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第9話 マイペースの化身

 こんにちは、ボウリング系小説書き風井明日香です。

 先日、友人たちと地質調査……間違えた、ボウリングに行ってきました。ちなみにスコアが一番悪かったのは私でした。ちくしょう。

 放課後。

 今日も図書委員の手伝いがあると真人に告げると、真人は「くっ、これで勝ったと思うなよ!」と謎の捨て台詞を吐きながら帰っていった。本当にあいつは何を考えて生きているんだろうか。


 鞄の片付けもそこそこに、佐倉さんの席に目を向ける。

 すると、チラチラとこちらの様子を伺っていた佐倉さんとぱっちり目があった。

 二人して固まってしまうが、佐倉さんが困ったように微笑したのをきっかけに、場の空気が元に戻る。やはり佐倉さんの笑顔は偉大である。

 俺は鞄を机の上に置き、佐倉さんの近くに行く。そして一つ深呼吸してから話しかける。


「じゃあ行こっか」


「うんっ」


 朝と同じように二人並んで廊下を歩く。

 昨日は何も話題が思い付かなかったのに、今日は何も考えなくても勝手に口から言葉が出ていた。


「そういえば、その図書委員の先輩ってどんな人なの?」


「ん? えっとね~…」


 佐倉さんは「ん~」と、指を口に当てながら考え始める。本当に一挙一動すべてが可愛いんですけど。なにこの人。

 しばらく考えたあと、佐倉さんが話し始める。


「名前は春咲(はるさき)さんって言って、今三年生だったかな」


「へ~、性格とかはどんな感じ?」


「結構マイペースでおっとりした感じだけど、すごく優しい人だよ。私が図書委員になった時にも色々教えてくれたし、最近委員の仕事に行けてないこともすごく申し訳なさそうにしてたし……」


「そうなんだ」


 仕事に行けなくて申し訳なく思っている人も、少なからずいるようだ。それが分かっただけでも、おおいに安心できる。


 そのまま少し世間話をしつつ、廊下を歩く。そして、図書館の扉の前に到着する。

 佐倉さんが扉を開き、静かに入っていく。俺もそれに続き、中に入る。


 今日の図書館の利用者は、昨日と同じくらいのようだ。カウンターに目を向けると、一人の女性がこちらに向けて小さく手を振っていた。


 佐倉さんがそれに応え、カウンターに向かい、俺も続く。


「お疲れ様です。春咲先輩」


「おつかれ~、めぐちゃん」


 春咲先輩は佐倉さんが話していた通り、おっとりした感じの人だった。目も半開きで、すごく眠そうにしている。

 しかし、佐倉さんをめぐちゃん呼びですか。なんというか……、うらやましい。

 春咲先輩は佐倉さんと挨拶を交わしたあと、俺に視線を向ける。


「君はめぐちゃんの~…………彼氏?」


「「ち、違いますっ!」」


 佐倉さんと同時にツっこむ。


「お、お手伝いをしてもらってる杉浦くんです」


「は、はじめまして……」


「ほ~、君が例のお手伝いさんかぁ」


 春咲先輩が、俺のことを事前に知っていたような口振りで言ってくる。佐倉さんが不思議そうに尋ねる。


「あれ、春咲先輩、お手伝いさんがいるってこと知ってたんですか?」


「ん? ああ、さっきかなっち先生から聞いた気がする~」


「かなっち先生……?」


 佐倉さんが再び首を傾げる。かなっち先生ってもしかして……。


「かなっち先生はかなっち先生だよ。ほら、めぐちゃんの担任の」


「か、香苗先生のことですか……」


「そそ~」


 やはり、かなっち先生は香苗先生のことだったらしい。なんか可愛いな、かなっち先生。今度そう呼んでみよう。


「ああ、自己紹介がまだだったね。私は春咲(はるさき)菜乃花(なのか)。よろしくね~」


 春咲先輩が相変わらず眠そうにしながら、自己紹介をしてくれる。


「杉浦浩介です。よろしくお願いします」


 俺もそれに応え、軽く頭を下げる。


「いや~、さすがめぐちゃんの彼氏だ。礼儀正しいね~」


「「だから違いますっ!」」


「お~、息ぴったり~」


 完全に茶化されている。結構ガチなほうで恥ずかしいのでやめてほしい。マイハートが持ちません。

 佐倉さんも俺と同じく、恥ずかしそうに俯いている。

 対して春咲先輩は一通り俺と佐倉さんをからかい、満足そうな顔をしている。


「そ、それで、今日の仕事割の話なんですが…」


 佐倉さんがなんとか話を戻そうと、仕事の話を持ち出す。


「あ~、そっか今日は杉ちゃんがいるから分担を考えないといけないのか~」


「そ、その呼び方はやめてもらえませんか…」


 杉ちゃんはやばい。何がやばいって、ワイルドな雰囲気が漂ってるからやばい。


「う~ん、杉ちゃんは駄目かぁ。じゃあ浦ちゃん?」


「そ、それもちょっと……」


 浦ちゃんもやばい。何がやばいって、海の声が聞こえてきそうだからやばい。


「わがままだなぁ。しょうがない、じゃあスケさんで」


「浩ちゃんって選択肢は!?」


 杉、浦ときたから、てっきり浩がくると思っていたのに、まさかの介だった。そして狙いすましたような、さん付けである。

 スケさんもやばい。何がやばいって、紋所が目に入りそうだからやばい。いや、紋所を出すのはカクさんだっただろうか。どちらにしろマジやばい。


「浩ちゃんかぁ、まあいっか」


 納得していただけたようで何よりである。

 浩ちゃんで妥協した春咲先輩は、ようやく仕事の話に戻る。


「それで~……なんの話だっけ?」


 とした矢先からこれである。この先輩、大丈夫だろうか……。

 佐倉さんがもう一度伝える。


「き、今日の仕事割についてです……」


「あ~、そだったね。じゃあ私カウンターで~」


「「え…?」」


 佐倉さんと二人で硬直する。春咲先輩がカウンターを担当するということは、カウンターは一人でも十分だから、必然的に俺と佐倉さんが倉庫を担当するということになる。

 それすなわち………。


「(倉庫で佐倉さんと二人きり…!?)」


 まずくない? い、いや、やましいことは何もないけど。やっぱり、まずくない?


「二人は仲良しみたいだし、私はカウンターでのんびりしたい。ふ……利害は一致したね……」


「「え、あの…」」


「てことでよろしく~」


 勝手に仕事割を決めた春咲先輩は、そそくさとカウンターのイスに戻り、さっそく居眠りを開始する。駄目だあの人、マイペースという言葉を具現化したような存在だ。


 その様子を見て、どうしたものかと佐倉さんを見ると、佐倉さんも同じような困り顔でこっちを見ていた。

 目が合い、思わず二人して苦笑する。


「じゃあ、倉庫行こっか」


「うんっ」


 佐倉さんと図書館を出る。扉を閉める際、ちらっとカウンターを伺うと、春咲先輩が「ふふふ、計画どーり……」と満足そうにニヨニヨしていた。


 俺は半ば呆れつつ図書館を後にした。

 杉浦くんが自分の名前で遊ばれてますね。可哀想に。誰が名前をつけたのやら……。あ、私か。

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