第33話 特殊恋愛諜報員、なのかん
こんにちは。足つり系小説家、風井明日香です。
この前、朝目が覚めると同時に、これまでの人生で一番くらいの痛みが左足ふくらはぎを襲いました。ピークが去ったあとも筋肉痛のような感覚がずっと続いて歩けませんでした。
最近足痛めること多くないかな。そろそろ車椅子の購入を検討しないといけないのだろうか……。
「今日の数学の授業難しかったね~」
「たしかに、今日はちょっと難しいところだったかもね」
「え~。浩介くん、なんか余裕そう」
「あはは、まあね~」
「むむむ~……」
今日も愛美さんと一緒に、他愛もない話をしながら図書館へと歩く。
この前は、相性占いの一件でちょっとぎこちない感じだったが、今はすっかり。
緊張した様子もなく気兼ねなく話せていて、やはりこの時間が一番幸福だと改めて実感する。
その後も愛美さんと話していると、図書館の扉が見えてきた。
愛美さんが先に図書館へ入り、俺もそのあとに続く。
最初から倉庫に行かないのも、恒例のことだ。
まずは図書館に入り、カウンターの人と仕事割りの確認を行う。
……とは言うものの、倉庫係は俺たち二人ということで定着してしまっている。
だから最近は、ただ単にカウンターの人が来ているかどうかの確認作業になりつつある。
……そして、カウンターの人は、俺たちを茶化してから倉庫へ送るのがこの図書委員の中で通例となっている。いや、みんなして暇人すぎじゃないですかね。
愛美さんと一緒に図書館へ入りカウンターに視線を向けると、そこには見知った女性が二人いた。
「めぐちゃん浩ちゃん。待ってたよ~」
「あ、春咲先輩。お待たせしました」
特徴的なあだ名で俺たちを呼んでくるその人に、愛美さんが返答する。
彼女は春咲菜乃花先輩。学年は三年生で、図書委員のこと教えてくれたり、やさしい先輩である。
……が、常人以上のマイペースさを持ち合わせており、結構それに振り回されたりすることも。
俺も軽く春咲先輩とあいさつを交わしたあと、もう一人の女性に話しかける。
「香苗先生が図書館にいるって、なんか新鮮ですね」
「最近忙しかったからねえ。たまには顔出しとかないとね」
そう明るく応える女性は、香苗由利先生。俺のクラスの担任で、数学の授業担当だ。
図書館担当の先生でもあり、元をたどれば香苗先生のおかげで愛美さんと出会うことが出来たのかもしれない。
ありがとう香苗先生! でも最近俺を手伝わせる頻度が多くないですか? 気のせいですか?
なんとなく都合のいい子として、こき使われてる感が否めないのだが……。まあ、手伝うことは嫌いじゃないし、いいんだけどね?
「それで~? めぐちゃんと浩ちゃんは最近どうなのかな~?」
香苗先生と少し話していると、横の会話でとんでもない話題が春咲先輩から投下されていた。
思わず、香苗先生と同時に振り向く。
「ど、どう、というと?」
いきなりの質問に戸惑いを隠せない愛美さんがそう聞き返すと、
「そんなのきまってるじゃ~ん。めぐちゃんと浩ちゃんの、か・ん・け・い♡」
「ふ、ふぇっ!?」
春咲先輩の放った言葉に、思わず俺も声が出そうになる。
おいおい、なのかん! 純粋無垢の愛美さんになんてこと聞いてんだ! 愛美さん困ってるじゃん!
というか、なのかんってあだ名かわいいと思います。
「べ、別に浩介くんとは普通です、けど……」
い、いぐざくとりぃ。
うん、間違ってないね。そう、普通普通。ノーマルノーマル……。普通……かぁ。
「ふ~ん、普通か~。でも、私の記憶だと、前は杉浦くんって呼んでた気がするんだけどな~。何かあったんじゃないのかな~?」
すっ、鋭いところを……。
この人は俺と愛美さんをからかうのに、どれだけ全力を尽くしてるんだ……。暇人すぎないか……。
なんとか話を逸らせないかと、横の香苗先生を見る。
しかし香苗先生も、動揺する俺と愛美さんを見て、ニヨニヨと楽しそうに笑っており……。
お前もあのマイペース魔神と同類か! 期待した俺がバカだったよ!
「それに~私見ちゃったんだよ~。そう……二人がマレラで楽しそうに洋服を選んでいたところを!」
「「いたんですか!?」」
俺と愛美さんが同時にツっこむ。
いや、いたの!? あのやり取りを見られてたの!? なにそれ恥ずかしすぎるんだが。
「ふっふっふ。私が二人のことで知らないことなどないのだよ~」
自信満々にそのふくよかな胸を張る春咲先輩。
本当に暇人すぎないか、なのかん……。受験生らしく勉強でもしててくれないだろうか……。
すると、香苗先生も春咲先輩のような口振りで話し始める。
「そういえば今日、杉浦と佐倉は一緒に登校していたわねえ」
先生まで便乗するのやめろおおお! もう処理しきれないよ!
愛美さん耳まで真っ赤にしてるじゃん! 真に受けちゃうほど彼女は純粋なんだよ! どうすんだこの状況!
「いや~これはもう言い逃れ出来ませんな~? かなっち先生」
「そうねー。二人に逃げ場はないわねえ」
からかいコンビ二人は、ないしょ話をするかのように身を寄せて話す。
だが、声のボリュームは全く抑えていなく、明らかに俺たちに聞こえるように話している。
愛美さんは、もう限界といった様子で、顔を真っ赤にし俯いて、プルプルと小刻みに震えている。
こ、これ以上は愛美さんが持たない……! なんとかしないと……。
俺は、身を寄せ合いこちらをニヨニヨと見てくる二人に向かって、
「愛美さんとは良き友達として付き合ってます。それと、俺はいいですけど、愛美さんが困るので露骨に茶化したりするのはやめてくれませんか?」
何も考えずにまくし立てた言葉は、少し棘のある感じになってしまった。
春咲先輩も香苗先生も、突然の俺の言葉に固まってしまっている。
先輩たちも悪意あってのことではないだろうし、ちょっと罪悪感が残る。
しかし、言ってしまったものは仕方ない。覆水盆にかえらずというやつだ。
現にこちらは被害者なんだと割りきり、言葉を続ける。
「倉庫の仕事があるので失礼します。行こ? 愛美さん」
そう言って、少し驚いた様子で俺を見ていた愛美さんの手を握って扉のほうへ歩き出す。
「!?」
愛美さんは、いきなり手を握られたことに最初は動揺した様子だったが、途中でぎゅっと握り返してくれる。
その行為で逆に俺がドキドキしつつ、図書館の扉を開け外へ出る。
「 」
「 」
扉を閉める間際、女性陣二人は申し訳なさそうな顔をして、何か話し合っていた。
それを見て、再び申し訳ない気持ちが湧いてくるのを、扉を閉めて遮断する。
そして、照れぎみの愛美さんの手を今一度しっかりと握り直し、倉庫に向かった。
久しぶりの、なのかんとかなっち。これからは、もうちょっと出番が……増えるかなあ?
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