第44話 帰宅後の誕生日
こんにちは。ロボット系小説家、風井明日香です。
本日、知り合いの開くロボット大会のバイトに行ってきました。
特に大した仕事もしなかったのですが、四時間働いてバイト代4000円。う、うまい……!
「ただいまー」
「あ、おかえり。お兄ちゃん」
駅で愛美さんと別れたあと、寄り道もせずまっすぐ家に帰ってきた。
リビングに入り、前回の反省を踏まえしっかりただいまを言ってから、ソファに座る……というかダイブした。すみれの太ももに。
「お兄ちゃん?」
「なんだいすみれ」
「妹の太ももを枕にして、うつ伏せで寝るのはどうかと思うんだけど」
「気にしたら負けです」
すみれは現在、ショートパンツを履いていて、ほとんど太ももが露出している。
そしてそこに躊躇なくダイブする俺。
ふはは。見たか、これがお兄ちゃん特権というやつなのだよ。
「お兄ちゃん、端から見たら相当気持ち悪いよ?」
「すみれちゃん? 君の太ももがお兄ちゃんの涙で大洪水になりそうだから、それ以上は何も言わないでくれるかな……?」
すでに、少し目をうるうるさせながら、そう懇願する。もちろん顔は太ももにつけたままで。
すみれは明らかに分かるような、大きいため息をつくと、
「何かあったの? お兄ちゃん」
そう問いかけながら、やさしく頭を撫で始めてくれる。
いきなりのことに多少どぎまぎしつつも、とりあえずされるがままにしておく。
すみれからなでなでされるなんて、そうそうないだろうし、ここはすみれのご厚意に甘えさせてもらおう。
俺は一旦体を横に向け、とりあえずうつ伏せ状態から普通の膝枕状態にする。
「実は今日、前話してた図書委員の人から誕生日プレゼントをもらったんだ」
「あ~。佐倉さん……だっけ」
「そう、佐倉愛美さん」
「へー、よかったじゃん」
ぶっきらぼうにそう言いつつも、なでなでは続けてくれるすみれ。
なでなでを思う存分堪能しつつ、俺は自慢気に言う。
「それでね、そのプレゼントが最近欲しいと思ってたブックカバーでさ。すごい嬉しくて、なんか舞い上がっちゃって」
「ふーん。ブックカバー欲しかったんだ」
「うん」
相変わらず無関心そうなすみれ。
こんな態度もいつものこと。特に気にせず膝枕を続行。
「そういえば、お兄ちゃんが帰ってくる前、真人さんが家に来たよ」
「え、真人が?」
思わず顔を回転させ、すみれの顔を見る。
「んっ。ち、ちょっとお兄ちゃん。髪がチクチクするんだけど」
「あっ。ご、ごめん」
上を向いたせいで、後頭部が下になり髪が当たってしまったらしい。すみれが少し身をよじりながら非難してくる。
俺はすぐに体勢を戻しつつ、もう一度問う。
「真人が来たの?」
「うん。あともう一人、女の人も一緒に」
「女の人?」
「お兄ちゃんの同級生だと思うけど。結構綺麗な人だったし、真人さんの彼女ではないと思う」
「そ、そっか」
さらっと真人をディスっていくすみれ。
でも、ごめん真人。否定できない俺がここにいる。
にしても、真人と一緒にいる綺麗な女の人か……。うーん、長谷川さんだろうか?
最近、よく一緒にいるのを見かけるあの二人。
マレラでの初接触が、まあ……あれだったし。少し不安だったけど、そんなに不仲になっている様子もなくて、ちょっと安心。
しかし、あの二人が家にくるなんて。どうしたんだろう?
「それで、二人からお兄ちゃんの誕生日プレゼント貰ったよ」
「え? 誕生日プレゼント?」
「うん。玄関でお兄ちゃんに渡しといてって。ご飯食べるテーブルに置いてあるよ」
「そっか。ありがと、すみれ」
なるほど。二人一緒にわざわざプレゼントを届けに来てくれたのか。
こんなに友達からプレゼントを貰った誕生日は初めてかもしれない。素直に嬉しいな。
俺は、プレゼントを受け取ってくれたすみれに一言お礼を言うと、再び膝枕を堪能し始める。
今思ったけど、膝枕ってどちらかと言うと太もも枕だよね。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「いやだから、プレゼント置いてあるよ?」
「うん、分かってるよ?」
二人して疑問系の言葉で会話し合う。
どうしたんだろうか。さすがに、妹の言ったことを聞き逃すほど非情なお兄ちゃんのつもりはないんだが……。
妹の言動を不思議に思いつつ、太もも枕を再開する。
そして、気持ちのよい眠りへと吸い込まれて──
「いだだだだだ!」
──いくことはなく、耳にとてつもない激痛が走り、寝るどころか耳を押さえて飛び起きる。
激痛の原因は、言うまでもなくすみれが耳をつねったからである。
お兄ちゃんの大切な耳を躊躇なくつねった犯人は、なんとも清々しい面持ち。
俺は声を大にして抗議する。
「何するんだすみれ! お兄ちゃんは妹の太ももで気持ちよく寝てたのに!」
「まず妹の太ももで寝ないで! さっさとプレゼントでも確認してきて!」
食卓のほうを指差し、そう言ってくるすみれ。
しかし、こんなことで引き下がるほど、お兄ちゃんの太もも睡眠欲は少なくない!
「こんなにかわいい妹の太ももで寝られるんだよ? いつでも見れるプレゼントなんて後回しだよ! 俺は今、妹とのこの時間を大切にしたいんだ!」
「にゃっ!? か、かわいいって……だ、ダメなものはダメっ! ま、ママに見られたら恥ずかしいし……!」
かわいいという言葉に一瞬詰まるも、断固として拒否するすみれ。
まあ、たしかにそろそろ母さんが帰ってくる時間ではあるし……。しょうがない、今日のところは諦めよう。
また日を改めて、次は存分になてなですることにしよう、そうしよう。
ソファを離れ、プレゼントが置いてあるらしい食卓へ向かうと、それらしき袋が一つ。
二人一緒の袋に入れてあるらしく、中を覗くとプレゼントっぽいものが二つ入っていた。
とりあえず一つ取り出してみる。
俺の手でほどよく握れる大きさをした球型のそれは、どこか見覚えのある色合いと質感をしていて──
「いやこれ、真人の水晶ソフトボールじゃん」
「お兄ちゃん一人で何言ってるの?」
自由を手に入れ、ソファでくつろぐすみれから辛辣なツッコミが入る。
俺は軽く笑いながら「ごめん、なんでもない」と返しつつ、そっと袋の中へソフトボールを戻す。
いや、何送ってきてるんだあいつは。あれ俺の誕生日プレゼントだったのかい。
たしかに、なんで帰宅部なのにソフトボール?とは思ってたけど、誕生日プレゼントにソフトボールってどういうことなの……。
半ば呆れつつ、もう一つのプレゼントを取り出す。
次に現れたのは、落ち着いた色合いのシンプルな写真立て。
これは長谷川さんのプレゼントか。
真人のやつとは違って、なんとなくプレゼントに込められた思いも伝わってくる。見習え、真人。
とは言いつつ、誕生日に三つもプレゼントを貰えたことは本当にうれしい。たとえソフトボールだとしても。
俺は、そんなことを考えながら、長谷川さんのプレゼントを袋に戻した。
* * *
その日の夜。
母さんが帰ってきて晩ごはんを食べた後は、家族四人でケーキをいただいた。
もう高校生だし、さすがに誕生日プレゼントはないだろうと思っていたのだが……嬉しいことに母さん父さん、そしてすみれからも貰えた。
なかなかこんな家庭もないのではないだろうか。
母さんから貰ったのは、とあるアニメキャラのフィギュア。それも、そのアニメで俺が一番推してる眼鏡っ娘。
……いや、なんで知ってるんだよ母さん。
別にオタクであることを隠してるわけではないが、推しキャラまで教えた記憶はないんだが……。
すみれからは、小さめのかわいらしい栞を貰った。
すみれから誕生日プレゼントが貰えるなんて……お兄ちゃん感激!
最後に父さんから渡されたのは、野球の硬式ボール。
……いや、え。なに? 誕生日プレゼントにボール贈るの流行ってるの? 聞いたことないよ?
まあ、そんなこんなで俺の家族内誕生日会は終了し、プレゼントを三つも抱えて部屋に戻った。
あらためて、机の上に今日の戦利品を並べてみる。
右から。
ブックカバー、栞、写真立て、美少女フィギュア、ソフトボール、野球ボール……。
……おかしいな。前半はいい感じだったのに後半で台無しになってる気がする。
机に座って苦笑いしながらプレゼントを眺めていると、携帯に電話がかかってくる。
画面を確認すると、そこにはソフトボールを贈ってきた張本人の名前が……。
「もしもし?」
『あ、もしもし? 俺だよ俺。俺のプレゼント見たか?』
電話越しに聞こえてくる『俺』を連呼する声。
ふん、俺は騙されないぞ。
「なるほど、これが俗に言うオレオレ詐欺か……。よし、警察に通報を……」
『ストップストップ! 俺だよ、真人だよ! 電話出る前に名前確認しただろ!』
「ああ、真人だったのか。いきなりどうしたの? ソフトボールなら捨てたよ?」
『嘘だろっ!!?』
「うそうそ」
電話の向こうから聞こえてきた悲痛な声に、笑いをこらえながらそう返す。
『悪い冗談はやめろよ……。これでも考えて贈ったんだぞ?』
「嘘……だろ……?」
『嘘じゃねえよ、なんだその反応は。いやな? ボールと言えば投げる。そう……俺はお前に、自分のすべてを青春に全力投球してほしいんだ!』
「へー」
『反応薄っ!?』
いやまあ、意味がわからないこともないけど、意味わからん。
なんでわざわざ誕生日プレゼントに選んでしまったんだ。もっと他に何かなかったのか……。
『実は、そのボールを買った時に、どうせならセットでってことで長谷川さんバット買わない?って提案したんだよ』
「うん」
『そしたら、全力投球したのに打たれたら意味ないじゃないって断られた』
「うん。でしょうね」
何がしたいんだ真人は。
完全にネタを貫いたやつじゃないか。長谷川さんがうまく断ってくれて一安心だ。
これでもしバットとセットで贈られてきたら、一周回ってグローブを買ってしまうところだった。
『あ、そうだ浩介。一つ提案なんだが、明後日の休みの日、お前の家行っていいか?』
今一度誕生日プレゼントを眺めながら苦笑していると、真人からそんなことを聞かれる。
椅子を回し、カレンダーを確認する。
二日後はゴールデンウィーク後半の初日。予定は書き込まれていなかった。
「明後日なら特に予定入ってないし、大丈夫だよ」
『了解。じゃあ明後日、四人で勉強会な』
相変わらずいきなりだな、真人。
でもそうか、勉強会か。そろそろ高校に入って一回目のテストだし、このタイミングでしっかり勉強しておくのも悪くないだろう。
「うん、わかった」
俺がそう答えると「じゃあ明後日な」と言って、真人が電話を切る。
俺も携帯を耳から離し、もう一度カレンダーを見て、ペンを持ち明後日に書き込む。
よし。『四人で勉強会』と。四人で勉強会か。四人で……。
…………え? 四人?
最近一話あたりの文字数が大幅に増えてます。
ついこの前まで2000ちょいだったのが、最近では4000前後に……。こんなはずでは……!
毎週日曜0時更新中! 次話≫4月1日 嘘じゃないよ!




