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第11話 経緯と理由

 こんにちは、プール系小説家、風井明日香です。

 意外に泳げない人って多いんですね。私? 私は完璧に泳げますよ? 平泳ぎだけですけど。


 それではどうぞ。

 『ゲーム』という俺と佐倉さんの新しい共通点が見つかってから数十分。

 俺と佐倉さんは、本の仕分けの仕事もそこそこにゲームの話題で盛り上がっていた。


「杉浦くんは『モンフン』だと何の武器使ってるの?」


 『モンフン』とは『モンスターフンター』の略称だ。今絶大な人気を誇るゲームで、俗にハンティングゲームというものに分類される。


「俺は昔からランス一筋かなー」


「へー! ランス使ってるんだ! 私ランス苦手なんだよねー……」


「あはは、俺の友達も皆ランス苦手って言うんだよね。俺はなんとなく自分の性に合ってたからさ」


「そういうもんかぁ」


 『モンフン』には何種類かの武器がある。人それぞれ使う武器は異なり、それによりプレイスタイルに個性が出るのがこのゲームの面白さと言えるだろう。


「そう言う佐倉さんは、何の武器使ってるの?」


「私は弓だよ。私あんまりゲームは得意なほうじゃないからさ、ちょっと遠くから攻撃できる武器のほうがいいかなって」


「いいね、弓。俺も遠距離武器だと弓が一番好きかな」


「そうなんだ! やっぱいいよね、弓! なんかスタイリッシュ?って感じ」


「そうそう、かっこいいよね!」


 『モンフン』の話題はなかなか尽きず、だいぶ長い間話していた。

 少し話題が途切れたとき、なんとなく気になっていたことを尋ねた。


「話は変わるんだけどさ、佐倉さんってどうして図書委員になったの?」


「え?」


 佐倉さんが俺の突拍子もない質問に、困惑した顔をする。


「あ、いやさ、まだ入学してから一週間ぐらいでしょ? それなのにもう図書委員の仕事をしてるし、もしかしたら何か理由があるのかなって思って」


「なるほどっ」


 佐倉さんが納得したように手を叩く。そして少し「んー」と考えてから「きっかけは大したことじゃないんだけどね?」と前置きをしたあと、話し始める。


「入学式の次の日にね、初めて図書館に行ってみたんだ。そうしたら、なんかカウンターのところで先輩の人たちが集まって、ただならぬ雰囲気で話しててね。声をかけてみたら、人手が足りないって話だったの。そしたら、手伝ってくれないかって話を持ちかけられてね。それでこの前、正式に図書委員になって、今に至るって感じかな」


 なるほど。おそらく、そうして一人で仕事を回していた時にあの廃棄予定の本の件が発覚し、一人では手に負えなくなり俺に話が回ってきたんだろう。


 しかし、佐倉さんも最初はお手伝いとして委員会に参加していたのか。その数日の働き振りを見て、佐倉さんに委員会の話が来たとなれば、相当佐倉さんは信用されているんだろう。


「すごいね、佐倉さん。たった数日で推薦されるなんて」


 佐倉さんは少し照れつつ、


「あはは、そんなんでもないよ。本当に人手が足りなかったってこともあるし」


 そう言って手を振りながら謙遜してくる。

 しかし、俺は「いやいや」と佐倉さんを讃え続ける。

 そのうち、それに耐えきれなくなったのか佐倉さんが話の矛先を俺に向けてきた。


「じ、じゃあさ。杉浦くんはどうなの……?」


「どうなの?と言うと?」


「その、図書委員のお手伝いをするようになったきっかけ……」


 自分の力不足のせいで、俺にお手伝いをさせてしまっていると思って、負い目を感じているのだろうか。少し声に力がない。

 俺は元気付ける時のような、明るい声で応える。


「きっかけは香苗先生に、人手が足りてないから手伝ってくれないかって言われたことだよ」


「やっぱりそうだったんだ……」


 相変わらず、しょんぼりした状態の佐倉さん。


「でもね、きっかけはそれだったんだけど、手伝おうと思った理由はそれだけじゃないんだ」


「理由……?」


「うん。その話をされたときに香苗先生から一年生の人が一人でやってるって聞いたんだ。一人じゃ大変だし手伝おうと思ったのは当然なんだけどね?」


(と、当然なんだ……)


 佐倉さんがなにやらぼそぼそと呟いているが、自分で自分の話の腰を折るなんてこともしたくないので、気にせず続ける。


「一年生の人ってところが気になってさ。その時に、まだ入学して一週間なのにもう委員の仕事をしてるなんてすごいなって素直に思ったんだ」


「へ、へぇ。そうなんだ……」


 次は聞こえるレベルの声で佐倉さんが呟く。先程同様、少し照れている。

 佐倉さんはそのまま聞き返してくる。


「すごいなって思った、それが、その……理由?」


 俺はその質問に「いや」と首を横に振る。


「すごいなって思ったのと同時に、その人はどんな人なんだろうっていう興味が湧いてきてさ。恥ずかしながら、佐倉さんに会ってみたかったっていうのが、手伝おうと思った理由なんだ」


「そ、そっか……」


 佐倉さんが照れやら嬉しさやらがいろいろ混ざったような表情で、口をむにょむにょさせている。


 というか、俺今すごく恥ずかしいこと話さなかった? 何なの? 佐倉さんに会うために来たって。バカなの? ナンパなの?

 は、恥ずかしすぎる……。数秒前の自分を殴ってやりたい。


「わ、私に会うために……。へ~……」


 佐倉さんが小さな声でそう繰り返している。

 やめて! あらためて口に出さなくていいから! 羞恥で死んじゃう!


 俺が精神攻撃で瀕死になっていると、コンコンと控え目なノックが倉庫のドアから聞こえてくる。

 思わず佐倉さんと顔を見合わせる。するとドアの向こうから間延びした聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「めぐちゃーん? 浩ちゃーん?」


「はーい。なんでしょう?」


 俺が瀕死の中、佐倉さんが扉に向かって返答する。すると、ガチャっと扉が開き、相変わらず眠そうな春咲先輩が顔を出した。


「やっほー、春咲先輩だぞー」


 相変わらずのマイペースさに、もはや安心感を覚える。


「どうかしたんですか? 春咲先輩」


 佐倉さんがそう返すと、春咲先輩はいたって普通な態度で、


「ん? いや、調子はどうかなー?って。もう6時だし」


「「……え?」」


 思わず佐倉さんと目を見合わせる。

 6時……? ま、まさかそんなに早く時間が過ぎるわけが……。

 視線を落とし、左腕の腕時計を確認する。

 あれー。なんで針が縦向きの一直線になってるんだろー。おかしいなー。


 楽しい時間は早く感じるということが昨日と今日で完全に証明された。

 そして春咲先輩が続けざまに聞いてくる。


「ど~お? 作業は進んだ?」


「「あ……」」




 忘れてました。てへぺろ。

 君たち仕事しようか。え?嫌? よし爆ぜろ。

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