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第46話 猫カフェなんていかが?

 こんにちは。絶望系小説家、風井明日香です。

 突然ですが私、今期のアニメで楽しみな作品が二つあります。

 そしてその作品がほぼ同じタイミングで地上波放送をする予定でして。

 私のテレビ、同時間の別チャンネル録画が出来ないんです。


 うん。まあ、はい。絶望ってやつです。


「ふぅ~」


 シャーペンを置き、一つため息をつく。

 勉強会を開始し、途中休憩をはさみつつも、かれこれ三時間は勉強をしていた。


 久しぶりにまとまった勉強をしたし、愛美さんにだいぶ精神力を持っていかれたのも重なり、かなり疲れた。


「うわ、もうこんな時間!」


 手が止まった俺と時計を見て、隣に座る愛美さんがそう話す。

 現在時刻は午後五時過ぎ。そろそろお開きでも悪くない時間だろう。


「よし、じゃあそろそろ終わるか」


 俺と同じことを考えていのたか、真人がそう提案してくる。

 すみれも含め女子三人は賛成。もちろん俺も賛成。


 ちなみに、勉強会は長谷川さんとすみれ、俺と愛美さんという組み合わせで終始進んだ。

 おかげで長谷川さんとすみれも打ち解け、真人はもれなくぼっち勉強をすることになった。


 俺が愛美さんに数学を教えている時、横から微かに「こんなはずでは……」という声が聞こえてきたのは幻聴ではないだろう。

 うん、なんかごめん。真人。


「じゃあお兄ちゃん、私お皿片付けてくる」


「あっ、私も手伝うよ」


 すみれがお茶のコップなどを持って立ち上がり俺に一声かけると、俺が反応するよりも早く愛美さんがそう言ってくれる。

 本当に、なんて気が利くんだろうか、うちの妹と愛美さんは。


 最初にお茶を準備したときと同様、並んでキッチンに立ち、作業を開始する二人。


「あっ、すみれちゃん。そのエプロン、すごくかわいい!」


「えへへ。実はこれ、ママの手作りなんです」


「そーなの?! お母さんすごいね! 特に、真ん中の猫ちゃんがすっごくかわいい!」


「ママと何か動物を入れるって話してて、私が猫がいいってリクエストしたんです」


「いいよね、猫! 私も大好きなんだよね~♪」


 洗い物をするためにすみれが取り出したエプロンで盛り上がる二人。

 そういえば、すみれは結構な猫好きなんだっけ。

 前、愛美さんも猫特集の雑誌を見てすごく興奮していたし、話が盛り上がるのも必然かもしれない。


 ふとあることを思い出し、携帯を取り出す。

 少し前にネットで調べ、ブックマークに登録しておいたサイトを開く。

 表示されたのは、とある猫カフェのウェブサイト。


 愛美さんが猫好きだということを知り、ついでに愛美さんの破壊力抜群の猫マネを受けたあの日。

 家で猫が飼えないという愛美さんを、猫カフェに誘おうと考えたのだ。


 調べてみた結果、電車で数駅行った場所に結構な人気のある猫カフェがあるらしい。

 まだゴールデンウィークは中盤。できればこの休みの間に行きたい。


 テストもあるし、図書委員関係の仕事も、もう本当にあと少しになってしまった。

 もしこの時を逃せば、もう誘う機会はなくなってしまうかもしれない。


「愛美さんっ」


「? どうしたの?」


 不思議そうな顔でこちらを見つめてくる愛美さん。

 ついでに、愛美さんと話していたすみれも疑問の眼差しを向けてくる。


「えと、前に愛美さんが猫好きだってだって聞いて調べてたんだけど。一緒に、猫カフェ行かない?」


「「えっ?」」


 愛美さんとすみれが見事に声をハモらせる。

 二人とも、驚きと興味が入り交じったような、表情まで一緒になる。


「猫カフェ……?」


 愛美さんが、おそるおそるといった感じに聞いてくる。


「うん。電車で少し行った所に人気の猫カフェがあるらしくて、愛美さん猫飼えないって言ってたし、どうかな……って」


 愛美さんが猫を飼えないのは、親のアレルギー体質が原因らしい。

 通学路に猫がいるから大丈夫……なんて言ってたけど、やっぱり飼いたいのに飼えないのは辛いと思う。


 これもほんの気休めにしからならないかもしれない。けど、少しでも愛美さんが喜んでくれたら。

 ……実は、誕生日プレゼントのお礼も兼ねてたりする。


「お、覚えててくれたんだ……」


 頬を染めて小さく呟く愛美さん。

 まあ、あんな破壊力のめぐにゃんを見せつけられたら、嫌でも記憶に残るよね。うん。


「そのゴールデンウィーク中に行く予定なんだけど、用事があるとかなら断ってくれていいし」


「ううん。猫カフェ、私も行きたい!」


 首を横に振ったあと、かわいい笑顔を見せる愛美さん。

 緊張していた体が少しほぐれた感覚になる。勇気を出して正解だった。


「え、お兄ちゃん本当に猫カフェ行くの?」


 一人話に置いていかれたすみれが、困惑した様子で聞いてくる。


「うん。猫カフェって行ったことないし。すみれも一緒に行かない?」


「そうそう、すみれちゃんも行こうよ!」


 俺がすみれを誘うと、愛美さんも同意してくれる。

 すみれも猫好きだから、愛美さんと猫カフェに行けば絶対に話は盛り上がるだろう。


(う~ん……。猫カフェ) (は行きたいけど、) (私が行かなければ二人) (きりだし……むむむ)


 てっきり、すぐに賛成してくれると思ったのだが、何かをぶつぶつ呟きながら葛藤している様子。

 ゴールデンウィークに用事でもあるのだろうか。お兄ちゃんそんな話聞いてませんよ!


「浩介? なんの話してんだ?」


 愛美さんと二人してすみれの返事を待っていると、勉強の片付けを終わらせた真人が話しかけてきた。


「愛美さんと、猫カフェに行こうって話しててさ」


「ほうほう、猫カフェとな。すみれちゃんも行くのかな?」


「………」


「ガン無視!?」


 真人が尋ねても、未だに決めかねているすみれは真人を完全スルー。

 これには真人のハートもボロボロである。悲壮な顔で目から汗を流してる。


「どうする? 真人も行く? みんなで行ったら楽しいと思うし」


 俺がそう問うと、少しの間すみれと同じように考え始める真人。

 少しして一瞬長谷川さんのほうを見る。そのあとこちらに手を合わせ、


「いや、悪い。今回はパスで頼む。ちょっと用事があってな」


「用事?」


「おう。ちょっと長谷川さんと二人で出掛ける予定があってな。ふへへ、ワンチャンあるでこれ……」


「う、うん。まあ通報されないようにね……」


 しかし、そうか。真人と長谷川さんは無理なのか。

 ってあれ、ちょっと待て? これ、すみれが来なかったら、愛美さんと二人きりじゃないか?!


 いや、たしかに猫カフェを調べてるときは、そうなるかもと思ってたけど……。

 すみれと愛美さんが猫の話題で盛り上がってたから、てっきりすみれも来るものだと思って油断してた!


 こ、これはなんとしてでもすみれを連れていかないと……。

 さすがに、二人きりでお出掛けはまだハードルが高い!


「すみれ! 一緒に行こうよ、猫カフェ! 猫カフェに行くんだったら、すみれがいないと始まらないよ!」


「私がいないと始まらない猫カフェって何!?」


「そんなこといいから! ほら、お兄ちゃんと一緒に猫と戯れに行こうよ!」


「そんなことって、お兄ちゃんが言ったことでしょ!? う~、わかったわかった、行く! 行くから、肩揺らさないで~!」


 俺の類い稀な説得術により、すみれを同行させることに成功。

 一人愛美さんは、俺を見て不思議そうな顔をしていたが……。


「えっと。愛美さん明日の予定って大丈夫?」


「うん。大丈夫だよ」


「じゃあ……明日の十時に学校の最寄り駅集合、でいいかな?」


「りょうかいっ。えへへ、楽しみ!」


「うん。目一杯満喫しよう!」


「だねっ!」


 こうして、俺と愛美さん、すみれの三人で猫カフェに行くことが決定。

 そのあと勉強会は解散。真人、愛美さん、長谷川さんの三人を玄関で見送る。


「じゃあな! すみれちゃん!」


「ああ、はい」


「露骨に冷てえ!」


 相変わらずなすみれの態度。

 うーん。普通だったらお兄ちゃんとして何か言うべきかもしれないけど、まあ……真人だしね?


 次は愛美さんがすみれに話しかける。


「じゃあねっ、すみれちゃん。また明日!」


「はいっ。また明日! 椿先輩も勉強のこと、ありがとうございました」


「こちらこそ。いい復習にもなったわ。また分からないとこがあったら遠慮なく聞いて頂戴」


 長谷川さんとも和やかに話が進む。

 今日、ほとんどの時間すみれは長谷川さんにマンツーマンで教えてもらっていた。

 今度改めてお礼を言っておかないとな。


「じゃあな。浩介」


「「お邪魔しました」」


 三人が出ていくのを、すみれと二人で手を振り見送る。

 なんとなく、一気に家の中が静かになった気がする。


「今日は楽しかったね、お兄ちゃん」


「だね。すみれも参加出来てすごいありがたかった」


「うん。お兄ちゃんもいい友達できてよかったね」


 すみれの言う通りだ。

 本当に高校入学から、愛美さんや長谷川さんなど本当にいい関係が出来たと思う。


「ただいま~」


 それからしばらくしてから母さんが帰ってきた。

 いつものようにリビングのソファで、すみれと一緒に出迎える。


「おかえり、母さん」


「ママおかえり~」


 そして、いつものように母さんはソファの横にバッグを置き……。


「むむ? この匂いは……女の子の香り! まさかっ、あの浩介が女を連れ込むなんて!」


「いや言い方! 友達と勉強会してただけだよ!」


「あら、そうだったの。つまらないわね」


 思考がぶっ飛んでる母さんにツッコミをいれると、つまらなそうな顔をしてキッチンへ向かう。

 相変わらずな母親である。


「ただいま」


「あ、おかえり父さん」


 母さんと一緒に帰ってきたのか、父さんもリビングに入ってくる。

 そして首をかしげて辺りを見渡す。


「んん? この匂いは……女子の香りだな。ま、まさか、浩介が女を家に連れ込んで……!?」


「お前もか!!」




 両親が結婚した理由が少しばかり分かった瞬間だった。

 友人が家に遊びに来たあと、部屋に残った友人の匂いが気になるこの気持ち、わかりますか。


 毎週日曜0時更新中! 次話≫4月15日

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