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第14話 佐倉さんのほうから

 こんにちは、キツネ系小説家、風井明日香です。

 私、某マ〇ちゃんの赤いキツネが好きです。緑のたぬきも嫌いではありませんが、やっぱり赤いキツネが好きです。

 うん、これまでで一番どうでもいい自己紹介でしたね。


 放課後。

 六限が終わると同時に教室がクラスメイトによって、喧騒(けんそう)に包まれる。

 そそくさと鞄片付けを済ませ部活に急ぐ者、だらだらと友人たちとの会話にいそしむ者、真っ直ぐに帰宅する者。

 その慌ただしい教室の中で、俺はできるだけ時間を掛けつつ、鞄を片付けていた。


 ちなみにSHRが始まるまで振り続けていた真人の炭酸ジュースは、香苗先生が教室に入ってきたタイミングで真人に返却した。

 SHR後、廊下の水道から、盛大な「プシュッ!」という音と真人の悲鳴が聞こえてきたのは、言うまでもない。


 そして、なぜ鞄片付けに時間を掛けてるかというと、佐倉さんに話しかけるタイミングを伺っているからである。実にチキン。

 横目でちらっと佐倉さんの様子を伺う。

 佐倉さんはいまだに鞄片付けの途中だった。心無しか、俺と同じように鞄片付けに時間を掛けてるように見える。……まさかな? 気のせいだろう。


 視線を自分の鞄に戻す。昨日はたまたま佐倉さんと目が合ったので、その流れで話し掛けることができた。しかし、そんな偶然が簡単に起きる訳もなく。

 そうして、佐倉さんに話し掛けられずに、時間だけが過ぎていくという結果になってしまった。


 数学の教科書を手にしながら、佐倉さんへの話し掛け方について考える。

 朝の一件があったせいで、今日一日ずっと気まずい雰囲気のままだった。そのせいで、なんとなく佐倉さんに話し掛けづらくなってしまった。


 どうしようか……。さすがに、いきなり「じゃあ行こうか!」なんて話し掛ける勇気は持ち合わせてないし、何かそれっぽい口実も持ち合わせてない。

 しかし、このまま佐倉さんが話し掛けてくるのを待つというのも──


「す、杉浦くん!」


「ふぁっ!?」


 考え込んでいたところに、突然声が掛けられる。とっさに振り返ると、少し頬を染めた佐倉さんが立っていた。

 というか、最近佐倉さんにいきなり声掛けられること多くないですかね? 今日だけで三回目くらいな気がするんですが。


「ど、どうしたの? 佐倉さん」


「あ、その……お、驚かせてごめんね?」


「いや、大丈夫。俺もちょっと考え事してたし」


「そ、そっか……」


 ……え? 会話終了? いや、これはチャンス。いざ尋常に話し掛け──


「杉浦くん!」


「はい!」


 またこれか! ほんと大好きだな! このパターン!

 佐倉さんは一つ深呼吸をしたあと、


「と、図書館。一緒に、行かない……?」


 ズキューン……(三回目)

 くそぅ、かわいい……じゃなくて。さ、先越されてしまった。まあ、思わぬ収穫もあったし、良しとしよう。

 結論、佐倉さんはかわいい。


 少しどぎまぎしながら言葉を返す。


「う、うん。じゃあ行こっか」


 佐倉さんは、俺の言葉を受けると、小さく頷いた。

 さっきの三倍の早さで鞄片付けを終わらせ、佐倉さんと一緒に図書館へ向かう。


 会話はあまりできなかったが、何よりも佐倉さんから一緒に行こうと誘ってもらえたことが嬉しかった。

 まあ、ただ単に社交辞令というか、仕事上での誘いであることは明確なのだが、なんとも言えない嬉しさがある。


「……?」


 廊下を歩いていると、不意に後ろから視線を感じた。振り向いて後ろを確認してみるが、特にこちらに視線を向けている人はいなかった。

 気のせいかな……?


「杉浦くん? どうかした?」


 佐倉さんが、急に立ち止まった俺を心配そうに見つめてくる。


「あ、いや、なんでもないよ」


 そう言って再び歩き始める。佐倉さんは少し怪訝そうな顔で俺を見るも、俺が目を合わせると慌てて視線を戻した。

 佐倉さんを見るついでにもう一度ちらっと後ろを確認するが、やはり誰もこちらを見ていなかった。

 やっぱり気のせいだったかな?


 * * *


 図書館に入りカウンターに目を向けると、春咲先輩が先に来ていたらしく、こちらに手を振っている。

 しかし、あきらかに口元はにやけていて、俺らをからかう気満々なのが見え見えである。


「やっほ~、めぐちゃん浩ちゃん」


 カウンターに近づくと、春咲先輩が相変わらずな間延びした声で話しかけてきた。


「今日も二人でご出勤ですかぁ、むふふ」


 これまた相変わらずな茶化しに、思わずため息をつく。佐倉さんも俺も、少し茶化しに対する耐性が付いてきたかもしれない。佐倉さんはまだちょっと頬を染めてる気がするけど。


「む。なんだか二人とも茶化しが効かなくなってるような」


「まあ、茶化してくるのは春咲先輩だけじゃないってことです」


 俺がそう返すと、春咲先輩は「なんだーつまんなーい」と、ふてくされる。うん、とりあえず俺らで楽しみを作るのをやめてほしいですね。

 とりあえず仕事の話に戻そうと、なんとなく答えが読めてる質問をする。


「春咲先輩、今日の仕事割りの話……」


「あ、私カウンターで」


 いつもの眠そうな口調はどこへやら。俺が最後まで言い切る前に、すぱっと自分の仕事を確保する春咲先輩。


「てことで今日も二人で倉庫よろしくね~」


 昨日と全く同じ展開。佐倉さんのほうを見ると、これまた昨日と同じように目があった。

 それが可笑しくて、佐倉さんと二人で笑ってしまった。


「行こっか」


「うんっ」


 さっきまでの微妙な空気は、春咲先輩のおかげか、いつも通りに戻っていた。

 二人して図書館を出る。


 ……なんとなく予想はできたので、もうカウンターを確認するのはやめた。

 背後からの謎の視線………。あ、ホラーじゃないです。

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