第7話 魔力石の行方 (3)
「おい、大丈夫か?」
ヘインは布を持ち、イノンの元へたどり着く。
ヘインは、てっきり寝ぼけたイノンが池に落ちてしまったと思っていた。
しかし、目の前に広がる光景は違った。池には、青髪の青年が浸かっていた。
その池の前にヘインは尻もちをついていた。
「だ、大丈夫ですか!?」
イノンがいち早く腰をあげ、青年に駆け寄る。その後ろを追うように急いでヘインも池に入る。
すると、青年は、目を開けるなり、ヘインに縋り寄る。
「た、助けてくれ!!」
「うわっ!って、お前その足」
いきなり、縋り寄られ驚くヘインだが、池が赤く滲んでいる事がわかる。その発生源それは、青髪の青年の足元からだった。
「イノン、応急処置できるか?」
「は、はい」
イノンは、すぐさま茂みを掻き分け鞄をとりに行く。ヘインは、青年を池から引き上げる。
「その足どうしたんだ!?」
「森の中に、沢山魔物が出てきて」
「なぜ、森の外側を行かず、森を抜けようとしたんだ!!」
ヘインがなぜ、この質問をしたかは明確であった。魔物は人の居ない場所で生活をする。そのため、人の手が加えられていない森が魔物との遭遇率が高く、危険とされるからである。
「多分それは、複数人で移動していたんですね?」
その、答えを示すように、鞄を取って戻ってきたイノンが答える。
「この森を迂回する場合、1日使ってしまいます。そのため、この辺では、目的地が同じ人同士が集まり、人数という守りを作り、森を一気に抜ける方法があると聞きました」
魔物も人数の守りがあることで、魔物の目には、1人殺せても他の奴に殺されてしまうと考えるのだろう。それはあくまで、小型の魔物や、少数単位で群れをなす魔物。そのため、大型の魔物には通用しないし、万一襲われても対抗手段がない、その一時的な効果である集団移動であるため速攻で駆け抜けるというものであった。
「って、ことは他の奴らが森の中にいるのか?」
「この森の中心部に近い場所で、大きい魔物に襲われて、それで、5人のうち3人が怪我をしちまって、でもそれだけじゃねえんだ。そのあとに、意味がわからないほど魔物が現れやがって、2人はそれそいつらから俺たちを守るために、ひたすら戦ってた。もう3日間もだ。だけど、魔物が減らないんだ。それで、助けを呼ぶために一番怪我が軽い俺が、あそこを抜けだして……でも、ぬけ出すために道を切り開いてくれた奴が……俺を庇って……うっ……うっ」
「3日間……?ヘインさん。もしかして、魔力石を運んでいる人もその中にいるかもしれません」
店主が、言っていた。1日遅れているという言葉、もし、森の中で3日間を過ごしているのならば、可能性があり得る。
「ヘインさん。貴方なら解決できますか?いや、魔物を一掃しなくても、残っている人たちを脱出させることができますか!!」
「助けてくれ兄ちゃん!!」
イノンが鞄を両手で抱えながら
足を怪我した青年がヘインの足にすがりながら
ヘインに助けを求める。
「行かないわけがないだろ!!全滅だけは避けさせる!!!!」
「ヘインさん!!」
「すぐ、解決して戻る」
イノンに青年を預け、ヘインは森へ走る。
森に長く住んでいたヘインには、森の異常にすぐ気がつくことができた。
「なんでこんなに空気が淀んでいるだ」
そのせいなのか、ヘインは体が少し重く感じていた。その、ヘインの先、魔物がこちらに向かって走ってきていることがわかった。しかし、量が以上であった。20、いや30を超える狼のような魔物がいた。
「なんだ、あの量」
ヘインがいた森では、小型動物でも、群れの魔物の数は多くて10匹ほどであった。
――森が違うと、こうと違うものなのか?
そんな、疑問が頭をよぎるが、ヘインは、その考えを捨てる。今は、魔物を一掃する必要がないからだ。最低限、道を確保するために、両手に霧を発生させる。
魔物と衝突する寸前、飛びかかってくる最初の一匹に電撃を放ち弾き飛ばす。同じく飛びついてくる2匹目、3匹目の下を掻い潜り、4匹目に再び電撃を放つ。その後ろ飛びかかる動作をしようとしている5匹目の顔を踏み、空中へ。空中から、数匹を狙い電撃を放つ。霧の付近を狙った電撃でないため、霧を飛び出した電撃は、広範囲へ分散し、多くの魔物を感電させた。その後、飛び降り地点にいた12匹目の魔物に電撃を放つ。魔物は動かなくなる。その後、綺麗に着地し、目の前に飛んで現れたヘインに動揺している魔物達を置き去りにし、駆け抜ける。しかし、後方の魔物たちは、ヘインを行かせまいと、飛びかかる。そいつに容赦なく電撃を撃ちこむ。続いて飛びついてくる魔物達にも、電撃を撃ちこみ続ける。
ヘインが、ひたすら魔物達に電撃を打ち込み続け、魔物団体を抜けきる。その後、走り続けるとヘインの先、魔物たちが群がっている場所があった。
その、魔物達の先、1人剣を持ち魔物と対立している男がいた。その、人は、円を描くように中心を守っていた。円の中心には、3人おり、1人が血を大量に流していた。それを抑えるように、2人が血をおさえていた。
しかし、その周りの魔物の量は多く、脱出するのには、厳しい状況だった。
座り込んでいた人が1人、ヘインに気がつく。
「助けてくれ!!!!」
ヘインに聞こえるほど大きな声で叫ぶ声に、魔物たちの集中がそっちへ向く。
それは、ヘインに魔物たちは気付かないことにもなるが、余計に刺激してしまい。魔物たちが一斉に飛びかかる。しかし、声をだすのが早すぎた。ヘインとその集団との距離は魔物のせいですぐには辿りつけない。
そのため、一斉に飛びかかる魔物を処理できるのは
――あの男のみになってしまう。
剣を持った男は、剣を地面に突き刺す。
――おい、なぜ剣を刺す。
ヘインは焦る。男はこのまま、諦めてしまったのではないだろうか?
迂闊に、助けに行ってしまったから、助けを求めるのは必然であり、大声を出す気持ちがわかる。それは、冷静になれば、逆の立場ならわかることだったじゃないか
「――――」
男は、何かをつぶやいた。すると、輝き始める、地面の剣を抜く。
「この魔物は、なんとかする。あの人達を頼めるか?」
ヘインの目の前に、なぜか、魔物の中央にいたはずの男が現れたのだ。