第22話 あくまでキューピッド
こんにちは。バスケ系小説家、風井明日香です。
この間ちょいとバスケをしました。それも結構本格的に。うん、死んだ。体力皆無の私には全く向いてないスポーツですね。卓球万歳。
「まずやることとしては、愛美と杉浦くんを二人きりにする、ということよ」
「はあ」
長谷川さんと秘密の協定を結んだ後、長谷川さんに具体的にはどんなことをするのか聞いてみた。すると、大きく分けて三つの方針を挙げてきた。
一つ目に、二人の関係を深めること。
二つ目に、二人の相談相手となること。
そして最後に、俺たちが二人の関係に直接関与しないこと。
一つ目と二つ目に関しては、おおよそ理解出来る。しかし、三つ目だけは少し意味が分からなかった。
とりあえず三つ目のことは後で聞くことにして、一つ目の方針としてやっていくことを長谷川さんに問うと、今の答えが返ってきた。
「なんだか煮え切らない返事ね。言いたいことがあるなら言ってくれるかしら、松下くん」
俺が曖昧な返事をしたせいか、長谷川は少し苛立った様子で言ってくる。
そういえば、協定を結んでから長谷川さんが俺のことをしっかり"松下くん"と読んでくれるようになった。ささいなことではあるのだが、結構うれしい。これでもう靴下呼ばわりとはバイバイだぜ!
「いや、二人きりの時間を取るってのは分かるんだが、それはあれか? 俺たちが意図的に二人きりにさせるってことか?」
「簡単に言ってしまえば、そういうことね。でも、いつも二人きりにするというのは難しいし、逆に不審がられるかもしれないから、まあほどほどにって感じかしら」
「なるほどな」
長谷川さんも考えあっての話のようだ。それほどまでに佐倉さんのことが大切ということだろうか。
なんだか面白半分で協力すると言ってしまったことに少し罪悪感を感じる。
長谷川さんがここまで親身になってやっているんだし、もう少し真面目に協力することにしますかね。
そう思い佇まいをちょっとばかし正し、真剣に聞く体制をとる。
「あら? なんだか目付きが変わったわね。ようやく私に本気で協力する気になったのかしら?」
「まあな」
「っ……。そ、そう。あなたにしてはいい心がけね」
俺が即答で返すと、何故だか長谷川さんは少し言葉を詰まらせる。
「ていうか、俺があんまり本気じゃなかったの分かってたのか。いや、悪かった。これからは真面目に長谷川さんに協力する。許してくれ」
「べ、別にっ、分かればいいのよ、分かれば。ええ……」
なんだかたどたどしい長谷川さん。俺、なんか変なこと言っただろうか。
先程までは自信満々というか、少し高圧的な態度だったのに、なんだか今はもじもじしてる。なんだこれ可愛いな、おい。
こんだけギャップ萌えを見せられるとちょっといじってみたくなってしまう。
「どうした? いきなり素直になって自分の言うことを聞くようになった俺の態度に照れちゃったか?」
「──っ! そ、そそ、そんなことないわよ!?」
明らかにうろたえた様子を露にする長谷川さん。あ、あれ、当たっちゃったんだけど。まじかよ、これは鼻血物ですわ。
俺が内心でによによしていると、長谷川さんがあからさまに咳払いをして体裁を整える。
もうちょっとからかってみたい気持ちもあったのだが、これ以上やると後が怖そうだからやめとこう。また服を人質に取られたら手も足も出ない。
「一つ目の、二人の関係を深めるってことについては理解した。二つ目の、相談相手ってのもまあ大体は予想出来る。だが──」
「三つ目の、二人の関係に直接関与しない、というのがよく分からない?」
「ああ」
一つ目と二つ目に関しては、あらかた理解出来るのだが、二人の関係に直接関与しないというのは具体的にどういうことなのかあまり予想出来ない。
「特に難しいことでもないわ。……今一度問うけど、あなたもあの二人には仲良くなってほしいと思っているのよね?」
「ああ。なんたって俺たち二人の親友同士の恋愛だしな。それも二人とも結構気が合うときた。応援しないほうが損だろ」
「そう。私も大体は同じ気持ちよ。二人には仲良くなってほしいと思ってる。でも、この気持ちをあの二人に無理矢理押し付けることはしたくないの。二人の意思は二人が決めること。そうでしょう?」
「だな、俺もそう思う。だから"二人の関係に直接関与しない"ってことか。二人の応援はするけど、二人がどうするかっていう意思までは突っ込まない、と」
「ええ、そういうこと」
なるほどな。俺たちは二人の恋のキューピッド。だが、もし二人の意思までも強制してしまえば、そんなものはキューピッドではなく、悪魔の間違いだろう。
何よりも二人の意思を尊重し、少しばかりの環境作りや二人の相談相手となりつつ、後は見守るだけ。つまりはそういうことだろう。
「よし、大体は把握した。改めてよろしくな、長谷川さん」
「ええ、よろしく」
協定の内容について、あらかた確認し終え、例の二人の帰還を待つ。
すると、ものの数十秒もしないうちに二人が帰ってきた。
「ただいまー」
「おう、おかえり。お二人さん」
片手に一見、無線機にも見える小さい機械を持った浩介と佐倉さん。二人ともしっかり注文を終えたようだ。
席に座る前に、佐倉さんが口を開く。
「椿も松下くんもありがとね。次は私たちがテーブルにいるから、二人ともお昼ご飯選んできていいよ」
「ええ、そうするわ」
佐倉さんの言葉を受け、長谷川さんが腰を上げる。俺もそれに合わせ立ち上がる。
その刹那、長谷川さんと目が合う。口に出さずともお互いに言いたいことは分かっている。二人にバレない程度に小さく頷き合う。
「じゃ、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
俺の言葉に浩介が応えてくれる。俺はその浩介に、小さくウインクして、すぐその場を後にする。
一瞬、不思議そうな顔をする浩介が見えたが、気にせず立ち去る。まあ、逆にあそこで意味が理解されたほうが、こちらとしては困るんだがな。
二人まで声が届かないあたりまで来たところで、長谷川さんに話しかける。
「期せずして、二人きりにするってのをもう実行出来たな」
「そうね。序盤からまあまあの滑り出しと言ったところかしら。少し時間を掛けて昼食を選びましょうか」
「だな」
俺と長谷川さんの協定関係は続いていく。たぶん、あの二人の関係に大きな変化が生まれるまで……。
ツンデレっていいですよね。あっ、後ドSと妹がいないと喫茶店が開けないな……。
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