第3話 過去の記憶とヘインとエルシー (2)
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光の女性と共に、エルシーの家に戻ってきていた。
布で、濡れた体をふき、乾ききっていないが、気になる程度ではない。
床に座っていた。エルシーは奥の台所に行き、お湯を沸かし、お茶を入れた。
全員分を作り、お茶を配ると、エルシーは座り込む。
頃合いとみた、光の女性が口を開く。
「エルシー、君を私の元で預かりたい」
続けて、普通の手でお茶を一口飲む女性は話を続ける。
「先に、私の事から話そうか。私は、神。その名をティリィー」
「神?」
「そう、アタシは神。近い未来に起こる邪神に抵抗するために呼び起こされた神」
意味の分からない発言に、ヘインとエルシーはついていけない。
いきなり、この人は何を言っているんだという表情をエルシーは表していた。
「ほら、アタシは自己紹介したのに、君たちは名乗らないの?」
そんな、ヘイン達の表情を無視して、ティリィーはお茶をもう一口飲む。
「……ヘインだ」
「エルシー」
「そう、ふたりともいい名前ね。じゃあ、続きを話すね。君たち……この村を襲った悪魔。その狙いは、エルシー君さ」
「……っ!!」
エルシーは顔をこわばらせる。
「ヘイン君は聞いたはずだ。悪魔が、剣技の卵と言っていたのを」
「たしかに、それを言っていた。だが、俺にはエルシーを狙う意味がわからない。そもそも、剣技ってあの剣技のことだよな」
ヘインは剣技という言葉を知っていた。
――『剣技』 : 別名、英雄の必殺。昔話に登場する英雄が魔を退ける時に使用したと言われる神の力を自身の力に変換し、人間では不可能な攻撃を繰り出すというものだった。
しかし、それは、昔話で伝えられる。まさに、御伽話のようなものだと思っていた。
「良い質問ね。それには、悪魔の目的を教えなくてはいけないね」
ティリィーは湯のみを床に置く。
「悪魔の目的は簡単さ。親玉でもある邪神の復活。ただ、それだけなの」
「おいおい、待ってくれ。貴方が、神であるとか、この世界の破壊だとか、話が飛び過ぎだ。しかも、それがなんで、エルシーを狙うことになるんだ!」
「ごめんね。でも、今は信じて話を聞いて欲しい」
ティリィーが嘘をついてるようには見えなかった。しかし、それを信じるのは別の話であった。
「……続けてください」
「エルシーは信じるのか?」
「私は知りたい。なんで、私を狙うと言われた理由を……」
ティリィーがヘインに続けていいかという視線を送ってくる。ヘインは目を逸らした。ティリィーはそれを、肯定と受け取とり、話を続ける。
「続けるわね。その悪魔が復活させようとしている邪神が復活しても、すぐに、世界は破壊されないの。なぜなら、邪神に対抗するべく力が神と剣技を持つ人間にはあるからなの。すると、悪魔たちはこう考えた。邪神が復活する前に、剣技の数を減らせば、世界はすぐに壊すことができると……」
「待てよ、それじゃあ、エルシーは剣技を使える英雄だと言うのか?」
「――いや、正しくは、まだ英雄ではない」
「じゃあ!それと私がどう関係があるの?」
ヘインは気付いてしまった。
悪魔の言っていた剣技の『卵』
ティリィーの言っていた『剣技を狙う』悪魔の存在
そして、悪魔は『剣技に勝てない』こと
これらを組み合わせると答えはひとつ。
ティリィーはヘインの顔をみるなり、答えを示す。
「そう、エルシーさん、貴方には英雄としての素質。剣技の卵があるの」
「――え?まってよ!!私にそんな力はない!!」
「エルシーさんは気付いてないだけ……で、ここから、本題ね。エルシー、貴方には私とついてきてほしいの」
そう、エルシーは気付いてないのかもしれないが、ヘインは見ていた。
悪魔の腕を切り落とすとき、エルシーの周りにはオーラをまとっており、人間ができる技ではない、その姿を。
「それでね、アタシとついてきて、剣技を取得してほしいの」
「つまり、私があなたのもとで修行をするの?」
「そう、長くきつい修行になる。だけど、あなたを最強の英雄にしてあげる」
ティリィーが次の言葉を発するよりもさきに、ヘインは口を開けた。
「待ってくれ!剣技と神が対抗できるのがわかった。でも、神だけで邪神を倒せばいいなじゃないか!なにも、ティリィーを巻き込まなくてもいいじゃないか!!」
ヘインは、思わず立ち上がってしまう。
「いいえ、悪魔だけならば、神だけで対抗できるかもしれないわ。でも、邪神は違うの。邪神には、対抗する英雄の戦力が必要なの。実をいうと、神は、名前だけで素の戦闘能力は人間にも及ばない。神の各個人が持つ能力によって自身を強化しているだけなの」
その言葉に衝撃を受けた。
素手で悪魔の尻尾を切り落とした人の言葉なのか?
「ヘイン君はこう、思っているね。素手で悪魔の尻尾を切り落とした人の言葉なのか……と」
「!?」
「その顔はあたっているね。そう、あの力があっても邪神には数分でやられてしまうだろうね。だから私は、剣技の卵を育てなければいけない。それに、貴方達が住む世界なのに、神にすべて押し付けるのは違うとは思わないの?」
「そ、それは!」
ヘインは言葉を続けて出すことができなかった。そう、あたりまえの事を言われているのだ。もし、目の前の人が本物の神様だとしても、すべて神頼みなんておかしいのだ。
「ティリィーさん。ひとつだけ教えてほしい。もし、ティリィーさんとついていったら、この世界は、私達のように悪魔によって家族を失う人はいなくなる?大事な人の笑顔は守れる?」
「えぇ、約束するは、貴方をどんな敵も、災害も、すべてを弾く最強の英雄にしてあげる」
「わかった。私、ついていく」
「おい!?こいつがどんな奴だかわからないんだぞ!!今、言っていることだってデタラメかもしれないんだぞ!!」
「……そうね。アタシが嘘を言っているかもしれないと、ヘイン君は思うのね。だったら、貴方は要らないわ」
「――えっ?」
次の瞬間、ヘインは、不自然な風に吹き飛ばされる。
回転する風は、ヘインを包み込み、体を回転されながら台所へ飛ばされた。
「ヘイン!?」
「エルシー、行きましょう」
ティリィーは、立ち上がりながら、ヘインを見つめるエルシーの腕を持ち上げた。
「えっ?ヘインは?」
「英雄になりたいのなら、アイツのことは忘れるのね」
エルシーが連れて行かれる?
それは、駄目だ。エルシーを得体のしれない奴に連れて行かせるわけにはいけない
「その手!!!離せよ!!!!」
その声と共に、ヘインの周りに電流が走る。
「どうして、貴方が私の能力を使えるの?」
「五月蝿え!!!」
電流は、龍の如く周りの調理道具、家具を巻き込みながら、ティフィーに向かっていく。
しかし、電流がティフィーに触れる瞬間。光の手によって弾かれる。
「そうなのね。貴方、治療の時、私の能力を吸収したのね。……だから、私の雨の能力がうまくつかえないのね」
「何を言ってるのかわからねえよ」
ヘインも電流がなぜ、周りにほとばしっているのか。電流をなぜ、操れるのかがわからない。
しかし、そんな事関係がない。エルシーをエルシーを行かせてはいけない。それだけがヘインを動かす。
「まぁ、いいわ。剣技の卵に比べたら、そんな、能力くれてあげるわ」
ティフィーは、エルシーの側まで歩く。突然の出来事にわけも分からず、地べたに座り込んでいるエルシーだったが、ティフィーの違和感に気がつく。
ティフィーの光で包まれていた手が、闇に包まれていたからだ。
「何する気?」
そんな、エルシーの言葉を無視し、ティフィーはエルシーに手をのばす。
「眠りなさい」
エルシーに触れた瞬間、エルシーは糸の切れたように、倒れこんでしまった。
「おい!てめえ!何をした!」
ヘインは
「エルシーには、これから行うことを見せてあげないように、アタシなりの配慮なのだけれど?」
「何を言ってやが――」
一瞬で、ティフィーは目の前に現れた。
拳が、顎に向かって、飛んでくる。
その速さについていけるわけがなかった。
ヘインは殴りによって、空中を舞う。しかし、それだけで終わらない。ティフィーは追撃を行う。回し蹴りにより、横へふっとばされる。気が付くと、壁にたたきつけられていた。顔面に蹴りが食い込む。
息ができない。苦しい。痛い。視界が揺れる。どんどん、暗く。目の前が暗くなってくる。
「剣技の卵はアタシの話を聞いて、行くと宣言してくれた。もう、貴方がアタシの話を信じるか信じないかなんてどうでもいいの。これ以上、剣技の卵の決断を揺るがせることを言わないでほしいの。わかる?」
「はっきりいって今の貴方は邪魔。でも、貴方は、剣技の卵に気に入られているようだから、命だけはとらないわ。でもね、私も倒せないような人間が」
「――神の邪魔をしないでほしいわ」
「エル……シー……」
離れていくティフィーの後ろ姿が遠くなっていくと同時に、ヘインの意識も遠くなって、プツリと落ちた。