第6話 魔力石の行方 (2)
「――その件私たちに任してください!!」
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「で、どうするよ」
「で、どうするよって言いますと?」
場所は移動し、また暑苦しい通りを歩いていた。その隣のイノンは、何を言ってるんですか?と馬鹿にするような表情を作り出していた。
ヘインは、俺が馬鹿なのかという言葉をぐっと押し込む。
「まぁ、その最後に目撃された民宿に行くのが普通ですよね」
ヘインは人差し指をくるくる回しながら空を仰いでいる。
「そうだな。それじゃあ、明日に備えて宿を探そうか」
「へ?何を言ってるんですか?」
「何をって、そのまんまの意味だけど」
「いやいや、なんで一泊する必要があるんですか?」
「もしかして、今すぐ行くとか言わないだろうな?」
「ええ、そのもしかして、ですよ」
「本気?」
「本気です」
あの森からこの町まで歩き疲れているヘインに向かって、疲れを感じさせない笑顔でイノンは、そう答えたのだ。
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「まぁ、こうなるよな」
ヘインが独り言を呟きながら焚き火に枝を投げ入れた。その火は、枝をおいしく食べるようにメラメラと包んでいった。
日が傾き、空の色が変わりつつあった。
少しでも急ぎたいところだが、夜は魔物は人間を目視できるが、人間には、夜の暗闇を見る能力がない。そのため、夜になる前に野宿の準備を始めていたのだ。本来であれば、どこかの町を経由するはずだったが辿り着く前に日が傾いてしまった。
そもそも、防壁の町を太陽がある時に着いたのであれば、出ても中途半端な所で夜をむかえることを少しは考えておくべきだった。と少し冷静になれば判断できたヘインの後方から水の音が聞こえる。
ヘインの後ろ、茂みの後ろには綺麗な池が広がっているらしい。らしいのだというのは、ヘインはイノンから聞いただけであり、その目撃者であるイノンが池に水浴びに行っているのだ。
ヘインも防壁の町で汗をかいているため水浴びをしたかったのだが、やはり、イノンは幼く見えるとはいえ、少女、時間をずらさなくてはいけないのだ。
「さて、どうせ食料も買ってないし、魔物を狩らないといけないんだよな」
ヘインは重い腰をあげる。焚き火を離れる前に、池があるという方向に声をかける。
魔物を狩ってくると伝えると気を付けてくださいという返事が帰ってきた。
「何かあったら大声出せよ、すぐ戻るから」
そう、最後に言って、ヘインは短剣のホルダーを腰に巻く。
「この辺の魔物、何出るんだろうか」
そう、つぶやき、適当に歩き始めた。
その数分後、さきほど居た場所から遠くない場所で魔物に出会うことができた。
ヘインの目の前にいるのは、角の生やした兎であった。今、ヘインは茂みに隠れるような形で息を潜めている。
兎の隙を狙って茂みから飛び出す準備をする。しかし、それは無意味となった。
ヘインが、足元の枝に気付かず踏んでしまったのだ。
もちろん、枝は音を立てて折れる。
兎はその音に即気が付くと、即座に逃げる。
「――やべ」
ヘインはその兎を急いで追いかけた。
兎は、木々を小柄な体を活かし、最低限の動きでジグザクに走る。その後ろをヘインは、追いかける。長年の森の村で過ごしてきたヘインにとっては、この程度は障害物競走にもならなかった。しかし、小さい兎の様に避けられるわけはなく、曲がる寸前に木の幹を蹴り角度をつけ、無理やりに追いつこうとしていた。
ヘインは手をのばす。もうすこし、もうすこしで追いつけそうな距離まで詰め寄る。
その手を振り切るため兎は勝負にでる。
目の前の木の横を直角に曲がった。
ヘインもその行動にいち早く反応し、木の幹に足をかける。
「おりゃぁぁぁぁぁあああああ!!」
ヘインは木の幹を力強く蹴る。必然的に、空を舞うヘインの視界には兎を捉え――
――捕まえた。
そのまま兎を捕まえたのはいいものの、威力を抑えられず、転がりそして、視界ははっきりとする。木々の先には、水が張っており、兎を抱えたまま飛び込む形になった。
「痛ってぇ、これ、水がなければ全身傷だらけになる所だったな」
ボソリとつぶやき、寝そべりながらであるが兎を抱えていることを確認する。うさぎは目を回しており、動かない。
しかし、そこに、違和感が飛び込んでくる。兎のその向こう側だ。人がいるのだ。それも、衣服は何も身につけておらず顔を赤くした少女が。
「~~~~~~~っ!!」
ヘインは、気付く。少女、イノンは怒っている、と
「ヘ、ヘ、ヘインさんの変態さん!!!!」
イノンは、近くにあった石ころを投げてきた。その、威力と命中率はもはや、ヘインの投擲をも超えていた。
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「痛え」
怒っていたイノンに何度も頭を下げ、謝った。それでも、許してくれそうになかったが、もう時間が遅いからと、水を浴びてこいとイノンに言われ、兎をイノンに渡し、池に入っていた。
その池の水面に写る自身の顔、その額が赤くなっている所があった。ヘインはその額の箇所をさすりながら、自身の行いを反省していた。
ヘインが、池から戻ると、いい匂いが漂っていた。ヘインが池にいる間。イノンは食事の準備をしていたのだ。
「おかえりなさい。もう少しでできますから待っていてください」
ヘインが、イノンに何か手伝うことはあるかと聞くと、イノンは大丈夫ですと言うのだ。
仕方なく、ヘインは地面に腰を下ろした。しばらくすると、料理が運ばれてくる。
「お待たせしました」
目の前に、兎の肉の丸焼きが運ばれてくる。それを丁寧に切り、小分けしてヘインに渡す。
ありがとうと礼をいい、受け取る。そこからする匂いはとても食欲をそそられる。
イノンは、各地を歩きまわっているらしく、出向いた町で、料理に使う調味料を少しづつ購入しているらしい。そのため、イノンの鞄には1つの調味料は微量だが、種類は多く入っているらしい。
「今日も美味しそうだ」
「えへへ、ありがとうございます」
イノンは少し照れている。先ほどの怒りの表情はすっかりと消えていた。
「では、いただきましょう」
「あぁ、いただきます」
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ヘインは、野宿の為、魔物の気配をいち早く察知できるよう、軽い仮眠状態で木に寄りかかって寝ていた。そのため、日が昇り始めても、体の疲れは取れることはなかった。
「やっと、朝か」
そう、呟き立ち上がる。ヘインは痛い体を軽く伸びをしてほぐす。そのすぐ側でイノンは寝ていた。
イノンはいつも、ちゃんと寝てくださいと言うのだが、ヘインが、慣れているから大丈夫だ。と言って見栄をはっていた。
顔を洗うために、その場を離れる。茂みをかき分け、池の前に行く。
昨日は、日も傾き始めており、はっきりとわからなかったが、池の底まで見通す事ができる綺麗な池であった。
ヘインがイノンの元へ戻ってきた時、イノンがちょうど目を覚ました。
「おはよう、イノン」
「おはようござ~~います」
そう、声を掛けると、目をこすりながらあくびをしている。
イノンは、その後トボトボと池の方へ歩いて行った。
「大丈夫か?池に落ちたりしないだろうな?」
「だいじょうぶですよ~~」
茂みをかき分けている背中からはそんな声が聞こえるが、その言葉を裏切るように、バシャーンという音が聞こえた。
「はぁ……服を乾かすまで、出発できそうにないな……」
ヘインは、イノンが寝るときに敷いていた布を拾い池まで向かった。