第43話 贈り物は、ときめきとブックカバー
こんにちは。誤ルビ系小説家、風井明日香です。
先日、とある幼児遊具を見たとき、それに貼り紙が付いていまして。
『良い子はきちんとおかたづけ』
良いい子とは一体なんなのか。子供じゃなくとも、まじまじと読んでしまいました。
「あなたの運勢を占ってしんぜよう。見える、見える……。今日、あなたは年に一度のビッグイベントに遭遇するでしょう……」
「それただの誕生日だよね」
朝のSHRが始まる前。
いつも通り、前の席に座る変態……じゃない。真人と他愛のない話をする。
その途中真人が、鞄の中から怪しげな水晶……に見せかけたただのソフトボールを取りだし、俺の机に置いてきた。
そして何を始めるかと思えば、この有り様である。
占いも何も、ただの誕生日のお知らせだった。
ていうか、なんでソフトボールなんて鞄に入ってるんだ。あなた帰宅部でしょうに。
「……それだけではありません。あなたは今日、素敵な贈り物を手にすることでしょう……」
「いやだから誕生日プレゼントじゃん。ありがたいことに、毎年何かしら母さんや真人から貰ってるよ」
あたりまえのこと……いや、すごくありがたいことではあるのだが、それをさも占ったことのように言ってくる真人。
将来は、詐欺師になること間違いなしの人材である。
俺の無慈悲なツッコミに汗をたらしつつも真人は占いを続ける。
「……ま、まだ見えますね。あなたは今日一日で、心に大きな変化が生まれることでしょう。……たぶん」
「たぶんなのかい」
占いする人が、たぶんとか言っちゃ駄目でしょうが。
……しかし、心に大きな変化……か。うーん、どういう意味だろう。
歳をとったことによる心境の変化があるってことかな……? うん、わからん。
すると、教室の喧騒の中に扉の開く音が聞こえてきた。
ただなんとなく、視線を扉に向ける、と。
「あっ」
小さく声が溢れる。
たった今、扉を開けた愛美さんと目が合ったのだ。
彼女も俺と目が合ったことで、一瞬体を制止させる。しかし、すぐに硬直を解き、こちらに小走りで近づいてきて、
「おはようっ。浩介くん」
「うん。おはよう」
自分の机からは離れる位置にある俺のすぐ近くまでわざわざやってきて、満面の笑みで朝のあいさつをしてくる愛美さん。
いや、天使ですか。
相も変わらず眼鏡の似合う彼女は、今日も抜群に可愛い。
そんな彼女に思わず頬を緩ませてしまうも、その眼鏡のレンズに自分の顔が写っているような気がして、すぐに直す。
愛美さんは真人ともあいさつをしたあと、俺に向かって何か言おうとしてくる。
だがしかし、なかなか口に出来ずに苦悩している様子。
すると、急に真人から話しかけられる。
「浩介、今日って委員会……っていうか佐倉さんの手伝いってあるのか?」
その質問が真人から放たれたと同時に愛美さんが一瞬驚いたように真人を見たあと、何かを期待するかのようにこちらに視線を向けてくる。
じっと俺の顔を見つめてくる愛美さんに多少どぎまぎしつつ答える。
「えっと、今日は愛美さんが当番じゃないからないはずなんだけど。そうだよね?」
一応確認のため愛美さんに問う。
すると彼女は「その予定だったんだけど」と前置きしたあと、
「今日の当番の一人に春咲先輩が入ってたんだけど、えっと……今日は用事があって来れないみたいで。だから私が代わりに入ることになって」
「あ、じゃあ今日は俺も行かないとだね」
俺がそう言うと、愛美さんは少し照れた様子で、
「う、うん。そうしてくれるとすごく嬉しい……」
「もちろん行くよ。特に予定も入ってないし」
「! ありがと、浩介くんっ」
そう言って笑顔を見せる愛美さん。
本当に、この笑顔は何回見ても癒される。ずっと見ていたいくらいだ。
「じゃあ、また放課後に。よろしくね、浩介くん」
「うん。了解」
お互いに手を振り合い、愛美さんは自分の席へ戻っていく。
すると、その様子を見ていた真人が、
「見える見える……。あなたは放課後、クラスメイトの女子と二人きりの状況になるでしょう……」
「今の会話完全に聞いてから言ってるよね、それ」
真人の詐欺占いはまだ終わっていなかったらしい。
* * *
「じゃあ行こっか」
「うんっ」
いつも通り廊下で待ち合わせて、図書館へ向かう。
ふと愛美さんの手に視線がいく。
「そのビニール袋、どうしたの?」
「ん~? えへへ~、倉庫に着いてからのお楽しみ~♪」
「えー? なにそれすごい気になる」
心なしか、なんだか浮かれた様子の愛美さん。
何かいい事でもあったのかな? ビニール袋も関係してたりするんだろうか。
図書館に着き、カウンターの人に一声かけてから、二人で倉庫に入る。
最近では、ほぼ完全に倉庫係は俺と愛美さんで固定された。
なんでも、俺たち二人がここまでほとんどの作業をやってしまったのだし、他の人がやるより二人のほうが効率が良いだろうとのこと。
まあ俺的にもそっちのほうがありがたくはあるのだが。
いつものように箱のそばへと腰を下ろす。
そして、さっそく作業を開始しようとしたのだが。
「………」
先ほどから愛美さんが、さっき持っていたビニール袋を触りながらなんだかソワソワしている。
トイレかな?という小学生的発想は即座に排除し、愛美さんを見守る。
が、しかし。一向に作業を始める気配も、何か喋る気配すらもない。
ある意味、こんな感じに沈黙が訪れるのも久しぶりな気がする。
だけど、これではラチが明かないので、こちらから聞いてみる。
「愛美さん? どうかした?」
「ひゃ! いっいや、えとその。な、なんでもない……こともないんだけど……」
「?」
煮えきらない言いぐさの愛美さん。
うーん。俺が何かしてしまったのだろうか? 心あたりはないけど、迂闊に色々聞くのはよくないかな。
「とりあえず、作業始めない? 愛美さん」
「あっ、うん」
言葉通り、とりあえず作業を始めてみる。
しかしまあ、案の定愛美さんはあまり元気がないような、そんな感じ。
そのまま、特に大した会話もなく倉庫整理は続く。あった会話もほんのただの世間話。
それでも愛美さんからの反応は薄かった。
ふと気づけば、時計の針は六時前。そろそろ撤収の時間だ。
だいぶ片付いたダンボール箱を今一度見て「よし」と呟き立ち上がる。
「もう時間だし、終わろう?」
「う、うん……」
俺がそう提案したとたん、先ほどに増して重い表情になる愛美さん。
これはさすがに心配だし、帰り道で聞いてみようか……。
そう心に決め、扉のほうへ歩き出し──
「こっ、浩介くん!」
「へっ?」
突然から後ろ手を握られ、愛美さんから待ったをかけられる。
俺が振り返ると、彼女は意を決したような面持ちで口を開く。
「浩介くん! お、お誕生日、おめでとう!」
「え?」
俺がしっかり状況を理解する前に、愛美さんはずっと持っていたビニール袋から何かを取りだし、俺のほうに差し出し、
「あとこれっ。誕生日プレゼント……」
「え。な、なんで」
未だに状況についていけずオロオロする俺に、愛美さんが問いかけてくる。
「えっ? こ、浩介くん。今日誕生日じゃないの?」
「いや、誕生日なのはそうなんだけど。なんで愛美さんが知ってるんだろうって」
愛美さんは「あ~」と声を漏らしたあと、
「松下くんと椿から教えてもらったの。それでこの前、一緒に誕生日プレゼントを買いに行ってきて」
「あ、あ~。そういうこと」
「うん。本当は倉庫に来てすぐ渡すつもりだったんだけど、いざ渡そうって思ったら、なんか緊張しちゃって。えへへ……」
そう言って恥ずかしそうに頬をかく愛美さん。な、なんて純粋で天使なんだこの人は!
それで元気がないように見えたのか。なるほど。
納得し安心した上で、プレゼントをありがたく貰う。
「ここで、開けてもいい……?」
「こ、ここで? う、うーん。ちょっと恥ずかしいけど……い、いいよ?」
再び頬を染めながらも、了承をくれる。
俺はその態度でちょっと緊張を高めつつ、プレゼントを確認する。
ビニール袋から取り出されたそれは、ピンクの紙と赤のリボンで可愛くラッピングされていた。
大きさは文庫本よりほんの少し大きく感じる程度。
一つ深呼吸した後、丁寧にラッピングを開けていく。
その中には──
「これは……ブックカバー?」
「う、うん! みんなとも相談したんだけど、浩介くんたくさん本読んでるし、いつも本に何もつけてないから、と思って。ど、どうかな?」
俺は、一瞬立ちくらみのような感覚を覚えた。
なぜなら。
「俺、こういうのずっと欲しくて最近買おうと思ってたんだ! すごい嬉しい! ありがとう愛美さん!」
精一杯の感謝の気持ちを、緩む頬も気にせず笑顔で愛美さんに伝える。
すると、愛美さんも満面の笑みを浮かべ、
「本当?! よかった、気に入ってくれて! なんか私も嬉しい!」
そう話す愛美さんを前に、胸の高なりがなかなかおさまらない。
愛美さんが俺のために、こんな素敵なプレゼントをくれたのだ。素直に嬉しい。
「じゃあ、帰ろっか♪」
そして、いつものように可愛い笑顔でそう言ってくる愛美さんに、俺は。
ドクンドクンッ。
さっきに増して、とてつもなく鼓動を早めていた。
こちらに笑顔を向ける愛美さんの顔を見るだけで、すごく胸が苦しい。
な、なんだろうこれ。これまでこんなこと……。
「浩介くん? 帰ろ?」
「あっ。う、うん」
倉庫を後にして、学校を出る。
そして、愛美さんと並んで歩く帰り道。
彼女と他愛もない話をしながら下校する中、胸の痛みが治まることは一度もなかった。
見える見える……。あの子の下着の色が(黙
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