第17話 書店でばったり
こんにちは。なわとび系小説家、風井明日香です。
この前、久しぶりになわとびをやってみました。二重跳びが連続三十回できました。代償として体力の八割方を持っていかれて死にかけました。なわとび怖い。
俺の家の最寄り駅から二駅、そこから徒歩5分ほどの場所にある大型ショッピングモール、マレラ。
駅から近く、このあたりでは一番大きいショッピングモールということもあり、人気がある。
ここには、映画館やボウリング場、ゲームセンターなどの娯楽施設にはじまり、洋服店やアクセサリー店等々、様々な店が並んでいる。
だから、このマレラには若者から年寄りまで、幅広い年代の人が足を運ぶ。
やってくる人の数も、休みの日ともなると結構な量になる。
俺は今、それを身を持って実感していた。
「それにしても、すごい人だね……」
「だな……」
俺が放った言葉に、となりにいた真人も同意する。
俺と真人は今、そのマレラの一階、入り口から入りちょっと進んだところにある、少し開けた場所にいる。
このマレラは、上空から見下ろす形で見ると、すごく縦長な形状をしている。
その縦長の端から端までが一本の通路で繋がっていて、その通路すべてが吹き抜けであるため、開放感がありなんとも好奇心をそそられる。
それに加え、この建物自体がとても大規模なため、何も考えずにぶらぶらしていると、それだけで一日が終わってしまうだろう。
それを踏まえ、真人に提案する。
「真人はどこか寄りたいとこある?」
そう、あらかじめ寄る店を決めておくのだ。
たしかに、何も考えずに建物の中を散策するのも、全く楽しくないという訳でもない。
しかし、ある程度は立ち寄る店に目星をつけておかないと、本当にあっという間に一日が終わってしまう。
「とりまゲーセンは行きたいけど、それ以外は特にこれといって行きたいとこはないな」
「了解。じゃあ最初に書店に寄ってもいい? 新刊が出てるか確認したいんだ」
「ああ、いいぞ。俺も何か面白そうなのが出てないか気になるしな。じゃあ行くか」
俺は真人の声に「うん」と返すと、書店に向かって歩き出す。
これまで何度かここには来たことがあるので、大体の店の場所は覚えてたりする。
昔から、道を覚えたりするのは結構得意。しかし、歴史の人物や出来事を覚えるのだけは昔から大の苦手。なぜか脳が拒絶する。どんだけ嫌いなんだろう、歴史……。
* * *
書店に着き、早速ラノベコーナーを物色する。真人はあらかたラノベコーナーを見ると、コミックコーナーのほうに行った。
探していた新刊もすぐに見つかり、今は、まだ読んだことがないシリーズの新規開拓中だ。
ちょっと気になるタイトルの本を手に取り、裏のあらすじを読んでみたり。
かわいい表紙の絵に釣られて、挿絵の描かれてるページだけ飛ばし飛ばし見てみたり。
なんともきわどい格好の女の子が描かれた表紙の本を手に取り、最初のカラーページを見て、とっさに本を閉じて周りを確認したり……。
そんなことをしながら、時間を潰す。なんとも不毛な時間に見えるが、これがまた意外に楽しい。
購入する訳でもなく、ただひたすらに未読ラノベを漁る。店からしたらとんでもない迷惑客だが、今日は一冊買うので勘弁してください。
そんなことを考えながら次の本に手を──
「あれ? 杉浦くん?」
背後から天使……じゃない。マジカル天使の声がかかる。最近毎日聞いていたエンジェルボイスだ。忘れるはずもない。
その天使がここにいることに驚きを隠せないまま、後ろを振り返る。
「佐倉さん!」
「奇遇だね! こんなところで」
天使の眼鏡っ娘が、私服姿でそこに立っていた。天使の眼鏡っ娘こと佐倉さんは、俺と会えたことが心底嬉しいかのように満面の笑みを浮かべている。
「……杉浦くん?」
……はっ! し、しまった。一瞬意識が飛んでいた……。恐るべし、天然私服佐倉さん。
ぶんぶんと頭を振り、気持ちを落ち着かせ「ご、ごめん。なんでもない」と返してから、もう一度佐倉さんのほうを見る。
すると、一つ気になることがあった。
佐倉さんの隣にもう一人、同年代くらいと見られる女子が立っていた。その女子は俺の顔を「だれこの人」みたいな目で見つめていた。
俺もまたその女子に「どちら様?」みたいな不審な目を向けていると、それに気付いた佐倉さんが説明してくれる。
「あ、椿とは初対面だよね。えっと、椿は私の友達で、名前は──」
「長谷川椿。愛美とは中学校からの付き合いよ。よろしく、"杉浦くん"」
「え、うん。よろしく」
名前は自分で名乗るのが礼儀と言わんばかりに、途中まで紹介していた佐倉さんを遮り、簡潔に自己紹介をしてくれる長谷川さん。
背丈は佐倉さんと同じくらい。髪も、これまた佐倉さんと同じ濃いめの茶色。それをポニーテールにしてあるが、俺を見つめてくるジト目と雰囲気からは、かわいいというよりはクールな印象を受ける。
なるほど、佐倉さんの中学校からの友達なのか。
だが、一つだけ少し気になることが…。
「あの、どうして俺の名前…?」
「ん? ああ、さっき愛美がそう呼んでたから。それに、杉浦くんの話は愛美から"毎日"のように聞くし」
「「え?」」
長谷川さんが何気無く発したその言葉に、俺と佐倉さんは時間が止められたかのように、固まった。
ご近所の書店さん! いつも立ち読みばっかしててごめんなさい!←作者がソース。
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