第25話 佐倉さんへの思い
こんにちは。バドミントン系小説家、風井明日香です。
私、この間バドミントンをやる機会がありました。うーん、卓球をやっている癖なのか、なかなかガットにあたりません。そして高確率でフレームにあたります。もう卓球だけでいいや(白目)
マレラから帰宅しリビングに入ると、すごくラフな格好をした一人の少女が、ソファの上に寝転がっていた。
俺はその隣に腰掛けると、おもむろにその少女を自分の足の間に座らせる。そして、軽く髪を撫でながら、
「ただいま、すみれ」
「リビングに入った段階でその言葉を聞きたかったかな」
妹からいきなりダメ出しを受けてしまう。
しょうがないね、「ただいま」を言う前にすみれの頭が目に入っちゃったんだから。なでなでの欲求には抗えないんだよ。うん。
「ごめん、すみれを前になでなでが我慢出来なくて……」
「私、お兄ちゃんの将来が真面目に心配なんだけど」
「ん? 大丈夫だよ? すみれとは一緒の家で住むし」
「お兄ちゃんの未来図はどうなってるのかなっ!?」
うーん。やっぱり理想としてはすみれと一緒がいい。
しかし、すみれだっていつかは家庭を持つのだろうし、そういう訳にもいかないだろう。
たしかにそうなると、なでなでする機会が無くなってしまうんだよなあ。悲しいことこの上ない。
「まあ、いずれはなでなで出来なくなるのなら、今のうちに撫でれるだけ撫でとこうかな」
「お兄ちゃんにとって、なでなでってどれだけ重要なものなんだろう……」
「食欲、睡眠欲、なでなで欲みたいな感じかな」
「性欲を捨ててまで!?」
驚愕した様子のすみれ。はて、そんなに変なことを言った覚えはないのだが。
いやまあ、性欲もないと言ったら嘘にはなるのだが、どちらかと言えばなでなで欲のほうが強い気がする。
結論、すみれの頭は偉大。なでなで。
「はあ……。今日はそんなに嬉しいことでもあったの?」
すみれは、一つため息をついてから今日のことを聞いてくる。
すみれには朝出掛ける時に、マレラで真人と遊んでくる体のことを伝えてある。それに加えて、なでなでからの感情を読み取って聞いてきたのだろう。
「まあね。今日はすごく充実した一日だったよ」
「真人さんと一緒に遊んでたんでしょ? なでなでの感じからすると、真人さんと遊ぶより楽しい何かがあった感じがするんだけど、気のせい?」
おっふ。すみれさんのなでなで感応能力高すぎませんか。感情の種類はもちろん、その度合いまで分かるんですか。すごいを通り越して怖いです。
ちなみに、今更ではあるが、すみれと真人は顔見知りである。真人とは小学生のころから付き合いだから、真人が家に遊びに来ることも、少なからずあった。
すみれが小学生の頃は『真人くん』なんて呼んでいたのだが、真人が変態化し、すみれが中学生になる頃にはいつの間にか『真人さん』と呼ぶようになっていた。真人が地味にショックを受けていたことは言うまでもない。
「実は、偶然マレラで知り合いと会ってさ。ほら、この前話してた同じ趣味だったって人」
「へー、その人と一緒にマレラを回ったの?」
「うん。その人……佐倉さんって言うんだけどね。佐倉さんももう一人の友達と一緒で、合計四人で回ったんだけど、これがすっごく楽しくてさっ」
思い出しながら喋るだけで不思議と言葉が弾んでしまう。おそらく今すみれを撫でている手からも、この感情は伝わっているのだろう。
「ふーん、そっか」
自分から聞いたくせに、あまり興味の無さそうな反応をするすみれ。
それを少し不思議に思いつつも、とりあえず話は一段落したので、なでなでに意識を集中させる。
はあ、今日は佐倉さんたちとマレラが回れてすごく楽しかったし、本当に充実した一日だった。
そんなことを考えながら、ただひたすらにすみれの頭を撫でる。
しばらくすると、すみれが口を開く。
「ねえ、その同じ趣味の……佐倉さん? その人って、女の人?」
「え、うん、そうだよ。あれ、言ってなかったっけ」
「うん、聞いてない。よかったらその人のこと聞かせて?」
そういえば、すみれには同じ趣味の人と出会ったとしか言ってなかったのか。知り合った経緯や性別さえも話してなかった。
「名前は佐倉愛美さんと言って、同じクラスの人で図書委員をしてるんだけど。この前先生に頼まれて図書委員のお手伝いをしたときに知り合って、少し話したらすごい趣味が合ってさ。最近は結構話したりしてるんだ」
「そーだったんだ。お兄ちゃんは佐倉さんのことが好きなの?」
「ふぁっ!?」
平然ととんでもないことを聞いてくるすみれに、思わず奇声を発してしまう。
全く、この妹はいきなり何を言い出すんだ。親しき中にもなんとやらという言葉を知らないのかしら。
……とは言ったものの、正直すごく痛いとこを突かれた。
実を言うと俺自身、気になっていることでもある。『佐倉さんのことをどう思っているか』という自分に対する疑問。
たしかに佐倉さんはかわいいし、いい人だし、すごく魅力的な人だとは思う。俺も、別に佐倉さんに対して全く無関心なんてことはない。
俺のタイプである眼鏡っ娘であることや、同じ趣味で気兼ねなく話せる異性、というだけでも十分な関心はある。
しかし、佐倉さんに恋愛感情を抱いているのかと言われると、そこまででもない気もする。
「お兄ちゃん? あ、あれ、あんまり聞いてほしくないことだった……?」
なかなか答える気配を見せない俺に、すみれが不安そうに尋ねてくる。
「あ、いや、そういう訳じゃなくてね」
「どういうこと?」
不思議そうなすみれが再度尋ねてくる。
俺は少し考えた後、
「俺自身、佐倉さんのことをどう思ってのか分からないんだ。少なくとも、嫌っているなんてことはないけど、好きなのかと言うとそこまででもない気がして……」
「現時点では友達ってこと?」
「そうだね。だから、すみれの質問に対して言うのなら『NO』になるのかな、たぶん」
「そっか」
相も変わらずそっけない返事をするすみれ。俺はそんなすみれの頭を再び撫で始める。
さらさらつやつやの髪をやさしく撫でながら、今一度佐倉さんのことについてを考える。
とりあえず、佐倉さんに対しての思いは『友達』だろうし、実際の関係だって『友達』なんだろう。今のところは明確な恋愛感情がある訳でもないし。
でも。
もし。そう、もしも。佐倉さんとそういう関係になったとしたら──
「(たぶん、毎日がすごく楽しいんだろうな……)」
俺はそんなことを考えつつ、すみれの頭を晩御飯の時間になるまで撫で続け、またもやすみれからお叱りの言葉を受けるのだった。
久しぶりのなでなで回。個人的にすみれは好きなキャラ。妹最高。
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