第27話 口説かれるお弁当
こんにちは。絵心系小説家、風井明日香です。
先日、知り合いの女子の絵を友人に描かせたところ、見事なベイマックスが返ってきました。さすがっす先輩。
屋上でばったり佐倉さんと長谷川さんに会ってから数分後。現在俺と真人は、佐倉さんと長谷川さんが座っていたベンチに同席させてもらい、一緒に昼食を食べている。
二人と出会った直後、驚きを隠せない俺と佐倉さんを横目に真人が、
「奇遇だなお二人さん! これも何かの縁だし、一緒に昼飯食べないか?」
と、盛大にナンパしたのをきっかけに、佐倉さんたちと昼食を食べることになった。
いつもながら真人の行動は予想できない。まあ、こんなふうに振り回されるのも、もうだいぶ慣れてしまったのだが。
それに、真人に付き合わされてやったことで、嫌な思いをしたことは一度もないのだ。
毎回、何かしら大変な目には遭うのだが、最後はいつも笑っていた気がする。
だから、俺は真人が何か変なことを始めても特に何も感じずに付き合うのだが、あまり関わりのない人からすると少し理解しがたくはあるかもしれない。
それを踏まえて考えると、少し気になることがある。
真人のナンパまがいな誘いに対して、あまり長谷川さんが反対しなかったということだ。
最初、真人の発言を受けた瞬間は、当然のことながら変態を見る目で真人を見ていた。
しかし、そのあとに少し考えるような仕草をすると、その後は特に真人を咎めるような態度はしなくなった。
何かしら、真人に対しての心境の変化があったのだろうか?
ちなみに、佐倉さんは喜んで同席に賛成してくれた。さすが佐倉さん。天使のような心の広さである。
そんなこんながあり、佐倉さんと昼食を取ることになった。
「杉浦くんは毎日購買のパンなの?」
先程購買で買ってきたパンを食べていると、横にいる佐倉さんから話しかけられた。
俺は苦笑いしながら、
「いや、いつもはお弁当なんだけど、今日は持ってくるの忘れちゃってさ」
「そうだったんだ。ふふっ、案外おっちょこちょいさんだね、杉浦くん」
「いつもは絶対こんなことないんだけどなあ。なんで今日に限って……」
「何か考え事でもしてた?」
「うーん、特には……ないかな」
いや、嘘つきました。まだこの前のマレラのことで、というか主に佐倉さんのことで頭がいっぱいでした。はい。
まあ、変に誤解されても嫌だし、言わないけど。
ちなみに、現在四人で同じベンチに座っている。
そのこと自体には全くもって問題ないのだが、その座り方に問題がある。
俺と真人がそれぞれベンチの右端と左端に座り、その間に、俺側に佐倉さん、真人側に長谷川さんというように座っているのだ。
もうこれなんてどこのリア充ダブルデート的な状態である。
普通男女で座るなら、男子同士女子同士で座るのではないのだろうか。あれ、俺だけですか?
では、何故こんな席順になったのか。理由は簡単である。
真人が変態だからである。
……さすがにこれだけでは伝わらないと思うので補足する。
佐倉さんと長谷川さんから同席の許可をもらった直後、真人が意気揚々と長谷川さんの隣に座ったのだ。
たしかに少しの長めベンチに佐倉さんと長谷川さんが真ん中に寄って座っていたので、その開いた左右に座ること自体は自然である。
だから、真人がそこに座ったことに対して俺は特に何も言わなかった。
しかし、いきなり隣に変態が座ってきたという状況の長谷川さんは、嫌がったり距離を取ったり、何かしらはすると思った。
案の定、真人が座った直後はとてつもなく嫌そうな顔をして、あからさまに距離を取ろうとしていた。
しかし、真人が長谷川さんを呼び止め耳打ちをすると、またもや長谷川さんは真人に対して何も言わなくなった。
さっきから、長谷川さんの行動に違和感を感じる。明らかに最初は嫌そうにしていたことも、真人の言葉やアイコンタクトを受けると、何も言わなくなる。
これだけ聞いたら、完全に真人が長谷川さんの弱みを握って脅してるとしか考えられないのだが……。
まあ、真人に限ってそんなことはないと思うが。
前にも言ったかもしれないが、真人は変態ではあるけども、基本はいいやつなのだ。
中学校の頃には相談に乗ってもらったこともあった。
しかし、そうなるとますます長谷川さんの行動の理由が気になる。何かしら真人が関係しているとは思うのだが、いまいち予測が出来ない。
うーん、まあとりあえずは気にしないことにしよう。別に二人の仲が悪くなったって訳でもないしね。
ふと視線を落とすと、佐倉さんのお弁当が目に入った。
そして、目が放せなくなった。
佐倉さんのお弁当は、主食・主菜・副菜が3:1:2と、理想のバランスで詰められてあった。
そして、食材の配色も食欲を誘うような色合いになっており、おおよそこの上ないほど完璧なお弁当だった。
もしかして、あのお弁当は佐倉さんが自分で作ったのだろうか。
「そのお弁当って手作りなの?」
「う、うん。そうだよ」
手作りのお弁当を見られて恥ずかしかったのか、照れながら少しお弁当を隠すような動作をする佐倉さん。
「人に自分のお弁当を見せることとかないから、なんか恥ずかしい……」
そんな完璧なお弁当の、どこに恥じるところがあると言うのだろうか。
俺は佐倉さんを真剣な眼差しで見つめながら、
「何も恥ずかしいことなんてないよ、佐倉さん」
「ふぇ?」
俺の真剣な眼差しと言葉に、佐倉さんが動揺した様子で変な声を出す。俺はそのまま話を続ける。
「そんなに完璧なお弁当を作れる人なんてそうそういないと思う」
「そ、そんなこと……」
「いや、本当にすごいと思う。そんなお弁当人生で初めて見たよ。感動した」
「あの、えっと…」
「それほどのお弁当だったら、俺なら毎日食べても飽きないと思う。それくらいには良いお弁当だよ」
「 」
「佐倉さんは将来、絶対良いお嫁さんになるよ。こんなお弁当が毎日食べれるなんて旦那さんが羨ましいくらいで──」
「 」
気付けば佐倉さんは耳まで真っ赤にし、俯いてしまっていた。
あ、あれ? ただ単に褒めていただけなのだが、そこまで照れることだっただろうか。
佐倉さんは、頭から湯気が出るほど真っ赤になってしまっている。
俺がよく状況が掴めずオロオロしていると、真人が俺を見て一言。
「なんでお前佐倉さん口説いてんの?」
「ふぁっ!? い、いや、口説いてなんて──」
「いや口説いてただろ」
「口説いてたわね」
ついには横にいた長谷川さんまで同意する始末。
そ、そんなバカな……。俺はただ佐倉さんのお弁当を讃えていただけで、口説くような台詞なんて……。
『毎日食べても飽きない』→なんか口説いてそう。
『良いお嫁さんになる』→完全に口説いてる。
『旦那さんが羨ましい』→口説きすぎて変態。
完全に口説いてるぅ───!!
いや、さすがにこれは口説いてる! 言い逃れ出来ないほど完璧に口説いてる!
俺、とんでもなく恥ずかしいこと言ってるんですけど。バカなの? 死ぬの? 口説くの? 口説いてました、ごめんなさい。
佐倉さんは相変わらず真っ赤で、その奥に座る二人は呆れた様子でこちらを見つめていた。
改めて思い返したら、耳まで熱くなるほど恥ずかしくなってきた……。穴があったら引き込もってラノベ読みたい……。
結局その後は、なんとも言えない雰囲気の中、味のしないパンを黙々と食べる羽目になった。
料理出来る女の子に魅力を感じます。
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