第16話 休日の過ごし方
こんにちは。体硬い系小説家、風井明日香です。
とある理由で、柔軟をやる機会がありました。はい、私めちゃくちゃ硬かったです。泣きそう。
ポロピポロピポロピポロピン♪
自分の携帯からそんな陽気なメロディーが流れてきたのは、晩飯と風呂を済ませ自分の部屋でゴロゴロしていたときだった。
ベッドに寝転がったまま手探りで携帯を掴み、顔の前に持ってくる。
画面を見ると、『真人』の文字と真人の好きなアニメキャラのアイコンが表示されていた。
真人から電話? なんだろう。
通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
「もしもーし」
『もしもし浩介、今電話いいか?』
「なんでそれを電話かけてから言うのかな?」
『いや、悪い悪い。ちょっと用があってよ。文字打つのめんどかったから電話した』
相変わらずな真人の調子に、一周回って少し安心感を覚える。
「ん。で、なにか用? お金なら貸さないよ」
『いらねえよ! お前は俺をなんだと思ってんだ!』
「……悪友?」
『お前の親友やめるぞ!』
「嘘嘘、半分は冗談だって」
『半分はマジなんだな? おい』
こんなバカみたいな会話もいつものこと。この時間は昔から結構好きだ。
家族以外で、これほどなんの気負いもせず話せる相手は、真人くらいなものだろう。
「ごめんごめん。それで、なんの用?」
『はぁ、まあいい……。明日の土曜日なんだが、どこか遊びに行かないか?』
明日の土曜日か。特に用事もないし、断る理由なんてどこにもないのだが……。
「遊びに行くことには賛成だけど、いきなりだね。理由でもあるの?」
『ああ、いやさ。俺たち受験後に遊んだきり、入学の準備やらなんやらで遊んでなかっただろ? だから久しぶりにぱーっと遊びてえなって』
「そゆこと。それなら断る理由なんて何もないよ」
『よしっ、じゃあ決まりだな』
たしかに、最近真人と遊ぶ機会がなかった気がする。入学前は色々バタバタしてたし、入学後もなかなか時間が取れなかった。
もうだいぶ高校にも慣れてきたし、久しぶりに真人と思いっきりはしゃいでも、バチは当たらないだろう。
「じゃあ、どこに遊びに行くの?」
『んー、まあマレラあたりでいいんじゃね?』
マレラとは、ここから電車で駅を二つほど行ったところにある、大型ショッピングモールだ。
この周辺では一番大きなショッピングモールということもあり、休みの日ともなると大勢の人で溢れかえる。
「了解。時間はどうしよう?」
『んー、午前中からでも大丈夫なら十時くらいからでもいいか?』
「大丈夫だよ。じゃあ明日の十時、駅集合かな?」
『了解した』
「じゃあ、また明日──」
『まてまて、まだ話は終わっちゃいないぞ』
「え?」
明日の予定も立てたし、もう何も話すことはないだろうと携帯を耳から離そうしとしたのを、真人からの制止の声で止める。
「え、何? まだなんか決めることあった?」
『いや、明日の予定はもう大丈夫だ。他の話だよ、他の』
「他の話?」
なんだろう他の話って。というか、こんなに勿体ぶって言うとなると、なんだか嫌な予感がする。
なぜかは分からないが、長年の付き合いで俺の第六感がぴくぴく反応している。
真人は、うざったらしく『ふっ』と笑ったあと、
『決まってんだろ、佐倉さんのことだよ。最近どうなんだよ』
うん、大体予想してました。ふっふっふ、現代の卑弥呼になる日も遠くないかもしれないな。
俺は一つため息をつき、
「どうって言われてもね。普通としか言いようがないかなぁ」
『噂によると毎日佐倉さんと二人きりで図書館の倉庫にいるって聞いたぞ。おいおい、どういうことだよこの浦山太郎が』
「なんだよ浦山太郎って。 それに、二人きりって言っても、やってる事は仕事だよ?」
実際は、佐倉さんと二人きりってことでめちゃくちゃ緊張したし、テンション上がりました。はい。
『は? じゃあ佐倉さんから「二人きりだし誰も見てないよ?」ってキスや抱擁を迫られたりなんてことは……?』
「あるわけないでしょ!」
『なんだぁ、つまんねえな……』
こいつの頭の中で、俺と佐倉さんはどう捉えられてるんだ。出会って一週間ほどで、そこまで仲良くなるわけがないだろう。
「他の話ってそれだけ? それだけならもう切るよ?」
『ああ、悪いな、変なこと聞いて』
「ほんとに変なことだよ……。悪いと思うならやめてよね」
『悪い悪い。明日ジュースでも奢るよ』
「しょうがないな。オランダーナで勘弁してあげよう」
『了解。じゃあ明日な!』
「うん、おやすみ~」
テロリン。
そんな気の抜けた音とともに通話が終了する。携帯を耳から離し、ベッドの上に置く
そして、明日の準備でもしようかとベッドから立ち上がろうとしたとき、部屋の扉からコンコンと控えめなノックの音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん?」
「どうした? すみれ。お兄ちゃんと添い寝したくなった?」
「そんなわけないでしょ!」
バンッ!と扉が開き、怒り五割、照れ五割くらいの顔したすみれが姿を表す。
「冗談冗談。俺に何か用?」
すみれは一つため息をつくと、
「いや、部屋でお兄ちゃんが一人で喋ってたから、ついに頭がおかしくなったのかなって……」
「電話だよ! 電話! そのくらい察してよ!」
なぜ、まず最初に電話という選択肢が出てこなかったんだ、この妹は。
すみれは「なんだ、電話かー」と、すっとぼけた顔をしている。こやつ、もしやわざとだな? 添い寝のくだりの仕返しだろうか。
「じゃあ、おやすみ。お兄ちゃん」
「あ、うん。おやすみ」
俺をからかって満足したのか、すみれはそそくさと部屋から出ていった。何しに来たんだあいつ……。
まあでも、兄妹で仲が良くて、こんなふうに気兼ねなく話せるのはいいことだろう。
友達の中で一番話しやすいのが真人だとすると、家族の中で一番話しやすいのは、すみれだろう。
俺はベッドに横になり、そんなことを考えながら眠りについた。
妹と添い寝………ぐふふ。
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