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第36話 追加オーダー、天然属性

 こんにちは。雪積め系小説家、風井明日香です。

 雪が降ったある日。先輩が、他の先輩のチャリのカゴに大量に雪を積める嫌がらせをしてました。

 それを見て隣の友人が一言。

「雪のバーゲンセールやぁ」


 とりあえずチャリに合掌しときました。


 コンコン。


 倉庫で愛美さんと他愛もない話をしていると、倉庫の扉が控えめに叩かれる。


「……めぐちゃーん?」


 扉の向こうから、聞き覚えのあるマイペース先輩の声が聞こえてくる。

 とりあえず座ったままではあれなので、二人一緒に立ち上がり愛美さんが返答する。


「はーい。春咲先輩ですか?」


「うん。入っても大丈夫……?」


「どうぞー」


 カチャッと静かに扉が開き、申し訳なさそうな顔をした春咲先輩が入ってくる。

 春咲先輩は俺たちのほうを見て一瞬、不思議そうな顔をするも、すぐさっきの顔に戻る。


「どうかしました? 春咲先輩」


 愛美さんがそう問う。

 すると、いきなり春咲先輩が頭を下げて、


「さっきはごめん!」


 そう謝罪してきた。

 あまりにも急な行動に、愛美さんと二人して固まってしまう。

 しかし、それから一向に頭を上げる気配がなく、それを見かねて愛美さんが声をかける。


「えっと、さっきの図書館でのことですか?」


「うん……。その、調子に乗ってからかいすぎちゃって、めぐちゃん困らせちゃって……」


 しゅんとした顔でそう話してくる春咲先輩。

 それを聞いた愛美さんは腕をぶんぶん振りながら、


「いやいや、私がうまく対応出来なかっただけなので! そんなに気にしないでください!」


「め、めぐちゃん……」


 春咲先輩が愛美さんを拝むかのように手を合わせて潤んだ瞳で見つめている。

 春咲先輩はもう一度愛美さんに「ごめんね」と伝えたあと、次は俺のほうを向き、


「浩ちゃんも、ごめん……。めぐちゃん困らせて、気分悪くさせちゃって……」


 先程よりも申し訳なさそうな顔でそう言ってくる春咲先輩。

 こうやって素直に謝れるところを見ると、改めて春咲先輩が根はとても良い人ということが伝わってくる。


 まあ、それはそれで棘のある言い方をしてしまった罪悪感がますます増えるのだが……。


「あ、いや、俺もちょっと言い方が悪くて先輩方に嫌な思いをさせてしまったので。えっと、まあ、お互い様ということで」


 あまり好きなまとめ方だけど、とりあえずお互い悪かったということにしとおく。


 しかし、春咲先輩はあまり府に落ちていない様子。

 うーん。どうしたもんか。


「えっと、春咲先輩も悪意十割で、からかっていたわけではないですよね?」


「そっ、それはもちろん!」


「それならなんの問題もないです。こっちにも非がありますし、そんなに落ち込まないでください」


「う、うん……」


 まだ少し浮かない顔の春咲先輩。

 でも、さっきよりかはいつもの春咲先輩に戻った気がする。


 すると、ふとこちらを見て、


「えっと、からかいたいわけじゃないんだけど。一つ聞いてもいい……?」


「? どうぞ?」


 愛美さんと二人して首をかしげながらも、愛美さんがそう返す。

 春咲先輩は、一瞬言うのを躊躇(ためら)うも、我慢できないといった様子で口を開く。


「えっと、なんで二人は手繋いでるの?」


「「えっ?」」


 愛美さんと俺の時間が止まる。

 止められた時計に逆らうように首を動かし、同じようにこちらに振り向いた愛美さんと目を合わせる。

 そして、ゆっくりと視線を下に持っていき──



 そこには、しっかりと握り合った俺と愛美さんの手があって……。


「「あ、いや、これは!」」


 愛美さんと見事なシンクロ返答を見せつけると同時に、これまたシンクロな動きで手を放す。


 しっ、しまった……。

 そういえば、ずっと愛美さんと手を繋いだままだったか……!

 春咲先輩が倉庫に入ってきたとき、不思議そうな顔をしたのはそういうことだったのか。いや、恥ずかしっ!


 いまだに春咲先輩は、こちらを見たまま頭に疑問符を浮かべている。

 あ、あかん! からかわなくなったらなったで、精神的ダメージがエグい!

 まだ何かしら茶化されたほうがマシな気がしてくる!


「え、えぇっと。これは、なんと言いますか……」


 とっさにそれらしい言い訳も思い付かず、口ごもる。

 い、いや。「最初繋いでて放したんだけどもう一度愛美さんから握られました!」なんて言えるわけないですしね!?


 愛美さんも挙動不審に目をぐるぐるさせてる。ある意味かわいい。


「わかったよ。めぐちゃん、浩ちゃん」


 二人して何も言えずに黙っていると、唐突に春咲先輩が口を開く。


「私、もう二人を茶化したり、からかったりしない」


 すみません。さっきは困るとか言いましたけど、ちょっとはからかってもらっていいですか?

 いい人過ぎるのがここに来て裏目に出てる……。


 いやでも、先輩も先輩でしっかり反省しているみたいだし、ここはなんとか耐えて……。


「だから、これからは二人のことを真剣に応援するね!」


「ふぇっ!?」


 いや天然かっ! このマイペース魔神は!

 マイペース魔神改め、天然マイペース大魔神か何かになるのかな!? この人は!


 愛美さん、さっきの図書館以上に赤くなってる気がするんですけど!

 と、とりあえずこの話題を終了させよう。


「え、えっと……。あ、ありがとうございます?」


「うん、なんでも相談してね!」


 そう言って嫌みの一つもない笑顔を向けてくる春咲先輩。

 あはは……。これは、違う意味でこれからも春咲先輩に振り回されそうだ……。



 その後、倉庫の本の整理を終え図書館に戻ると、香苗先生にも謝られてしまった。

 春咲先輩の時のような返答をしてなんとか落ち着くも「さっき手繋いでたって本当?」と香苗先生からも尋ねられ、二人して赤面パラダイスになった一幕があったり。


 そして、その日左手が気になってなかなか眠りにつけなかったのは言うまでもない。


 やっぱり愛美さんの手、やわらかかったなぁ……。

 そんなことを考えて心を落ち着かせ眠りにつくと、真人と手を繋いで空を飛ぶ夢を見た。なんでやねん。



 毎週日曜0時更新中! 次話≫2月4日

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