第28話 長谷川さんとパフェ
こんにちは。資格系小説家、風井明日香です。
先日、とある資格試験に合格しました。一応国家資格の試験でしたが、かなりの正答率で合格することが出来ました。
その安心感からか、最近テンションが高いです。もしかしたら小説もハイテンションな内容になって……ないですね。たぶん。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、じゃあな」
とある日の放課後。いつも通り、図書館へ向かう浩介を見送ることから俺、松下真人の放課後は始まる。
ここ最近、浩介は毎日放課後を図書館で過ごしている。しかも、そのほとんどの時間は、佐倉さんと倉庫で二人きりだとか。なんという羨ましけしからん状況なんだ、全く。
とは言いつつも、そんな状況になっていることは、こちらとしとは願ったり叶ったりである。
こちら、というのはもちろん俺と長谷川さんのことだ。
長谷川椿。佐倉さんの親友である彼女と俺は、密かにとある協定を結んでいる。
その内容は浩介と佐倉さんの仲を深める、というもの。
二人きりの時間を取れるようにしたり、二人の相談に乗ったり。それらをスムーズに行うための協定だと俺は理解している。
とまあ、そんな感じで俺と長谷川さんは二人の恋路の支援をしている訳なのだが、ここ最近は特に目立った活動をしていないのだ。
さっき言った通り、浩介と佐倉さんは毎日倉庫で二人きりで過ごしている。そう、俺たちが何もしなくても、二人の時間が取れているのだ。
あとは二人が勝手に仲良くなるのを見守るだけという訳だ。
「(でも、そう安心出来るのも今のうちだけかもなあ……)」
浩介と違い放課後に用事がない俺は、さっさと帰宅すべく教室を出た。
そして、しばらく歩いたところで少し前を歩く長谷川さんが目に入った。
ちょうどいいところに。俺は少し歩みを速め、長谷川さんの肩に手を置き、
「よっ、長谷川さん。今帰りか?」
長谷川さんは振り返り俺の顔を見ると、少し顔をしかめ、
「ええ、今から帰宅よ。それよりも松下くん、ストーカー行為は犯罪よ?」
「してねえから! 今たまたま長谷川さんが視界に入って話しかけただけだから!」
「本当かしら? 念のため警察に通報を……」
「やめろ! 紛れもない冤罪だ!」
恐ろしいことを呟きながら携帯を取り出す長谷川さんを、なんとか宥め一息つく。
全く、いくら長谷川さん相手でも、俺がそんなことをするはずがない。……ないよ?
「まあいいわ。それで、何か用かしら?」
「ああ。少し浩介と佐倉さんの絡みでちょっとな」
俺がそう言うと、長谷川さんは不思議そうな顔をする。
「愛美たちのこと? 何か二人の間で変わったことでもあった?」
「いや、そういう訳じゃないんだがな。とりあえず、立ち話ってのもあれだしどっかの喫茶店でゆっくり話さないか? 少しくらいなら奢るぞ?」
長谷川さんは少し考えると、仕方ないといった態度ではあったものの、一応了承してくれた。
長谷川さんと一緒に校門を出て、学校から歩いてものの五分ほどの場所にある、喫茶店を目指す。
ほどなくして喫茶店に到着し、中に入り適当に座る。四人テーブルで、向かいに長谷川さんが座っている。
「それで、話とは何かしら?」
「そんなことより何か注文しようぜ。せっかく喫茶店来たんだしよ」
「あなたねぇ……。出来れば手短に終わらせたいのだけど」
「おー! 期間限定パフェだってさ! うまそうだな!」
ぴくっ。
ん? 今長谷川さん……。
俺が限定パフェと口にしたとき、長谷川さんの動きが一瞬停止しなかったか?。一応、もう一度言ってみる。
「期間限定のイチゴ増し増しスペシャルパフェらしいぞ……?」
ぴくっ。
やはり、パフェに反応している。
長谷川さんは、何やら葛藤している様子。これは、一緒に放課後、喫茶店デートと洒落混むリア充展開に進むチャンスなのでは!?
よし、ここはもう一押し……。
「その代わりちょっとお値打ちだけど、俺奢るって言っちゃったしなー。もし頼まれたら払うしかないなー」
ぴくぴくっ。
体の硬直に加え、眉も動いた。これはいい流れなのでは? さあどうする長谷川さん?
未だ葛藤する長谷川さん。素直になれ長谷川さん! パフェの誘惑を受け入れるんだ!
そんなよく分からないことを念じつつ、固唾を飲んで長谷川さんの様子を伺う。
五秒か十秒か、それよりもっとか。俺が見守る中葛藤し続けた後に、長谷川さんは──
ピンポーン。
無言で呼び出しベルを押した。
* * *
「でけえな……」
長谷川さんが頼んだ限定パフェが届いて、最初にそんな言葉がこぼれる。
二、三十センチはゆうにある高さのパフェは、その名の通りイチゴが増し増しに入っていた。
パフェの上部には、イチゴはもちろん可愛く型どったチョコやクッキーが大量に乗っており、見た目だけで十分に迫力がある。
パフェを見た長谷川さんは、心なしか目を輝せている。
そして、手を合わせ丁寧に「いただきます」と呟くと、スプーンを手に取り早速パフェを食べ始める。
「───っ」
一口食べるとみるみる頬を緩ませ幸せそうな顔をする長谷川さん。その微笑ましい様子を見守りながらコーヒーを頂く。
俺の視線に気付いた長谷川さんは、失態を見られたと言わんばかりに恥ずかしそうにする。しかし、パフェのおいしさには劣るようで俺を気にせず再度食べ始めた。
もう二、三口食べたあたりで、ふと長谷川さんが俺のほうを見て、
「松下くんはコーヒーだけ?」
「まあな。親からの今月支給分がそろそろ尽きそうでな」
「そう……。なんか悪いわね、こんなもの奢ってもらって。……あの、やっぱり私がお金──」
「いや、必要ない。俺が長谷川さんに奢りたくてやってるだけだから。気にすんな」
「………」
長谷川さんが何か言いたげにしながらも、黙ってしまう。その様子に少し罪悪感のような何かを覚える。遠慮せずに食べてもらいたいんだかなぁ。
すると、少し経ってから長谷川さんがパフェにスプーンを刺した状態でこちらにパフェをずらし、
「あなたが頼んだのだし一口くらい食べてもバチは当たらないはずよ」
少し照れながらそう言ってくる。本当に気にしてないんだが……。
「そんな遠慮しなくていいぞ? それに俺は長谷川さんがおいしそうに食べてくれるだけでお腹いっぱいだし」
長谷川さんは、俺のその言葉にさっきのことを思いだし少し頬を染めるも、すぐに体裁を正し、
「いいから食べて。そうしないと私の気が済まないの」
「そ、そうか……」
あまりの迫力で言われたため、反射的に肯定してしまう。まあ、それで長谷川さんの気が済むならやぶさかではないか。
「じゃあ、遠慮なく」
「ええ」
パフェの上部から気持ち控えめにすくい、口に運ぶ。
「あ、うまい」
ポロっと言葉が出てしまう程度にはおいしかった。あまりこういうものは食べたことがなかったが、意外と悪くない。
「ええ。私もこのパフェは他と比べてもおいしい部類だと思うわ」
「ほー」
というか、長谷川さんは頻繁にこういうものを食べるのだろうか。結構意外だ。気が強いイメージを少しばかり持っていたのだが、乙女らしい一面もしっかり持ち合わせているっぽい。かわいいね。
もう一口ほど頂いた後、パフェは長谷川さんに返した。まだ長谷川さんは満足してなさげな顔をしていたが、今一度説得してなんとか納得してもらえた。理解して頂き何よりだ。
再びパフェを食べ始める長谷川さん。またその様子を見守ろうと視線を向ける。
そして、長谷川さんがあらたにパフェを口に運び──
「あっ、間接キス……」
ぱくっ。
口をついて出た言葉を遮ろうと、とっさに手で口を覆うも、とうの昔に長谷川さんの耳には届いており……。
………。
数分間俺と長谷川さんの周りの空気が固まったのは言うまでもない。
あらやだ、間接キスに気がつかない椿ちゃんかわいい。
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