第24話 とりとめのない思い
こんにちは。将棋系小説家、風井明日香です。
先日、兄と将棋をする機会がありました。私、戦術とか考えるのすごく苦手なんですよね。
もう、何も考えずに飛車を単独で突っ込ませました。そしたら何故か勝てました。将棋楽しい。
長谷川さんへの関わり方に自信が持てなかった佐倉さんの相談に乗り、無事解決することが出来てから数分後。
各自、注文したものが届き、みんなで昼飯を食べる。
不安や懸念が無くなった佐倉さんは、自然に長谷川さんに関わることが出来ていて、終始和やかに昼食の時間は進んだ。
昼食を済ませた後は、四人で様々な店を回った。昼食の時と同様に雰囲気はよく、佐倉さんと長谷川さんはもちろん、長谷川さんの真人に対する雰囲気も午前中ほどの棘は感じなかった。
おかげで、すごく楽しく午後を過ごすことが出来た。
例えば──
* * *
ペットショップでは、
「わー! この猫すっごく可愛いー!」
「愛美は本当に猫好きよね」
「うん! このくりくりな目と気ままな感じがすごく可愛いの!」
と、女子トークが繰り広げられるのを遠目から見ながら、
「猫耳女子っていいよなぁー」
「ちょっと静かにしよっか」
あらぬ発言をする真人にツッコミを入れたり。
* * *
CDショップでは、
「椿、今どんな音楽聞いてるの?」
「片方だけでいいのなら、一緒に聞く?」
「うん! ……あー! これ新曲のやつだったっけ? 椿、こいうのも聞くんだ!」
「ええ、最近聞くようになって」
と、イヤホンを片方づつ耳に当て、仲睦まじく音楽を聞く二人を見つつ、
「あれは、やっぱり百合なのか!? 百合というやつなのか! す、素晴らしい……」
「だからちょっと静かにしようか」
とんでもないことを言い出す真人に、またもやツッコミを入れたり…。
* * *
アクセサリショップでは、
「このネックレス、すごく椿に似合いそう!」
「そう? あまりこういうのって着けたことがないのだけれど……」
「絶対似合うよ! ほらほらっ」
「つ、着けるのくらい自分で出来るわっ」
「まあまあ、そんなこと言わずにー♪」
と、長谷川さんの後ろに回ってネックレスを着け始める佐倉さんと、少しばかりの抵抗をしつつも言いなりなっている長谷川さんを眺めながら、
「これは……さくはせなのか? いやでも、はせさくの可能性もワンチャン……」
「黙ろっか」
懲りずに、あらぬ妄想を膨らませる真人に、またまたツッコミを入れたり……。
あ、あれ、おかしいな。佐倉さんと長谷川さんの関係の順調さを伝えたかったのに、真人の変態さしか伝わってこないぞ? どういうこっちゃ。
……うん、真人が変態ってこっちゃな。分かります。
まあ、そんなこんなで、真人の変態度はさらにアッp……じゃない。佐倉さんと長谷川さんの関係はすごく順調だった。
そして、気付けばかなり時間が経っていて、もうそろそろ時計は五時を回ろうとしていた。
「ふー、結構たくさん回ったねー」
「そうね、足がくたくただわ」
昼食を食べてから、ずっとはしゃぎっぱなしだった女子二人は少しお疲れの様子。まあ、はしゃぎっぱなしと言っても、主に佐倉さんが長谷川さんを連れ回していたと言ったほうが適切かもしれない。
そんなお疲れの二人に、俺は腕時計を見ながら、
「もう五時だけど、どうする? まだお店回る?」
「私はもうだいぶ満足したし、解散でもいいけど、椿は?」
「私も賛成ね。さすがにもう歩きたくないわ……」
「あ、あはは……。ごめん……」
佐倉さんは、体は疲れてはいるものの、午後だけですごく満足したのか、心は快活なようだ。
しかし、それに付き合わされた長谷川さんは、嫌そうな感じはないものの、心身共に疲れたきった様子。
「俺もだいぶ満足したし、解散でも大丈夫だぞ」
真人も、佐倉さんと同じくすごく満足げな顔をしていた。……何に満足したのかは聞きたくもない。
「じゃあ今日はここで解散ということで。佐倉さんと長谷川さんは電車?」
「いや、私たちはバスだよ。私たちの家がこの辺りだから、ここに来る時はいつもバスなの」
へー、佐倉さんと長谷川さんはこの辺りに住んでるのか。まあ、同じ中学校だと言っていたし、二人が近所なのは当たり前だが、この地域に住んでいるというのは初耳だった。
「それじゃあ、とりあえずバス停まで一緒に行こっか」
「だな」
俺の提案に、真人も賛成してくれる。とは言うものの、実はバス停と駅はほぼ隣合わせに位置しているので、必然的に駅に行く途中にバス停の前は通ってしまうのだ。
佐倉さんと長谷川さんもそれぞれ頷いてくれて、マレラの外のバス停へと歩き出そうとした刹那、佐倉さんが長谷川さんに話しかける。
「椿、さっき足が結構疲れたって言ってたけど、大丈夫?」
長谷川さんは微笑を浮かべながら、
「ええ、大丈夫よ。バス停まで歩くくらいなら──」
「無理は禁物だぜ、長谷川さん! よければ俺の背中に乗ってもいいんだぜ!」
と、いきなり真人が長谷川さんの目の前に駆け寄って来て、姿勢を低くしながら自分の背中を指差す。
長谷川さんは毎度ながらの冷凍ビームを真人に向けつつ、スッと買い物袋を掲げる。その瞬間、
「ごめんなさい調子乗りましたすみません」
完全反省体制に豹変し、実に見事な九十度のお辞儀をする真人。それを見届けた長谷川さんは、おもむろに買い物袋を下げいつもの表情に戻る。
なんだ今の一連の動きは……。どこぞの御老公様のクライマックスさながらの流れ作業だったぞ……。あの買い物袋の中に何があるんだろうか……。
真人が見事におんぶを却下された後、お疲れ気味の長谷川さんのペースに合わせつつ、バス停まで四人で歩く。すると、ちょうど佐倉さんたちが乗るバスが来ていたらしく、すぐ二人と別れることになった。
「じゃあ、また学校で」
「うん、またね!」
俺の言葉に、手を振りながら佐倉さんが笑顔で返してくれる。少し照れつつも手を振り返すと、佐倉さんはニコッと微笑んで、バスの中に入っていく。
そのあとに続いて長谷川さんがバスに入ろうとすると、真人が声を掛ける。
「長谷川さんも、また来週な!」
「……ええ、また」
長谷川さんは一瞬冷たい目線を向けるも、ため息まじりに返事をしてバスに入っていった。
バスが出発するのを見届けてから駅へと向かう。
「四人で行動してたから結局ゲーセンは行けなかったね」
「だな。でもまあ、それと同じくらい楽しめたし、俺は満足かね」
当初はとりあえずゲーセンに行こう、なんて話になっていたのだが、佐倉さんと長谷川さんと合流したことで大幅に予定が変更になった。しかし、真人の言う通り、たぶん二人で一日を過ごすよりかは遥かに有意義に過ごせたと思う。
「俺も同じ感想かな」
「お、浩介も百合を理解してくれるか! いやー、やっぱ女の子同士の神秘の領域って最高だよなー」
「そっちじゃない」
安定の真人にツッコミを入れつつ、今日の出来事に思いを馳せる。
今日一日だけで、佐倉さんのことをすごくたくさん知った気がする。
長谷川さんのことや、長谷川さんに対する気持ち、そしてこれまで見たことのなかった色々な表情。本当に盛り沢山な一日だった。
様々なことを知りながらも、もっと佐倉さんのことを知りたいとも思って……。
何故こんなことを思うのかは分からないが、何かもう少し佐倉さんのことを知れれば、その理由が分かる気がして……。
──そんなとりとめのないことを考えながら、帰路に着いた。
百合までいかなくても、二次元の女子がきゃっきゃしてるのを見るのっていいですよね。三次元は知らん。
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