第20話 洋服選び
こんにちは。体調悪い系小説家、風井明日香です。
最近、ずっとお腹の調子が悪いです。昼夜問わず、ずーっとぎゅるぎゅる言ってます。お腹は空いてないんですけど、お腹の虫が騒がしいです。
人は、人生を生きる中で数えきれないほどの『選択』を強いられる。
『選択』と一言に言っても、その種類は様々である。
『今日のお昼ご飯は何を食べようか』
こんな些細なものもあれば、
『高校卒業後の進路は進学か就職か』
このような、今後の人生に大きく関わってくるようなものまである。
まだ成人もしてない若者が何を偉そうに、と思うかもしれない。俺も、なんの理由もなしにこんなことを語っている訳ではない。
では何故、唐突にこんなことを語っているのか。
それは──
「杉浦くんはどっちの服のほうがいいと思う?」
──現在進行形で、俺が究極の『選択』を迫られているからだ。
学校で感じた視線の正体が長谷川さんだと分かってから数分後。ゲーセン以外には特に行きたい場所がなかった俺と真人は、女子二人に行き先を委ねた。
二人は少し相談すると、まずは洋服店に寄りたいと言った。
だから今、四人で洋服店の中にいるわけなのだが……。
「え、えーっと……」
現在俺は、佐倉さんと向き合って立っている。
そしてその佐倉さんは、右手と左手の二種類の服を俺に見せつけるかのように持っていた。
右手に持っている服は、所々にフリルがあしらわれている薄いピンク色のブラウス。
左手に持っている服は、同じくフリル付きの白が基調の袖付きワンピース。
右手のブラウスであれば、そこらのミニスカートと一緒に着れば、ちょっと清楚な美少女の完成だ。
左手のワンピースなら、もうそれを着るだけで誰もが振り向く可愛さMAXの女の子に大変身だろう。
あれだけ元が可愛い佐倉さんのことだ。どちらの服も、絶対に似合うこと間違いなしだ。
そして、そのどちらがいいのかの選択を今、佐倉さんから求められている。
そう、もしかしたら俺が選んだほうの服を購入するかもしれないのだ。嫌でも慎重になってしまう。……今、チキンとか思ったやつ。お前は晩飯の鶏肉にしてやる。
俺はたっぷり悩んだ後、佐倉さんが左手に持つワンピースのほうを指差した。
「俺はこっちがいいと思う」
佐倉さんは今一度ワンピースを見ると、少しいじわるな顔で俺に問いかけてきた。
「その心はっ?」
「えぇっ!?」
急に無茶ぶりを振られてだいぶテンパるも、なんとかさっき考えていたことを話す。
「え、いや、その……。さ、佐倉さん元が可愛いから、そのワンピースだったら可愛さがもっとアピールできるかなと思って」
「ふぇっ!?」
佐倉さんが、さっきの俺と同じような反応をする。俺が考えていたことをそのまま伝えたのだが、何か間違えただろうか。
「 」
何やら佐倉さんが真っ赤になりながらボソボソと喋っている。内容は聞き取れなかったが、表情を見るに、すっごい照れてることだけは分かる。
そういえば、前も可愛いって言われてすごい照れていたことがあったな。やっぱり言われ慣れてないのだろうか……。
というか、そう考えたらこっちまで恥ずかしくなってきた……! いきなり女子に可愛いとか言うのってそれ変態じゃないのか!?
冷静になってから、あらためて自分がとんでもないことを口走ったことに気付き、一人羞恥に悶えまくる。
「ま、まあ、ただ単に俺個人として意見だからっ。さ、参考程度にね!」
俺が早口で捲し立てた言葉を聞いた佐倉さんは、
「な、ならっ、今から試着してくるから! ち、ちょっと待ってて!」
「えっ!?」
佐倉さんは、俺の驚きの声には見向きもせず、あわてふためきながら試着室に走っていった。
し、試着って……。い、いや、何もやましいことなんてない。そう、ただの試着だ。
しかし、相手が自分の選んだ服を着るとなると、なんだかすごくそわそわする。これで、もしも佐倉さんが気に入ってくれなかったりしたら……うっ、胃が痛い。
とりあえず佐倉さんの後を追い、佐倉さんの入った試着室の前で待機する。試着室のカーテンを見つめるのはちょっと犯罪臭が漂う気がしたので、試着室に背を向けて立つ。
すると、少し離れた所に真人と長谷川さんが一緒にいるのが見えた。
「これこれ! これ絶対長谷川さんに似合うって! 俺が保証する!」
「あなたに保証されてもね……」
真人がどこからか服を持ってきて、長谷川さんにぴったりだとかどうのこうの言ってる。
それに対して長谷川さんは真人に向かって冷ややかな目線と言葉を送りつつも、服自体は少し気に入ったのか、手にとって見ている。
意外とあの二人は気が合うのだろうか。まあ、明らかに温度差はある気がするのだが、ちょうど二人合わさって平均温度になっているというか、なんというか。そんな感じ。
とにかく、仲が悪くなっているわけではなさそうなので、ひとまず安心だ。
しばらくその二人の様子を眺めていると、シャッと試着室のカーテンが引かれる音がした。
脊髄反射のような勢いでとっさに振り返ると、
「ど、どうかな……? 杉浦くん」
そこには、天使がいた。
そう、紛れもない天使。いや、天使なんて見たこともないし、それ以上の存在かもしれない。
白地のワンピースは佐倉さんの真っ白な肌と相まって、とても映える。フリルのあしらわれたスカート部分も、佐倉さんの綺麗な足を引き立てるかのように、ひらひらと揺れている。
鎖骨を見せつけるような、思わずドキッとする開放的なネックラインは、涼しげなイメージを演出すると同時に佐倉さんの可愛さを何倍にもアップさせている。
そのあまりの可愛さに、言葉も出ずに見とれてしまう。
しかし、感想を求められている以上、答えないなど言語道断。
世界をも引っくり返せるかもしれないレベルの可愛さに対する感想だ。ここは、俺の精一杯の気持ちを込めて──
「ご馳走様でした」
「ふぇっ!? お、お粗末様でした……?」
佐倉さんは疑問系になりながら、そう返してくる。うん、さすがに「ご馳走様でした」はおかしいね。一歩間違えたら変態ですよ。真人ですよ。
「あ、その。へ、変……かな?」
佐倉さんが少ししょんぼりした顔で聞いてくる。
しまった! 俺のバカな言動で佐倉さんが落ち込んでる!
「い、いや! 全然変じゃないよ! むしろ、すっごく似合ってる! めちゃくちゃ可愛い!」
「───っ!! 」
またもや顔を真っ赤にして、俯いてしまう佐倉さん。これまたぶつぶつと呟いていたが、俺の耳には届かなかった。
佐倉さんは、そのままシャッとカーテンを引き、試着室の中へと隠れてしまう。
……もうちょっと見てたかったな。
* * *
着替えが終わって、試着室から出てきた佐倉さんは、いまだに頬を赤く染めていた。
「じ、じゃあ。私、これ買ってくるからっ」
「あっ、うん」
そう言うが否や、たたたっと小走りにレジに服を持っていった。気に入ってくれたようで何よりである。
俺は、一足先に店の外に出て、佐倉さんの会計が終わるまで待機する。
しばらくして会計を終えた佐倉さんが、真人と長谷川さんと一緒に店から出てきた。
長谷川さんの持っていた会計袋には、先程真人が一心不乱に薦めていた洋服が入っていた。
佐倉さんはチラッと購入したワンピースを見ると、心底嬉しそうにニコニコしていた。
長谷川さんも、心なしか満足そうな顔をしている気がした。
ちなみに、真人はその百倍は満足そうな顔をしていた。なんかキラキラしてる。
──そんなこんなで、程度に違いはあれど、四人とも幸せな気分で洋服店を後にするのだった。
ワンピース着た女の子ってめっちゃ可愛いと思います、はい。
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