03 この世界の事
異世界に転生という数奇な経験をした俺、新生ウィリアムです。
この名前にも慣れ、異世界に素早く適応したのは、もともと日本にあまり未練がなかったのも理由の一つだと思う。
両親の事が気にならないといえばうそになるが、どうしようもないのであまり気にしないようにしている。
まぁ、王家に生まれた。というか、裕福な家に生まれたから困ることもないしね。
若干不便な事や不満が全くないわけでもないが、そんなものどんな状況でも不満はでてくるだろうから、現状で満足すべしって考えもある。
貧しい田舎の農家に生まれたとか、スラムに生まれたとか物語の定番のような設定じゃないことは本当にありがたいと思っている。
王子も定番ではあるのだけれども、他よりかなりましだろう。
俺は、勉強が好きじゃないが、気になる事を勉強することはまったく苦にならない。
例えば、この国の統治システム。
王家や貴族家のような特権階級が政務をこなし、国を治めている。
俺の父親であるヴィルヘルム・カイザー・フォン・グランオルフィード。
俺の正式名所はウィリアム・カイザー・フォン・グランオルフィードになる。
ちなみに俺には兄が一人いて、順当にいけば兄か兄の子供が次代の国王になる。
兄がもうすこし大きくなって、正式に王太子に任命されたら、俺の子供はグランオルフィードの名を名乗ることはできない。
この国の決まりだと、国王の子供、王太子の子供がグランオルフィードを名乗ることができる。
仮に兄が国王になっても、わざわざ違う名前を名乗らなくていいらしい。
俺に子供が生まれた場合は、国王の子供でも王太子の子供でもないので違う名前を名乗らないといけないという決まりである。
ちなみに俺の子供はカイザーの部分は名乗っても名乗らなくてもどっちでもいいらしい。
ややこしいね。
ちなみに階級社会はだめだとか、民主化しようとかは全く考えていない。
俺自身に不利益はないし、正直面倒だからだ。
どこぞの英雄のごとく民主主義国家に生まれ変わらせるとか意味がわからない。
そりゃ、時代の流れ的に必要ならやるかもしれないが、まだ表面的な事。それも一部しか勉強していない。つまりほとんど何もわかってない俺がそんなことが出来るわけもなく、またやる意味がないと思っているからね。
俺は現実主義者なのだ。
生前の日本を完全に再現するなんて時間の無駄でしかないと思っている。
しかもこの時代、どの国も間違いなく帝国主義国家である。
さらにお家騒動なんかも珍しくない。
訳のわからない理想論を掲げる前に保身だよね。
兄は3つ年上でちょくちょく会話もあるが、仲はいいし間違っても血なまぐさい兄弟同士の殺し合いは勘弁である。
なんの役にたつか分からない勉強や無駄な努力は嫌いだが、将来役立つ勉強や努力は苦にならないのでこれからも適度に頑張ろうと思う。
危険視される弟とか嫌だからね。
「おはようございます殿下」
「おはよう。 アデーレ」
彼女は母の叔母のアデーレ。
俺の教育担当である。
母の叔母なので、年は40代のはずだが、もっと若く見える。
母は最初に見た金髪の外人だったので、それと同じ美しい金色の髪を靡かせニコニコ顔で迎えにきた。
俺は、歴史や魔法・魔術・文字や数学なんかはしっかり勉強しているが、例示作法や貴族の身だしなみ、ダンス、社交界の勉強は嫌でよく逃げ出すのだ。
逃げ出すついでに白の中を探検するのが最近のマイブームである。
俺はまだ5歳なので、簡単なものしか教えられていないので、教育係はアデーレ一人である。
ちなみに剣術なんかの先生はもちろん別の人がいる。
剣術の先生は教育係ではなく、師匠だからね。
彼女が来たという事は勉強の時間が始まったのだ。
「はい。 文字はほぼすべて覚えてしっかりした文章も書けるようになりましたね。 算術も簡単なものはほぼ完ぺき。 殿下は大変優秀で毎回驚かされます」
「そういうお世辞はいいから。 そろそろ魔法・魔術について教えてよ」
そうなのだ。
この世界には魔法や魔術がある。
なのに、そのことについて全く教えてもらえていないのだ。
気になって気になって仕方がないというのに。
「概要を教えるのは構わないのですが、まだ習得はできませんよ?」
「どういうこと?」
「順を追って説明しますね。 まず、魔法とは何か。 魔法とは個人の資質によって発現する特殊技能の事を指します。 例えば、火を起こす魔法。 これは魔力を使い文字通り火を起こす能力です。 この時、火はその人がイメージしやすい形で現れますし、形を変えたりする事なんかも比較的容易にできます。 この火を起こす、火の形を変えるという事すべてを魔法といいます。 定義時代結構曖昧なところがありまして、魔力を使って何か現象を起こす事の総称が魔法といいます。 対して魔術とは、魔法を再現、もしくは部分的に再現したものを指します。 例えば火の球を飛ばす火弾。 この魔術は火の球を飛ばす事しかできません。 消費する魔力を調節して威力を調節するのがせいぜいでしょう。 魔術は始まりから終わりまでのプロセスがすべて決まっているものなのです。 昔から極わずかな人にしかできなかった魔法をもっとたくさんの人にも使えるようにと編み出された技能なのです。 魔法の欠点は極わずかな人しか使えない事。 魔術の欠点は魔法より魔力の消費が激しい事、一つの魔術では魔法よりも少ない効果しか出せないことです」
魔法は超特殊技能ってことか。
どうやって再現したのか分からないが、魔術を開発した人間は本物の天才だな。
「まだ習得できないのはなぜ?」
「魔法については習得方法が全く解明されていないからです。 魔法が使えるようになる人は15歳くらいまでに勝手に発現します。 魔法が発現しやすくなる方法もいくつか編み出されていますが、効果はいまいちですし、魔法は完全に個人の資質に関係してくるものですので、10人いれば10通りの魔法になります。 魔術に関しては、魔力保有量が増加するには体の成長と共にだんだんと増えていくので早く習得する人でも7歳くらいからじゃないといけませんし、幼いうちに魔術の習得をすることはいろいろな意味で危険だからです」
いろいろな意味でね。
魔力を使うには体力も消耗するのだろうか。
他には、魔術の暴発なんかもありえるか。
体内の魔力が空になった場合も何かあるのだろうか。
今考えても仕方ないことか。
アデーレは早くても7歳っていっていたから、それ以前は絶対に教えてくれないだろう。
それに今、無意味に俺自身がリスクを犯す必要もないな。
切り替えるか。
この世界の事情、この国の事情をもう少し詳しく聞いておいた方が自分のためになるかな。
「ふーん。 じゃあ、魔法関連についてはもういいよ。 それよりも歴史とか他国との関係が知りたいな」
「殿下は様々な知識に貪欲ですね。 礼儀作法にももっと貪欲になってもよろしいのですよ?」
「あははっ。 それはまたの機会にしておくよ」
「はぁ。 わかりました。 じゃあ少し詳しく説明しますね」
アデーレの話を纏めるとこうだ。
もともとは、巨大国家だったものが分裂。
その後は分裂と統合の繰り返しで、いくつかの勢力が台頭した。
そしてある程度時間が経つと勢力同士が拮抗してきた。
それが今の各国の原型になった。
このグランオルフィード王国を中心に考えると、
北のウェストバルド皇国。
北東の神聖キャスル帝国。
海を挟んで北西にアストラ・マグナムート連合王国。
ウェストバルドのさらに北にヴァルドロ帝国。
更に先にインディシオス聖王国。
このあたりがグランオルフィード王国と国力に差が無い国らしい。
南西にいくつか国があるし、南東には未開地が広がっているらしい。
ここ最近は拮抗したパワーバランスのおかげで大規模な戦争は起きていないらしい。
が、どの国も野心のある帝国主義国家だから油断はできないと。
まぁ、あきらかに中世っぽい世界だからね。
電気も水道もないし。
まったく近代的じゃないし、有名な国がここと同レベルなら間違いなく中世だろう。
まぁ、地球でも戦争だらけだったのだし、ここでも変わらないだろうな。
この時代だと領土と取ったり取られたりなんて当たり前の世界なのだろう。
それ以外にも魔の領域という魔物が住まう領域や迷宮なんかもあるらしい。
魔物の脅威が存在するのに戦争する。
まじで意味わからん。
けど、そんな事言ったってしかたない。
この国が戦争で負けてなくなるなんて勘弁してほしいからね。
せっかく王子といういいとこの生まれになれたのに、それがなくなるのは困るから。
5歳児にできる事なんて限られてくるけど、やれることはやりますかね。
はぁ。
なんか生前より働き者になってる気がする。




