第8話 魔力石の行方 (4)
突然目の前に現れた男にヘインは驚きを隠せない。
そもそも、男が居た場所からヘインまでの距離は一瞬で詰められるものではなかったのだ。なぜなら、その間には大量の魔物がいたはず。しかし、その男の背後には、魔物の亡骸が道を作るように切り倒されており、道が出来ていた。また、囲まれていた場所は、跳びかかった魔物たちはすべて、切られていた。
「さぁ!早く!」
「――あぁ!!」
驚きで止まっていた時間が動く。
ヘインは男とともに、魔物の集団の中心へ急ぐ。しかし、魔物達は、空いた空間を埋めようと迫り寄ってくる。切り込みながらも中心へたどり着くことが出来た。
「大丈夫か!?移動するぞ!!」
3人に近寄り倒れている男を背負う。男は瀕死に近く、一刻も急ぐ必要があった。
「少し、きついかもしれないが2人歩けるか?」
「はい、僕はまだ、いけます。ただ、この方が……」
リュックを背負う少年はそう言うと、もう1人の方の足を見る。
とてもじゃなく、歩ける状態じゃないことを悟る。
「すまないが、ここを往復しているほど安全が確保できない。肩を貸せるか?」
「ま、任せてください!!」
リュックを背負う少年に、もう一人の男に肩を貸させる。
「おっし、行くぞ。魔物が目の前から来ても止まるなよ?」
「りょ、了解です」
「んじゃ、剣の人!!」
「シューガと呼んでくれ」
「わかった、シューガさん。行くぞ!」
「いや、置いていってくれ。ここの魔物達を引き付ける」
「おい、この量は無理だろ!」
集団の周りには、魔物が大量におり、ヘインが先ほど戦った同種の魔物が溢れかえっていた。とてもじゃないが、1人で処理できるものではなかった。
「さっきも、言った通りだ。この魔物は、なんとかする……と。信じてくれ。それよりも、先ほど開いた道が完全に埋められる前に早く行くんだ!!」
「っ!!くそっ!!」
ヘインは、背負っている男を落とさないようその場に一度しゃがみ、手を前にし両手を重ね霧を発生させる。魔物がまだ、完全に埋まっていない道に電撃を放つ。
電撃に当たる魔物たちは電撃の威力に耐えられず、脇へと弾かれる。その電撃は、道を作ることに成功する。道をもう一度作ることができたヘインは、すぐさま立ち上がり、リュックサックを背負う少年に目で合図をし、急いでその道を駆ける。
「戻ってくる必ず生きてろよ!」
「ははは、それは心強い。ならば、誓おう。君が戻ってくるまで一匹たりともそちらに追っては行かせない……と」
ヘイン達が無事、突破するのを見届けると、シューガはもう一度、剣を地面に刺すのであった。
それと同時に、ヘインは背後から殺気を感じ取る。それは、シューガが、防衛戦から魔物の殺戮に切り替えたことを意味していた。
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詠唱と共に剣を引き抜く。
同時に、周りの魔物たちを蹴散らしていく。
「一体どれだけいるんだ」
そう、呟くシューガの周りにはいまだに大量の魔物で溢れかえっていた。
この技を使うのも、ヘイン達が現れてから3回も使っていた。
シューガの足元には魔物の亡骸がどんどん増えていき、切れば切るほど、足場が悪くなり不利になっていた。
飛びかかる魔物に剣を突き刺し、それを振るい魔物から剣を抜き取る。その抜き取る速さを変えず、背後から飛びかかる魔物を真っ二つに切り裂く。
場所を移動しようにも、次から次へ襲い掛かってくる敵をなぎ倒すことだけで、3日間防衛戦をし続けていたシューガには精一杯であった。
「それに、彼が戻ってくると言ったんだ。それまで、この場で耐えていようじゃないか」
走りこんでくる魔物を足で蹴り飛ばし後方にいた魔物に当てる。そこへ走りこみ、2匹まとめて突き刺す。
シューガはいつまで続くのかわからなかった防衛戦よりも、ヘインが現れ、戻ってくると言った言葉により、少なからずもう少し耐えればこの状況から抜け出せると信じていた。
それが、シューガをまだ諦めずにひたすら疲れを抑え、倒し続ける理由なのだ。
「あと3回……これを使ったらあと2回か……」
地面に剣を刺す。
「――」
短い詠唱を終え、輝く剣を抜き取る。
――
周りの魔物が一気に倒れる。しかし、すぐさま魔物はその空いた隙間を埋めるように前進し詰めていく。
「いよいよ、やばいな」
技を使うたびに、疲労が増幅していった。それは、シューガの判断を鈍らせた。背後、魔物に飛びかかる姿に反応が遅くれた。
「くっ――」
その瞬間、目の前を短剣が通過する。それは、飛びかかる魔物を突き刺し、魔物は短剣によってシューガの側面へ飛んで行く。
「待たせたな!!」
その、短剣が飛んできた場所には、先ほどの少年がいた。
「はやくこっちへ!!」
「あぁ!今行く」
魔物に突き刺さった短剣を抜き、剣を地面に突き刺し、短い詠唱を始める。
輝く剣を取り、一瞬で少年の前に移動するのであった。
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「さあ、急ごう!」
ヘインの目の前に現れたシューガはそう言う。
一瞬で移動する男の声により、また、止まっていた時間が動き出す。
「シューガさんはどうやって」
「それは、また今度。早く」
シューガは、駆け出し始めていた。その後ろを追うようにヘインはついて行った。
「少し、問いたいんだが、猪のような魔物を見なかったか?」
「いや、そんな魔物は一体も見てない。それより、この辺ではあんなに魔物がでるものなのか?」
「この辺に詳しい訳ではないが、各地に行ったことがあるが今回のような事は生きていて初めてだ……ん?」
前を走っていたシューガが走りながら剣を引き抜く。その、先、今シューガが言っていた猪のような魔物が待ち伏せをしていたかのようにこちらを睨みつけ道を塞いでいた。
体は、とても大きく。角は空に向け反り立っている。なにより、特徴的なのが、体を貫くように水晶が埋まっていることである。
「さっきは居なかったのに!?」
「走り続けろ!!一瞬で片付けるぞ」
「おい!あんな大きい魔物どうやって!」
「小型魔物を大量に処理するより、大きな魔物を相手にするほうが得意でね。任してくれ」
そういうと、シューガは剣を前方に投げつける。その剣は、猪へあたるわけではなく、その手前の地面に突き刺さる。
「――」
シューガが短い詠唱を始める。それが終わるとき、シューガはちょうど、剣の手前にたどり着く。
「さぁ、行くぞ!!」
シューガは輝く剣を走りながら抜き取る。
次の瞬間、シューガが目の前から猪の向こう側へ一瞬で移動していた。
――バシャリ
その音と共に、猪の魔物は血を吹き出し、その場で息絶えた。
「何をしている!急ぐぞ!!」
シューガは振り返り、立ち止まっているヘインに声をかける
「あぁ……」
ヘインの止まった時が動き出す。
今回は、シューガの技に驚いたわけではなかった。
短い詠唱、その中に含まれていた言葉に聞き覚えがあったからだ。
――なんで、詠唱に剣技って言葉が含まれてるんだよ