ、すみれちゃんの私服! かわいい~」
俺の言葉に安堵の声を漏らしたのも束の間。すみれの私服に食いつく愛美さん。
さすが、愛美さん。分かってらっしゃる。今日のすみれは母さんコーディネートのちょっと気合い入りの服装だ。控えめに言ってめちゃくちゃかわいい。
すみれは少し照れつつ答える。
「あ、ありがとうございますっ。愛美さんは……昨日と同じワンピースなんですね? すごくかわいいですけど」
「えへへ。最近この服、すごい気に入ってるんだ~」
そう言いながらチラッと俺のほうを見て、微笑んでくる愛美さん。
お、おうふ。そういう不意打ちはよくないですよ、愛美さんや。心臓が飛び出るかと思ったよ。
今日も、愛美さんが着てる服はマレラで俺が選んだ純白のワンピース。
それも、すごくお気に入りなんだとか。よ、よかった。あの時の俺は、選択肢を間違えていなかったらしい。
「じゃあ、行こっか」
二人にそう声をかけ、切符を買って改札をくぐる。
猫カフェがあるのは、マレラのある愛美さんの最寄り駅とは反対方面。電車と言っても二駅程度だから、さほど時間はかからない。
電車に揺られ十五分ほど。猫カフェの最寄り駅で電車を降りる。
そこから徒歩で約十分。目的の猫カフェに到着する。
中に入ると、一見オシャレでかわいい喫茶店のような内装。
しかし、店の奥には猫専用スペースと見られる場所があり、数人の客の中にチラチラと猫の姿が見える。
愛美さんとすみれもそれに気づいたのか、奥を覗きながらソワソワし始める。二人とも分かりやすいなあ。
落ち着かない二人のためにも、早めに受付を終わらせよう。
二人を連れて受付に向かい、そこにいたお姉さんに話しかける。
来る前にも調べていたことだが、この猫カフェは時間制。カラオケのように、決められた時間の間、好きなだけ猫たちと触れ合えるということだ。
ちなみに、俺が受付であれこれ話をする中、二人は。
「看板猫……」
「かわいい……!」
受付に座る看板猫に釘付け。二人して、今日最初の猫との接触に目をキラキラさせている。
……なんだろう、この保護者感は。
その後、受付のお姉さんから注意事項や、猫と上手に仲良くなるためのコツまで教えてもらった。
さっきまで看板猫にご執心だった二人も、すごい剣幕で耳を傾けていた。
……ほんとに生き別れの姉妹か何かじゃなかろうか、この二人。そう思うほどいろいろ息ぴったりすぎだ。
愛美さんとすみれの生き別れ姉妹説を考えてる間にお姉さんのお話は終了。
ようやく、店の奥へと行くことが出来るようになった。
俺はとりあえず普通のカフェスペースに腰掛け、コーヒーを頂く。
が、まあ予想通り、めぐすみコンビは一目散に猫スペースに向かっていった。欲求に抗わないとこまで一緒らしい。
「ふわぁ……! 猫ちゃんがいっぱい」
「て、天国みたいです……」
かわいい声を漏らす愛美さんに続き、すみれも感嘆の声を上げる。すみれの思い描く天国には猫がいるらしい。
しかし、二人とも緊張気味なのか、すぐに触ろうとはせず、ずっと猫たちを眺めている。そんなとこまで一緒ですか、あなたたち。
なかなか一歩が踏み出せない二人を、微笑ましく見守りつつもう一口コーヒーを飲む。
すると、気まぐれな猫なのだろうか、愛美さんたちがいるところからテトテトと俺のほうに歩いてきて、ひょいっと膝の上に乗ってきた。
その気まぐれ猫は、一度俺の顔を見たあと、図々しく膝の上で丸くなる。
珍しいやつもいたもんだなと思いながら、適当に撫でておく。しかし、特に嫌がる様子もなく寝続ける猫。俺の膝に何かあるんだろうか。
その後も膝に猫を乗せながらコーヒーを飲んでいると、それに気づいた例の二人が声を上げる。
「あ~! 浩介くんずるい!」
「お兄ちゃん、抜け駆け」
「え、えぇ……?」
いや、そんなこと言われても。猫のほうから乗ってきたんですけど?
うーん、さっきは珍しい猫だなって思ったけど、猫カフェにいる猫だしやっぱり人懐っこい子が多いんだろうか?
「野良猫ほど警戒心は強くないだろうし、二人も勇気を出して触ってみれば?」
「そ、そうだよね。猫カフェって言うくらいだもんね。よ、よし……」
そう意気込んだ愛美さんが、恐る恐る一匹の猫へ近づいていく。
先程、受付のお姉さんに教えられたことを実践し、四つん這いで姿勢を低くする。
その瞬間、ワンピースのスカートから愛美さんの最終防衛ラインの布が見えかけ、慌てて視線をそらす。
視線をそらした先にちょうど一匹の猫が。こちらをジト目で見つめてきている。な、なんだよ。お、俺はまだ何もしてないぞ。
その猫と、しばらく睨み合っていると愛美さんの喜びの声が聞こえてくる。
「ふわぁ……。ね、猫ちゃんが私の腕の中に……!」
猫を抱き上げ、頭を撫でてみたり頬をすりすりさせてみたり、心から幸せそうな顔をしながら猫と戯れる愛美さん。
それを見たすみれも、我慢出来ないといった様子で近くにいた猫をそっと抱き上げる。
「も、もふもふ……してる」
すみれも愛美さんと同じように、撫でたり肉球をぷにぷにしたりして猫と触れ合う。
愛美さんの猫もすみれの猫も、特段嫌がる様子もなくされるがまま。やっぱり人懐っこい猫ばかりのようだ。
すみれの言う通り、たしかに猫と触れ合うことに関しては天国かもしれない。
「浩介くんもこっちで一緒に遊ぼうよ!」
「あ、うんっ」
愛美さんから呼ばれて、立ち上がろうと瞬間。膝の上にいた猫のことを思い出す。
俺がどうしようか迷っていると、膝の上の猫がスッとこちらの顔を見てくる。
やあ、猫さん。俺、立ち上がりたいんだけど、あなたはどうお考えで?
そう心で聞いてみると、猫さんはもう少し俺を見つめてきたあと「にゃぁ~」とぬるい声を上げながら胸に寄り掛かってきた。
そのあとも、にゃあにゃあ鳴きながら退く気配がないので、仕方なく両脇に手を入れ抱き上げる。
でろーんと重力に引かれて体が伸びる猫さん。それでもなお、にゃおにゃおと鳴き続ける。
なんとなく抱き上げた手が離せなくなってしまい、諦めて猫さんを抱き抱えたまま、愛美さんのもとへ向かう。
「ふふっ。浩介くん、その猫ちゃんと仲良しさんだね」
「はは、なんか気に入られたみたい」
愛美さんと向かいあってそんな話をする。
俺が喋ると腕の中の猫さんが「にゃぁあ」と俺に反応してるように鳴く。
俺と愛美さんが一緒にいるのを見て、すみれも近くに寄ってくる。
すみれも、まだ先程の猫を腕に抱えたまま。三人とも一匹ずつ猫を抱っこした状態で集まる。
「ねえねえ! みんなで写真撮らない?」
しばらく三人で猫を愛でたり、ちょっと雑談をしていた時、愛美さんがそんなことを提案してきた。
「いいですね、写真! ね? お兄ちゃん」
「うん。でも、どうやって撮るの?」
「店員さん!」
即答した愛美さんが、さっきの受付のお姉さんを連れてくる。
お姉さんは愛美さんから携帯を預かると「じゃあ、こっちに座ってください」と俺たちを誘導。背景が良さげなところにセッティングしてくれる。
こ、このお姉さん慣れてるなあ。
「じゃあ撮りますよー!」
「はーい」
三人横に並び、猫を抱っこした状態で写真を撮ってもらう。
お姉さんにお礼を言って携帯を返してもらった愛美さんが、写真を確認しながら、
「あとで二人にも写真送るね!」
「うん」
ああ、なんかこういうやり取りいいな。よく分からないけど、すごく幸せなやり取り……。
……って、あれ? そういえば。
「あれ、愛美さんと連絡先交換したっけ……?」
「へ?」
俺の言葉に、慌てて携帯を確認する愛美さん。
数秒後、恥ずかしそうに頬を染めながら報告してくる。
「も、持ってなかった……」
「だ、だよね」
「えと、じゃあその。教えてくれない……かな。連絡先……」
「もちろん」
恥ずかしそうに聞いてくる愛美さんに、やさしく微笑みながら、携帯を取りだす。
「すみれちゃんも、交換しない?」
「はい、是非!」
すみれと一緒に愛美さんと連絡先を交換する際、俺は心の中で声を大にして愛美さんの連絡先をゲットした喜びを叫んでいた。
携帯の中に、はじめて家族以外の異性の連絡先が入った瞬間である。
俺はそんな喜びを密かに噛み締めつつ、時間ぎりぎりまで三人一緒に猫と戯れ続けた。猫カフェ最高!
『抱き抱える』って絶対外国人読めないと思うんですが。日本語複雑すぎませんか()
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