第10話 二人きりの倉庫
こんにちは、ネタ切れ系小説書き風井明日香です。
そうなんです。もう、ネタ切れなんです。……前書きが。本編のほうは、まだまだネタがたくさん……あります…………よ?
マイペースの化身が陣取る図書館を後にし、倉庫に入る。
昨日も佐倉さんと倉庫に入ったが、佐倉さんにはカウンターの仕事があったので、二人きりということにはならなかった。
しかし今日は、マイペースの化身がカウンターにいるため、残る仕事が倉庫整理になる。
結果として倉庫で佐倉さんと二人きりという状況になってしまったのである。
「そういえば、昨日の作業はどのくらい進んだの?」
佐倉さんが特に緊張した様子の声でもなく尋ねてくる。
しかし、ちらっと顔を伺ってみると、ほんのりと頬を染めていた。よ、よかった。俺だけ緊張していたわけではなさそうだ。
佐倉さんが場の空気を考え、緊張を表に出さないようにしてくれているので、俺も出来るだけ平然を装って応える。
「いや、昨日はあんまり進まなくてさ……。ごめん……」
佐倉さんのことを考えていて作業が進まなかったとは、口が裂けても言えない。
「いやいや! 全然問題ないよ! 杉浦くんにはお手伝いでやってもらってるんだし……」
「ありがとう佐倉さん。昨日進まなかった分、今日頑張るから!」
断固たる決意を持って、佐倉さんにそう告げる。
佐倉さんはそれを聞くと、嬉しそうに頷き。
「よし、頑張ろー!」
拳を上げながら、可愛く言ってきた。俺も、少し恥ずかしかったが、拳を上げ「おー……」と控えめに同調した。
結局昨日は佐倉さんのことが頭を埋め尽くしていたせいで、全く作業が進まなかった。おそらく全体の一割も進んでいないだろう。数冊しか入ってない段ボール箱がその証拠だ。
佐倉さんが昨日渡しておいた捨てる本のリストを取り出し、それを見ながら聞いてくる。
「えっと……このチェックが付けてあるのが既に仕分けした本ってことで大丈夫?」
「うん。分かりやすいかなって思ってさ」
「そっか、ありがと! 杉浦くんは気が利くね」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあります!」
佐倉さんが俺に指を突き付けながら言ってくる。なぜ敬語……。
「杉浦くんは本当に気が利く人だよ? さっきみたいに些細な所に手をかけてくれたり、今朝はSHRの前に黒板綺麗にしてたし、移動教室の時は皆の机の列を整えてから移動してたし」
佐倉さんが自慢話をするかのようにペラペラと俺の功績を話してくる。
うん、素直にそう言って貰えると凄く嬉しい。やってよかったなと思える。
しかし、お礼を言うよりも先に、俺の頭の中を埋め尽くしていたことが口を衝いて出た。
「佐倉さん、教室で俺のこと見てくれてたんだね」
「ふぇっ!?」
佐倉さんがとてつもない動揺を露にする。
耳までも真っ赤に染め、目はあちこちに泳ぎ、手もその動揺を物語るかのように挙動不審に動いている。
「ちっ違うの! い、いや、違うくもないけど……。えぇっと、その……。そ、そう! たまたま! たまたま今日は杉浦くんが目に入ったの!」
「そ、そっか…」
なんか凄い苦しい言い訳な気がしないでもないけど……。い、いや、佐倉さんがたまたまって言うんだ、偶然に違いない。そう、誰がなんと言おうと。
俺はそう自分に言い聞かせると、改めて佐倉さんにお礼を言う。
「ありがとう、佐倉さん。そう言ってもらえて凄くうれしい」
それを聞いた佐倉さんは未だに頬を染めながらも、うれしそうに、
「えへへ、どういたしまして」
その言葉を受け、無性に気恥ずかしくなってくる。
俺はその動揺を誤魔化すように、早口で訴える。
「と、とりあえず作業進めない?」
「りょうかいっ。じゃあ最初の本は~……」
可愛く返事をした佐倉さんが本のタイトルを読み上げる。その本を二人で探し、処分用の箱に入れる。そしてまた次のタイトルを読み上げる。この作業を繰り返す。
そして五回ほど繰り返したとき、ふと佐倉さんから話しかけられた。
「そういえば、杉浦くん『ゲーマーズ?』っていうラノベ、知ってる?」
聞き馴染みのあるタイトルを佐倉さんが口にする。『ゲーマーズ?』は『あのすば』と同じく今大人気の作品で、最近ではアニメも始まった。
「うん、知ってるよ。ていうか持ってる」
「そうなんだ! 私も私も!」
新たな共通点が見つかり、少しテンションが上がってくる。佐倉さんも少し興奮気味に見える。
「あのすれ違いっぷりとこじれ具合は、読んでて飽きないよね」
「そうそう! 私、結構ゲームもやるからさ、共感出来るところが意外にあるんだよね!」
「佐倉さん、ゲームとかもするの?」
俺は少し驚いた様子で質問する。
それに対し佐倉さんは、頬を掻きつつ、
「ま、まあね? 杉浦くんはあんまりゲームとか興味ないタイプ……?」
佐倉さんが少し寂しそうな表情をする。もしかしたら、俺の守備範囲外の話題を出してしまったかもと不安になっているのかもしれない。
俺は佐倉さんを安心させるように少しばかりオーバーなリアクションで応える。
「いや、俺もゲーム大好きだよ! やっぱりゲームをやったことがある人が『ゲーマーズ?』を読むと、共感出来るところが結構あるよね!」
俺がそう話すと、佐倉さんは、ぱあぁっと表情を変え、
「うんっ!」
心底嬉しそうな、満面の笑みでそう返してくれた。
守りたい! この笑顔!