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第45話 勉強会と初対面

 こんにちは。氷上滑走系小説家、風井明日香です。

 ついこの前、友人数人とスケートに行って参りました。

 いやあ、はい。スケート舐めてました。片足で滑ろうと思ったら、それはもう足首がぐらっぐらしました。

 うーん。羽生明日香への道は長くなりそうです。


「お、おじゃましまーす」

「お邪魔します」

「じゃまするぞー浩介」


 誕生日の二日後、ゴールデンウィーク後半の初日。

 お昼過ぎ、昼食のチャーハンがそろそろ消化されてきた頃。

 家のインターホンが鳴り、玄関を開けるとそこには見慣れた三人がいた。


「真人が来るのも久しぶりだね。愛美さんと長谷川さんも、いらっしゃい」


 今日家に集まったのは、愛美さんと長谷川さん、そして真人。

 目的は勉強会。今月に中間考査があるということで、急遽四人で勉強をしないかという話になったのだ。


 きっかけは誕生日の夜。

 真人から電話越しに四人で勉強会をしないかと持ちかけられた。

 そのときは二つ返事で了解してしまったが、あと二人が誰かということすら聞かずに電話を切ってしまった。


 次の日学校で話を聞くと、あと二人は愛美さんと長谷川さんで、その二人にももう声をかけてあると言われた。

 その行動自体は、話が早く進んだということで良いのだが、もし俺の家に入るのを断られていたらどうするつもりだったんだろうか……。


 真人の行動力には目を張るものがあるが、計画性には一抹の不安が残る。

 まあ、もう慣れちゃったけど。


 とりあえず三人に家へ上がってもらう。

 真人は昔からよく遊びに来ているが、当然愛美さんたちは初めて。

 というか、異性を家に呼ぶことすら初めてかもしれない。


「浩介くんの家ってすごく学校から近いんだね。びっくりしちゃった」


 三人が玄関に少し入ったところで、愛美さんからそんなことを言われた。

 俺の家から学校までは徒歩で十五分ほど。

 愛美さんと長谷川さんが普段使っている駅までだと、ほんの十分程度。


 電車通学の愛美さんたちからすると、十分近場と言える距離だろう。


「そうだね。高校の志望動機も、三割くらいは近さだったしね」


 真人が行くことや出来る勉強、学力や校風。

 いろいろ理由はあるが、やはり近さという利点が結構大きかった。


 そして改めて愛美さんを見て、あることに気付いてしまった。


「あの、愛美さん。えと、その服って……」


「あ、うん。浩介くんに選んでもらったワンピース。どう、かな……?」


「う、うん。すごい似合ってる……よ」


「えへへ、ありがとっ」


 照れくさそうに、後ろに手を組みながらお礼を言ってくる愛美さん。

 愛美さんがマレラで購入した、白くてフリルのあしらわれた、可愛いワンピース。

 試着したときに一度見てはいるが、私服として着ている今のほうが、すごくかわいく見える。


「あれ? お兄ちゃんのお客さん?」


 愛美さんのワンピース姿に鼓動を早めつつもリビングに入ると、ソファに座るすみれが俺の後ろの三人を見てそう尋ねてくる。

 すると、俺が答えるより先に真人がすみれに話しかける。


「久しぶりすみれちゃん! 俺のこと覚えてる?!」


「記憶にないです」


「うそぉ!?」


 悲痛な声をあげながら、崩れ落ちる真人。

 俺もすみれも、それを特に気にすることなく会話を続ける。


「実は、今日みんなでテスト勉強しようって話になってさ。リビング使っても大丈夫?」


「ん、そゆこと。いいよ、リビング使って。お茶淹れてこよっか?」


「うん。ありがと」


 すみれは俺の返事を聞くと、すぐにキッチンへ向かい準備してくれる。

 うむ。我が妹ながら、すごく気が利くいい女性だ。嫁入りにはなんの心配もない。

 ……でもそっか。すみれも、いつかは家を出て嫁に入って……うぅ、考えただけで目からお茶が……。


「す、すごい気の利く妹さん……!」


 すると、それを見ていた愛美さんが、感動したようにそう声を溢す。


「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」


「なんで浩介が自慢気なんだよ」


 俺が自信満々にうなずいていると、真人からツッコミを入れられる。

 失礼な。あんな可愛くてしっかりした妹を褒めてあげることは、お兄ちゃんの大事な仕事なんだ。

 自慢気にして何が悪いと言うんだ、全く。


「すみれ……ちゃん、でいいかな? あの、私手伝おうか?」


 すると、愛美さんがキッチンへ向かい、準備をしていたすみれに話しかける。

 すみれは一瞬驚いた顔をしたあと、


「だ、大丈夫ですっ。私一人で出来ますし……」


「そう……? 私がお邪魔させてもらってるんだし、やらせてくれない……?」


「う、うぅ……。そ、そういうことなら……」


 愛美さんの、必殺眼鏡越し上目遣いが発動。すみれが愛美さんのかわいさに撃沈した瞬間である。

 『血は争えない』とはこのことだろう。


「じ、じゃあ、そこの棚からコップを出してもらえますか? え、えっと……」


「佐倉愛美。気楽に下の名前で呼んでっ。すみれちゃん」


(こ、この人が) (佐倉さん……。)はい……! 愛美先輩」


 そう話しながらお茶出しの準備を始める二人。

 最初こそ戸惑った感じのあったすみれだったが、すぐに打ち解けて仲良くおしゃべりも始めてる。


「いやあ、ああやって仲の良いかわいい女子二人が話してるのを見るのって、いいよな……」


「今回ばかりは同意だよ……」


 いつもながらの真人の発言にも、今は同意せざるおえない。

 あの眼鏡っ娘最高峰である愛美さんと、妹最高峰のすみれの組み合わせ。これほどまでに破壊力抜群なペアが他にあるだろうか。


「あなたたち。口開けて見てないで勉強の準備でもしなさい」


「「あ、すみません」」


 長谷川さんの一言で我に返り、二人してそそくさとこちらの準備も開始する。

 横目に、もう一度愛美さんとすみれのほうへ視線を向ける。


 一緒に準備を進める二人はすごく楽しそうで、まるで本当の姉妹のように仲良く……っていやいや、何を考えてるんだ俺は。

 一瞬、邪な妄想をした頭をリセットし、二階へ自分の勉強道具を取りに行く。


 一式の教科書、参考書などを持ってリビングに戻ると、すみれも一緒に四人でテーブルに座っていた。

 とりあえず真人の横に腰を下ろす。


「せっかくだし、すみれちゃんも一緒に勉強しない?」


「え、いいんですか? 愛美先輩」


「もちろんだよっ。たくさんいたほうが楽しいし!」


「じゃあ、勉強道具持ってきますね」


 ぽんぽん拍子で話が進み、すみれも勉強会に参加することになった。

 すみれも二階から自分の教科書などを持ってきて、計五人で勉強会のスタートとなった。


「すみれちゃん。分からないとこがあったらなんでも聞いてね?」


「はい!」


 すみれが笑顔でそう応えると、えへへと頬を緩ませる愛美さん。

 すっかり愛美さんも、すみれの可愛さに心を奪われてしまったようだ。


 ちなみにテーブルの席順は時計回りに俺、愛美さん、すみれ、長谷川さん、そして真人の順番。

 文句のない妥当な席順だとは思う。一つ懸念があるとするなら、すみれが俺の横にいないというくらい。

 お兄ちゃん寂しい……。まあ、みんなの前だし、いつもみたいにすみれに関わるのは無理なんだけど。


「愛美先輩、この問題なんですけど……」


「ん! なになに?!」


 さっそく分からないところがあったのか、すみれが愛美さんに質問しようとする。

 その途端ものすごい勢いで反応する愛美さん。頼られたのが相当嬉しいのか、目をキラキラさせている。


 なんか、すみれに愛美さんを盗られたような感覚。

 いや、元から愛美さんは誰のものでもないけど……なんだろう、この気持ち。


「えと、これなんですけど」


「どれどれ~? ふむ。ん~、んん……?」


 愛美さんはすみれの近くに寄って問題集を覗き込む。

 最初こそ嬉しそうで自信満々な愛美さんだったが……あれ、なんだか空気が怪しく……。


「ち、ちょっと待っててね?」


「? はい」


 愛美さんはすみれに一言断ってから、問題集を持って長谷川さんの横へ移動する。

 そして──


「つ、椿。えと、この問題なんだけど……」


 いや不正! 圧倒的不正!

 愛美さんはないしょ話のつもりだろうが、俺にも聞こえる声量だったため当然すみれにも聞こえてるわけで……。

 うん。すみれがすごい微妙な顔してる。ついでに長谷川さんは呆れた顔をしている。


「愛美。すみれさんの勉強は私が見てあげるから、あなたは自分の勉強をしなさい」


「で、でも……」


「自分の勉強が優先。わかった?」


「うぅ……。わかった」


 明らかにしょんぼりした様子で元の場所に戻る愛美さん。

 隣のすみれと長谷川さんを気にしつつも勉強を開始する。


 しかし、自分の勉強でも分からない問題があったのか、またもや問題集とにらめっこし始める。

 ちょっと愛美さんが可哀想に見え、声をかける。


「愛美さん、どうかした?」


「あ、えと。私も分からない問題があって……」


 愛美さんは、そう言って長谷川さんのほうを見る。

 長谷川さんは、現在すみれの勉強を見てくれている。


 おそらく、普段愛美さんは分からない問題があったとき長谷川さんに聞いているのだろう。

 しかし、その長谷川さんが頼れない今、どうすればいいのか分からなくなってしまっているのだろう。


 ちらっと愛美さんの問題集に目を向けてみる。

 科目は数学。今やっている内容は、すごく難しいわけでもないが、複雑になると引っ掛かりやすくなるところだ。


「愛美さん、俺で良ければ教えてあげようか?」


「え、いいの?」


「うん、数学はちょっと得意だし」


「ありがとうっ!」


 すごく嬉しそうな顔でそうお礼を言ってくる愛美さん。

 うーん。勉強会なんだし、もっと頼ってくれてもいいんだけどな。


 ふと、長谷川さんから申し訳なさそうなアイコンタクトを受ける。自分の代わりをありがとうという意味だろうか。

 とりあえず「気にしないで」という意味を込め微笑を浮かべながら手を振っておく。


「どこの問題が分からないの?」


「あ、うん。ここの問題なんだけどね」


 愛美さんはそう言うと、問題集を俺の前にスライドさせ、自分も俺の隣に移動させてくる。

 肩が触れあうくらいの距離まで愛美さんが来て、女の子特有の鼻孔をくすぐるにおいが脳を溶かそうとしてくる。


 最近愛美さんとはよく一緒にいるが、未だに間近で話をするのには慣れない。


「あ、えっと。この問題は先にここの部分を因数分解しておくんだよ」


 動揺を悟られないようにさらっと説明しておく。

 しかし、それだけの説明では納得出来なかったらしい。


「え、どこどこ?」


 もっとこちらに接近してきて、問題集を見る愛美さん。

 ち、ちょっと愛美さん! もう肩が触れちゃってますよ! 新品のワンピースが俺の服にスリスリしてますよ!


 愛美さんはそれに気付いていないのか、問題集を見続けてる。

 わざと!? わざとなの!? (わたくし)もう心臓バックバクですよ!? もう因数分解どころじゃないよ!


「あ、いや。こ、この部分をこういうふうに分解して……」


「ふむふむ。じゃあこっちは?」


「そ、その問題は──」




 結局。この問題以外もいろいろ聞かれて、その間もずっと肩やらなんやらが触れていた。

 そのせいで、愛美さんがすみれから話しかけるまでの丸々一時間ほど、俺の心臓が休まる時間は一秒たりともなかった。

 天然ぽんこつ愛美ちゃん。抱き締めたい(真顔)


 毎週日曜0時更新中! 次話≫4月8日

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